77話 ウィステリア家の晩餐と家族団欒?
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
2泊の野宿の後、雪華は馬車に乗らずに馬に乗り換え夏椰とともに隊列の真ん中を陣取って移動していた。当然スキルマスター2人も雪華達を同じ所に戻っていた。
ロドリア商隊は完全武装されたウィステリアの衛兵が守っている。
「なぁ~雪華、俺たちもここでいいわけ?」
「うん、良いみたいだよ、スキルマスターだしね」
「姉貴これって、帰郷凱旋って奴?」
「そうらしいわ、領主が目覚めたよって一度に知らしめるためには丁度良いって小花衣が言ってたわ」
「確かにそうだな、領主様の顔は見てみたいと思うのが人の心情ってもんだからな」
「そうみたいね、それとね夜は晩餐があるから皆も出るようにって言ってたわ」
「えぇ~~晩餐??」
「またぁ~~」
「王宮の時と同じだねぇ~」
「王宮よりは堅苦しくないでしょ、うちでするんだから」
「まぁ~そりゃマシだろうけど……」
「諦めなさい、今夜の晩餐を終えて明日一日旅の疲れを取ったら、ピートを締め上げにいくんだからね」
「許可出たのかよ?」
「えぇさっきは嫌み言われたけど、今回は納得してくれた感じね、相手があのピートとわかったら手を引いたわ」
「……って事は小花衣さんも巻き込まれたのかな、姉貴達の被害者だったりして」
「……それは聞いてないけど……」
「きっとそうだぜ」
「被害者は多いと思う、巻き込まれも多そうだ」
「ちょっと、今回はあんた達もピートを殴るんじゃ無かったの?」
「当然だ!」
「真実を吐かせるのは手伝う、けど喧嘩に巻き込むなよ」
「近づかなければいいんじゃないの?」
にこやかに、しかし少し額をピクピクさせながら級友に話す雪華達、そんな話をしている間に、領都の入り口まできていた。
既に歓迎ムードが真っ盛りって感じである、花火があがっているし、領民の歓声が大きく聞こえる。雪華は溜息を付きながら困った顔をした、それを夏椰が笑顔で愛想振りまいて手を振って頑張れっとニヤリといってきた、それを横目にジトッと睨んでから、歓声の中に入っていった。
盛大な出迎えの間をゆっくりと進んでいく衛兵と、馬に乗った雪華達、そして兄と小花衣が乗った馬車の後ろからロドリア商隊が続いていく。雪華は夏椰に言われたように愛想笑いと手を振って領民の声に答えていた。
「お帰りなさい領主様」とか「お目覚めをお待ちしておりました」等の声に混じって聞こえてきた一つの単語に雪華は耳を疑った、何故知っているのか?
そしてその言葉を発した領民を見て、馬から降りて質問をした。突然目の前に領主様がやってきた事でその親子らしき者達は戸惑っていた。
「えっと……」
「つかぬ事を聞くが、今何て言ったのかしら?」
「……始祖姫様って言いました」
屈託もなく悪気もなく笑顔で答える子供、まだ少年になっていない年齢だろうか、母親らしき人物が戸惑いながらも子供の手を握っていた。
「始祖姫……ってどういう意味合いで言ったのかな?君?」
「申し訳有りません、領主様がスキルマスターで始祖の魂を持つ者っという話を聞いています」
「えっ、聞いたってどっから?」
「ウィステリア資料館という場所にウィステリア家の歴史が見られる所です」
「ウィステリア……資料館?」
この親子の言葉に雪華は不穏な目で仲間を見て、更に小花衣を大声で呼びつけた。
「ウィステリア資料館って何? 報告は聞いてないんだけど!」
「申し訳ございません、お目覚め後、領内視察を終え直ぐに王都に旅立ってしまったので、お伝えできませんでした」
「雪華! 資料館についてはお爺ちゃんがお前が帰ってからでも問題ないだろうと言ったんだよ」
「そう……、でぇ何で始祖の魂を持つって言われるの?」
「資料館の内容から知ったのではないかと、後でご確認をしてください」
