9話 避難諸準備と公表
11月初旬、神崎領が広大になり、雪華が寝ずに二日かけて張った結界は完了した。その後雪華は魔力や霊力使いすぎで3日間寝込んでしまった。
その間の指示は既に月宮をはじめ小花衣や篠崎に指示をしてあるため大きな混乱はなく経過し、新しく領民となった元隣県の者達全てに身分証明書(IDカード)が説明書とともに配られた。
携帯していないと罰金刑に貸せられることも、また領内からの出入りはこのIDカードがなければ出入りが不可能になるため、絶対に無くさないこと、誕生日には指定された所で更新手続きをしなければならない事などの説明書きの冊子が渡されていた。
目覚めた後、直ぐに首都圏に入り結界を設置する作業に入る。あらかじめ首都圏にフェンスを立てていてもらった為、設置の前処置は直ぐに終わり、雪華が術者数名と一緒に結界を設置する。
結果領地と同じく三日寝込むことになった。
これが終了したと同時に、首都圏内の仮設住宅との設置に自衛軍が動いていた。雪華が目を覚ますと既に11月中旬に差し掛かっていた、そして大きな野球場ドームに大量の資材を確認して頷き、召還魔法でロックゴーレムを作り出した。
それを見た政治家や資材を準備した自衛軍が目を見張って逃げるものや攻撃しようとするのを、小花衣が制して収める。
その間雪華はゴーレムに命令し資材を二等分させた。役目を終えたゴーレムはそのまま消えていき、今度は二つに分けられた資材の一つに向かって、クリエイトスキルで野球場の半分くらいの大きさで高さもドームの天井ギリギリの高さまであるの四角いタンクができあがった、もう一つの方も同じものである。
その様子を見ていた、政治家や自衛軍は目を丸くして唖然とした。いったい目の前で何が起こったのかと、何度も目をこすって見直したり、ある者はVRMMORPGゲームハイフリーワールドでの魔法スキルを思い出している者もいた。雪華とタンクを平然と見ている執事の小花衣と護衛の篠崎を交互に見て説明を求めていた、その問いに対して執事は「当主の魔法です」と平然と言った。
「これが……魔法……」
「まるでゲームの世界か?」
「此は夢だ、夢」
など色々言っているのを放っておいて、雪華はタンクの上部に跳躍で登り、その中心にまで行き、15cmの正方形の蓋のようなものを作りその裏側に水の魔法陣を焼き付けその上に10cm程の水の魔石をはめ込み魔力を注いだ。
すると水が少しずつ流れたのを確認し、蓋を閉めた更に開けられないように結界封じを施した。下に降りてきた雪華はタンクの左側に二つほど普通の蛇口を魔法で造り、丁度中央あたりに水道管のような大きな物も造り5mほど延ばした。
その後もう一つの資材の場所に行き同じ様なことをすし、もう一つのほうから延びた土管のような物は丁度角張ったY字の様に重なった所を魔法でつなぎ、野球場ドーム外に繋がる出入り口まで延ばしていた。そこからはもう水道業者の仕事である。
「雪華殿、此はいったい何ですか?」
「貯水タンクですけど」
「貯水タンク……凄く大きいような」
「どこから水が……」
「あぁ~これ水魔法ですから、ほらこんな風に」
「君はこのリアルの世界でも魔法が使えるのかね?」
「高祖母が魔法使いだったので、使えるようですね、高祖母の残した魔法書を読んで詠唱も覚えましたし」
「……そうなのか、我々は使えるのか?」
「魔力は魂に刻み込まれたものなので、誰でも使えるという訳ではないですよ」
「なるほど……、少し残念だな」
と、いいながら手から僅かな水魔法の水を出していた。それを見た者達は唖然として、何が起こっているのか、手品か、種明かしは?等々色々言っていたが、手品はなく魔法だと言った。
そしてこのタンクは水魔法でタンク内は水で満たされるため、避難民に水不足にはならないでしょうと言った。
「それは飲めるのかね?」
「飲めますよ、小花衣紙コップをみなさんに」
雪華に言われてそこにいる全員に紙コップが配られ、自身とその従者のコップに水魔法の水を注いで飲んで見せた。害がない事を証明して見せて、あらかじめ水質検査をする人員も呼んでいた為、彼らは自分のコップに入れられた水魔法から出た水の簡易検査を行った。
「どうだ?」
「…………ミネラルたっぷりで綺麗な水です、水質は最高級です」
「本当か?」
「間違いないか?」
「間違い有りません」
「そろそろ30分程経つかな、タンク内に溜まり始めているから、蛇口をひねって水質検査でも何でもして確認して下さい」
