90話 天神将と火龍の島
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ピートから神力とハグレ魔族について聞いた面々、色々な事が初めて聞くことだった。まさか魔族種が元悪魔で、しかも今現在本来の魔王が存在していると言う事に驚いた。
「現在本来の魔王が居ることは、他の大陸や各国の国王は知っているの?」
「そうだなぁ~一応耳にしている程度で半信半疑って所じゃねぇ~かな、実際会える人間は皆無だろう、この大陸から出ない限り会えないわけだし、会えるとしたら獣族くらい、イルレイア大陸の住人じゃないのかな」
「ねぇ、月宮」
「はい?」
「この領地にいるイルレイア大陸出身の者からそんな話は聞いた事ないの? 確か魔族も居たわよね?」
「はい、住民登録されている者には存在していますが、殆どが領内で生まれ育った者達です。先祖にルーツを持っているだけの者です」
「そう、それでも何かしら伝え聞いている事も在るかも知れないわ、少し話を聞いてみたいんだけど、会えるかしら?」
「畏まりました、小花衣と共に手配してみます」
「うん頼むわ」
「あぁ~だったら、魔族と獣族は別々に聞いた方がいいぞ」
「何で?」
「喩えここで生まれ育ったとはいえ、イルレイア大陸にルーツを持っていれば、魔族と獣族は領地争いの事は聞いているだろうからな、何を伝えられているかは不明だろう、それに今は国境線が敷かれているほどだ」
「仲が悪いの?」
「市民レベルで言えばそう悪くはないし、国レベルで言えば貿易協定はしているから交流はある。だがお前が現魔王について聞こうと思っているのなら、国レベルの話になるから別々の方が良いって意味だ」
「なるほど、そういう意味なら、そうね、魔族側から聞く方がベストかな」
長い話が終わり、そろそろ夕飯時刻になった事で会議はお開きになった、全員が食堂に行き共に食事をする、その後はそれぞれの部屋で過ごすことになったが、天神将のメンバーのみが居間でお茶やお酒を飲みながら何やら話をしていた。
「まさかお前が人間じゃ無かったとはなぁ~」
「全くだ」
「そりゃぁ素性隠す必要があったからなぁ、それにあのゲームの状況を調べる必要もあったんだ」
「そりゃ移植作業するんじゃ調べる必要はあるわよねぇ~」
「って事はだな、他の天神将は次元移動に耐えられなかったって事だな」
「神崎領に居ても絶対って訳じゃないからな、後は運次第、その結果転生って形を取った者も居るんだろうけど」
「あぁ~あの2人みたいにかぁ~」
「ルイス・ウィルシュタインで元水原拓馬とリリアナ・ベルフィントで元小山内琴音ね」
「まったくあれにも驚きだったよなぁ~」
「雪華が気づかなきゃ俺たちは解らなかった」
「雪華が気づいたのか?」
「あぁコイツの様子が少し変だったからさ」
「そうそうあの時じぃ~っと相手を睨んでたよな」
「ん~~だって気配がねぇ~なんか知っていたのよ、でぇ探っていたらあの2人の転生した魂だって解ったのよね、何で解ったんだろう?」
「陰陽師だったらそういうの解るんじゃねぇ~のか?」
「ん~まぁ死んだ幽鬼とかなら解るけど、生きている人間を探るにはかなり霊力消耗になるから余り使わないのよ、でもあの時、殆ど霊力使ってないのよ」
「マジで?」
「うん」
「覚醒が近いから解ったんじゃねぇのか?」
「………そういうもん?」
「あぁ神族の中でも上位クラスはそういうのは見抜ける」
「神族にも上位とかあるのかよ?」
「一応ある、ついでに言うと俺は上位だ」
「まぁ始祖の親衛隊ならそうなんだろうけど……」
「……まぁさっきも言ったけど、神界の話は聞かないことにしたわよね」
「あぁ~さっき言ってたな、でも聞いても問題ない事だったら良いんじゃねぇ?」
「あぁ元凶魔王復活の件もあるんだ、前も言ったけど多少なら良いんじゃねぇの?」
「ん~~」
雪華は少々困った顔をしていた、本人としては余り聞きたくないのである、実際覚醒したら人じゃなくなることが決定済みであり、人じゃ無かった頃の記憶を思い出すみたいな事をピートから聞いているため、気分的に嫌なのだった。
それを感じ取ったのは当然ピートである。
「まぁ雪華が気乗りしないのなら俺は話さない」
「えっ、マジで?」
「えぇ~聞いてみたいんだけどなぁ~」
「俺は雪華と友人のピートで在る以前に、神族で雪華に対しては臣下の立場だ、主である雪華が嫌なら話さない」
「そうだなぁ、確かに筋は通っている」