雪華と小花衣に春樹からの説明で、大きな溜息を付いた雪華、そしてその様子に不安を感じている親子に対してスキルマスター達は心配ないよと説明していた。
「ごめんなさいね、いきなり怖がらせたわね」
「いえ、あの間違いだったのでしょうか?」
「……あぁ~~その間違いではないのよ、とりあえず始祖の魂を受け継いでいるのは事実なんだけどね」
「本当?」
不安そうに聞いてくる少年に雪華は、しゃがんで頭をなでながら笑っていった。
「うん間違ってはいないわよ、でも私は始祖の魂を持っているけれど、まだ人間だから、それにね、これはまだ色んな意味で内緒にしないといけないことなのよ」
「秘密なの?」
「えぇとりあえず外国に対してはね」
「あの、領主様……」
「子供を叱らないでね、言っていることは事実だから」
「はい」
「でもこの件はまだ対外的にも内外的にも知られては困る時が有るので、出きれば暫く始祖の名前は封印して欲しいのだけど、他の人にも頼めますか?」
「暫く封印なのですか?」
「えぇまだこの名称は表に出せないというか、その時ではないので、それまでは領主様とかで呼んでくれるととても助かる」
「解りました、私の周りの者にはそう伝えます」
「えぇお願いね、時が来たら公表許可を出すわ、それまではウィステリア領主か公爵と呼んで貰ってね」
「はい」
雪華は親子に対して怒りはしなかったが釘を差しておいた、そして大きな溜息とともに再び馬に乗って城に向かった。
城に付くまで作り笑いの状態をキープにさすがの雪華も疲れたようだ、城に付いたらぐったり溜息を付いた。そんな彼女を出迎えたのは家族である。
「お帰りなさい雪華、無事に帰ってきて良かったわ」
「ただいまぁ、お婆ちゃん」
「お帰り、疲れたようだな雪華」
「父さん、ただいま疲れたよ、っていうか王都には観光で行ったはずなのよ、なのにぃ~~~」
さすがの雪華も父親には愚痴を言う、彼女にとっての味方で心を開けるのはまだ祖父母と弟と父親なのだ。
「雪華! お前の希望通りパロル隊長達のレベルアップは出来ているぞ」
「うん、報告が来ていたわお爺ちゃんありがとう!」
「私だって手伝ったんだからねぇ!」
「そうでしたね秋枝ありがとうございます」
「お帰り……」
「……ただいま、春姉ぇ」
和解した割には未だにぎこちないこの2人に、家族は気を使っている。当然だ雪華は幼少の頃この姉に殺されかけている。それを忘れる事など無理である。
「まぁとりあえず中でゆっくりしなさい、晩餐までまだ時間がある」
「あぁロドリアさんから茶葉を沢山購入したのよ、それを受け取って支払わないと……」
「そちらは私が対応いたします、雪華様」
「月宮、悪かったわね長い間留守にして」
「いいえ、こうして無事にお帰り下さいましたから、それで国王にはお会いに?」
「えぇ会ったわよ、あの手紙も読んできた」
「そうですか、では先王が誰なのかもお知りになったのですね」
「えぇ、まぁその話は中でしましょ」
そう言って、家令の月宮はロドリア商隊の代表に納品と代金を払った。ロドリアは暫くここに滞在するとの事だった。
客人と扱われているのは当然霧島廉と浅井賢吾である、彼らにも客間を与えられ今夜は宿泊になった。
晩餐の時間までの間、旅の疲れと汚れを落とすため入浴をそれぞれ行い衣服も整えた。当然王宮の晩餐で着用したものを着せられたのだ。これはウィステリア家の者は全員着ている。
晩餐には主要なギルドマスター達と、各地を管理している責任者達が夫婦で呼ばれていた。初めて雪華と会う者も居れば、王都にいく前に会っている者もいる。こういう場所は有る意味情報交換の場となることが多いのだ。
「領主様、ご無沙汰しております」
「あら松永さん、お久しぶりですね」
「領主様、今後は私に対してもそのような敬語は必要ございません、どうか三橋同様、松永とお呼び下さい」