そう言われて、検査員は大きなタンク二つの水質検査に走った、また政治家たち他の者達は恐る恐るとコップの水を飲み、美味しいと言う声があちこちから聞こえてくる。
「このタンクの上部に水の魔法陣と水の魔石をはめ込んでいるので、枯れることはないはずです、但し勝手に魔石を取らないように結界封印はしてあるのでどこにあるか探しても無駄ですからね」
っと一応釘を刺しておく、政治家なんぞという権力者は自分の利になることしか考えてないのと、魔石を独り占めしようと考えるものであると雪華は知っていた為だ。
「これで首都圏に避難してくる人を含めて水源の確保は出来たと思います」
「……わかった、礼を言う」
「礼は良いです、どっちにしても避難してくる人の対応は各自でしなければならないでしょうし、衛星が全部落ちたら連絡手段がなくなりますからね、それもどうするか考えておかないととは思いますけど」
「例の件の公表はいつにするのだね」
「仮設住宅が完成してからの方が避難してくる人も安心なのでは? それに避難してくる人の名簿も造っておく必要も有るでしょ、首都圏のあいている所を片っ端から仮設住宅を造るとかしないと、丁度気象レベルや地殻変動で緊急事態宣言は出ているんで、協力くらいしてもらえるように説得でもして下さい」
雪華はそう言うと、執事達と総帥に挨拶をした後、領内に戻っていった。
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11月中旬も終わりに近い頃、先だって中央政府に依頼していた自衛軍が大型の二階建て避難所を各所に設置、一部屋5人または3人や1人が暮らせて、個別のプライバシーが一定程守られる程度の部屋割りの物が出来ていた。
また障害者や介護が必要な高齢者専用の建造物も同じように造られている。それは元隣県だけではなく崩壊した神崎領が所属していた県にも設置がされていく。
建造物との間隔は法定に従ったギリギリの幅で確保した。なるべく多くの者が避難できるようにと造られていた。
水道に関しては各建造物の上に大型の貯水タンクが付けられており、それぞれの部屋で使用できる物となっている。ただこれはあくまでも仮説であって終の住処という訳ではない。
災害の間だけと言うため、最低限生きていけるだけの設備しかない為、各部屋には小さなキッチンらしき物はあっても台所はない。
1階に食堂があり炊き出しという名の食事が提供されるだけである。この炊き出しは基本ボランティアだのみとなるのだが、長期にわたったときのために各建物のリーダーと副リーダーを雪華自身が決めた、揉め事回避のためである。
11月下旬、神崎領の避難所開設がある程度形になり、これにより全ての報道機関はテレビ・ラジオ・インターネットを通じて同時に総理やその他執行部と気象庁の面々が並んで緊急放送として流した。
「……以上が詳細です、この情報を信じる方は首都圏か神崎領に避難をしてください。但し首都圏の避難所にも限りが有り国民全員が避難できるほどの土地がありませんが、神崎領主は避難を受け入れてくれると信じています。」
この政府による放送ジャックはまさに寝耳に水と言った者や、内容を信じる者、信じない者と慎重になっている者など様々である。
連日一日最低一回は流れる政府の録画放送を聞きながら、青筋を立てて怒り狂っている人物が一人いた。
「えぇ~~~と、雪華、大丈夫か?」
「何がです………」
「だから、その………」
心配したのは祖父母と父親や兄弟姉妹達である。放送内容は取りあえず良い、ただ最後の総理の発言に対して雪華は怒っている『領主は避難を受け入れてくれると信じています』という一文である。
「そ、そりゃね、避難してきたら追い返せないわよ。でも許容量ってもんがあるでしょうがぁ~~~!!!」
「まぁ、確かに」
「小花衣、総理に直通電話、まだ繋がるかしら!」
「はい、なんとか」
小花衣は、直ぐに携帯電話で総理に直通電話をした。そして雪華が直接抗議と要求を言いつけた。
政府の責任で全ての避難に必要な物資を揃えて送ってくれるようにと言ったのだ。いくら神崎家が大財閥とはいえ国民全員を賄えるほどの資金などない、国家予算を出せと、ある意味脅したのであるが、首都圏の避難民にも必要だからと拒否してきた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。