「主従関係なら仕方ないか……、でも知りたい……」
「人が知って良いことと、知らなくて良いことってやっぱりあるんだよ、だから悪いが我慢してくれ」
「そっか、解った」
「仕方ない、了解した」
ピートの説明で浅井賢吾と霧島廉も納得してくれた様子である、それを見て雪華は少しホッとした気分であった。その後は他愛もない話を少しして、就寝することになった。
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翌日は朝食後、冒険者ギルドに行く前に榊島、現在は『火龍の島』と呼ばれている場所に行くことになった。
「じゃ俺たちは廉の迷宮に行ってくる」
「そう、わかったわ」
「姉貴たちは『火龍の島』に行くのか?」
「えぇピートに確認して貰いたい事も在るし、魔石も欲しいしねぇ」
「なるほど、ピートの資金源って意味合いも在るんだな」
「それもある」
などと城の広い玄関ホールで話している天神将の4人と夏椰達、それをそばで聞いているのは他の家族と家令の月宮と雪華の執事小花衣である。
「小花衣、お館様を頼みましたよ」
「畏まりました月宮統括」
「えっ小花衣さんも行くの?」
「一応私の執事だからね、来るなと言っても来るでしょう」
「そっか……」
そんな事を言いながら弟達と話をしていた、そして他の家族も仕事に出勤するために玄関を出ていくのと一緒に雪華達も外出していった。また厳重警備については一旦解除をして通常に戻すよう雪華は月宮に命じた。
敷地内は広いため、各自馬車を使用して外出、徒歩で門迄行くと30分は掛かるためでもあった。門を出てそれぞれの方向に馬車は進んでいった。雪華は現状の島について小花衣に訊ねた。
「ところで小花衣、榊島じゃない今は火龍の島だったっけ、私今回初めて行くんだけど、どんな感じになっているの?」
「そうですね、前の島とは別物と思って頂いた方が宜しいかと存じます」
「別物?」
「はい私が知る前の島には魔素は在りませんでした、末期の時は行ったことが在りませんが、映像をみる限りでは魔素はあり、魔物が居ることは知っておりますが、現状では魔素濃度が以前と同じか解りかねますので、また魔物の数が多く力のある術師が何とか対応しているのですが、最近は手に余る事が多く死人も出ています」
「まぁ~あそこは魔核があるから魔物も増えるし強いと思うぜ」
「……あんたそれ知っているのに、こっちは放置したの?」
「お前の所有物だからな、下手に手は出せん、それに神崎家が出てるのに部外者が手を出せばそいつ等が俺に攻撃してくるだろう? 負ける気はしねぇがな」
「強い魔物って事はキメラとか?」
「恐らくもっと強いんじゃねぇか? 魔物にもランクはあるからなぁ、物理世界で出ていたキメラってそんなにランクは高くなかっただろう?」
「そうねぇ魔物ランク3って所だったかな」
「って事は現状を考えるとランク5以上が居てもおかしくはねぇ」
「魔物ランク5以上ですか??」
「あぁあの島には魔核があるからなぁ、魔素が濃いければ魔物のランクも上がるし発生率が高まるんだ、だから術師といえど普通の人間では太刀打ち出来ねぇだろうよ」
「そうねぇ、現状の冒険者に3桁レベルが居ないんだもん、うちの術師では手に余るわね」
「天神将なら余裕だし、スキルマスターなら数名で掛かれば敵じゃねぇだろうが、場所が場所だからなぁ、ラスボスが集合しているって思った方がいいぜ」
陰陽師では手に余る、確かにそうだと小花衣は思っていた、実際魔物1体に付き数名か十数名で対応する事で倒してきた経緯がある、最近魔物の数が多いと報告が来ていた事もあり、月宮とどうするか話していた事だったのだ。
「実はお館様がお留守の間、魔物の数が増えて対処に困っていた所だったのです、統括と相談をしてお帰りになってからご報告をしようと話をしていた所でした」
「そうなの? じゃ今回全部解決しましょう」
雪華は何だか楽しげにそう言って、小花衣に笑顔を見せていた、それを横で見ていたピートが溜息をついてジト目で雪華の顔を見ていた。
そうこうしている間に、馬車は島の入り口に着いた。馬車を降りた3人は周囲を見回していた、周りは在る意味閑散としている。なるべく人を近づかせないようにしているようだ。
「これは小花衣様、今日は何かございましたでしょうか?」
「いつもご苦労様です、今日はお館様をお連れしたのです」
「お館様?」
「ウィステリア領主様の雪華様です」
「こんにちは、あなたは門番?」
「あっはい、あの初めまして第一門番のウィルと、こっちはロブと言います」
「初めましてロブと申します領主様」
そう言って2人は片膝をついて挨拶をしてきた。そして雪華は2人を立たせて第一門番とは何ぞやと小花衣に聞いた。
「ここは第一門で1回目の身分確認を致します。この後まだ二つほど在ります」
「えらく厳重だな、そんなに危険視されてんのか?」
「魔素が強くなっていることと魔物を外に出さない為です」
「なるほど、じゃここからは歩きって事ね」
「いえ馬車で参ります、2門と3門の間はかなりの距離を取っております、途中で宿と食事が出来る程度の建物がございます、あと戻ってきた者の怪我の治療等が出来る程度の治療室もございます」
「……そこまでするの?」
「奥で狩った魔物は資金源となるのは冒険者をされているお二人ならお解りかと存じますが」
「なるほどねぇ~、じゃその建物には術師が居るわけね?」
「はい」
「なら、さっさと行きましょう」
雪華と小花衣は素通りできるがピートは別である、そのため冒険者カードを提示して問題なく通ることができた。
ピートの冒険者カードを見て驚いた2人の目を無視することにした。暫く30分程馬車を進めた建物が見えてきた。
「なんか建物が見えてきたな」
「あれがさっき言っていた建物?」
「えぇあの建物は交代要員の為のものです、そしてあそこに狩った魔物の解体を致します」
「解体をするの? ここで?」
「はいもう少し先にある第2門を通った後は、この場所あたりで解体をした方が安全なのです」
「……なるほど結界が張ってあるわね」
「さっきの第一門にも結界はあったぜ」
「あっちはそんなに強めじゃなかったわよ、でもこっちはかなり強いわね、月宮が張ったの?」
「はい、統括と私の2人がかりで張りました」
「そう」
建物の前で一度停まって、御者が扉を開け最初に小花衣が降りた、そして小花衣に促されて雪華が馬車を降り続いてピート・ルゥ・パートが降りた。雪華は周囲を探っていた、ピートも同じように探りを入れている。小花衣は建物の責任者が出てきた為、話をしに行った。
「なぁ~雪華?」
「何?」
「この結界弱くねぇ~か?」
「ん~~そうねぇ、正直な所弱いわね、とはいえ陰陽師的には強めなんだけどねぇ~」
「どうする? 結界張り直すか?」
「取り敢えず、奥の様子を見てから考えましょう」
「了解」
「お館様」
「あぁどうしたの?」
「ここの副責任者をご紹介いたします」
「お初にお目にかかります、ここの副責任者を勤めさせていただいております、ランズ・チェリジェヌと申します、ランズとお呼びくださいませ」
「副責任者? じゃ主責任者は誰?」
「篠崎様でございます」
「えっ、篠崎なの?」
「はい」
この副責任者という者の答えを聞いて、雪華は頭を抱えた、そして小花衣に詰め寄ったのだ。
「ちょっと待て、篠崎は他にも仕事をさせていたでしょ? 兼任させているの??」
「はい、六花の中でも篠崎は術師の統括責任者でもありますし、適任だと月宮統括が申しておりました」
「………あんた、それ過労死したらどうすんの! 信じられない!!」
「しかし、他に適任者がおりませんでしたので」
小花衣の言葉に対して雪華は怒りが沸々と沸いてきた、呆れるよりも怒りだったのは、この魔素の濃い場所にスキルマスターではない篠崎を配置したことに怒っていたのだ。
「小花衣……篠崎を殺すつもりか!」
「い、いえ滅相もございません、危険ならすぐに知らせるようにと伝えております、その時は私か月宮統括がこちらに来る予定になっております」
「でぇ~~その篠崎は今どこに居るのよ!!」
「恐らくこの先の第二門かと……」
「その第二門はここからどのくらいで行けるの!!!」
「ここから馬車で1時間くらいの所です」
「……1時間……」
「……雪華まずいぞ!」
「あぁっ!!!」
雪華と小花衣の問答を聞いている間だ、ピートは更に索敵魔法を展開していた、当然第二門にまで届く距離だ、ピートの言葉を聞いて雪華も索敵魔法で探りを入れる、そして表情が険しくなった。
「うっ、うそでしょ~~~」
「どうか、なさいましたか?」
「小花衣!! 篠崎に何かあったらあんた責任とれるのかぁ~~!!」
「雪華、今そんな事言っている場合じゃねぇ~、行くぞ」
「全く! 小花衣馬車で後から来なさい!!! 私たちは先に行く!!」
そう言うと、雪華はピートの後を追って、走り出していた、とんでもないスピードで走っていった2人の姿はすでに誰にも追う事が出来なかった。