「ん~みんなそう言うのよね、なんか申し訳ないわね」
「公爵様におなりです、それに至高の存在で有られます故」
「あぁ~~、そう言えば戻ってくる時に領民親子から私の事を『始祖』と言ってきた者がいたんだけど、まさかとは思うけど公表してないでしょうね?」
「滅相もありません、我らの方から公表はしておりません、恐らくウィステリア資料館を見た者が噂として流したのだと、冒険者仲間から聞いています」
「そう、やっぱり資料館か……、確認してから王都に行くんだったわ……後の祭りだけど……」
思いっきり後悔している表情をして、松永と話している雪華の側には、当然執事の小花衣がいたが沈黙を貫いていた。
「まぁ知られたのなら仕方ないけど、領内だけの話にしておいてね、冒険者達にも暫くは口止めをお願いね」
「畏まりました、しかし口止めには限界がございますよ」
「まぁ解っているのだけどね、王都に行って色々な状況確認して、今は対外的にも内外的にも公にするのは有る意味不味いのよ」
「それは、またどういった事で?」
「外交問題に他領関係でのバランスの関係かな、今の所は」
「陛下にお会いしたのでしたね、その関係って事ですか?」
「それだけじゃないんだけど、まぁとりあえずそれも含まれているから」
「畏まりました」
「頼むわ、あぁそうだ王都支部に関しては助かったわ、ありがとう」
「いえ、王都支部はかなり問題がございましたので、今回は逆に大変助かり感謝しております、今後は他の支部も多少規律を守ってもらえると考えております」
「えっ、他の支部もダメなの?」
「一番酷かったのは王都支部ですが、他の支部もやはり貴族が絡むことが有りましてね、今回領主様が王宮で大勢の貴族に対して発言なさったとロイド・三橋から連絡があり、ホッとしている所でございます、それにこれは冒険者ギルドだけではありません、領主様はギルド総本部責任者です、その責任者自らが今回動かれた事で他のギルドも綱紀をただすのではないかと考えております」
「………そんなに酷かったのぉ~他のギルドも……」
「はい」
「あぁ~そう言えば、王都で鍛冶職人がハルシェット辺境伯に捕らえられていたわねぇ、助けたけど……」
「何故ですか?」
「先祖に転生者がいたからって理由でね、家族諸共捕らえられて拷問を受けていた、まぁ辺境伯が人身売買をしていた事も証拠があったので捕らえられたんだけど、逃げられたのよ」
「逃げられた? 辺境伯がですか?」
「えぇ今頃イルレイア大陸にでもいるんじゃないかしら、影武者じゃなければね、でもまぁ生きていけるとは思えないけど」
「そんな事があったのですか」
「えぇ王都出た日にね、でも気になるんだけど先祖に転生者がいたってだけで、貴族から狙われるの?」
そんな話を松永と話している所に、職人ギルドのギルドマスターがやってきた。
「ご無沙汰しております領主様、また公爵への陞爵おめでとうございます」
「ありがとう、確か職人ギルドのギルドマスターでしたね」
「はい、アルビットです、その王都で拷問にあった鍛冶職人の名はお分かりになりますか?」
「えっと確かマットだったかな、奥さんがマツリさんで息子さんがロア君」
「ではそこにタルビットもいましたか?」
「えぇ拷問を受けて瀕死状態でしたけど治癒魔法で完治していますよ」
「はぁ~そうですか、ありがとうございます、タルビットは私の弟でございます」
「えぇ! そうなの?」
「はい、あの手紙が我ら兄弟の叔父が遺跡から持って帰ってきたものだったんです」
「あなたの叔父さん」
「私の父の弟で探検好きで、たまたま入った遺跡で見つけたと持って帰ってきたと言っていました、それを父がずっと持っていました、タルビットも好奇心旺盛でしたので、父が弟に渡したものだったのです」
「その叔父さん早くに亡くなったってタルビットさんは言っていたけど……?」
「はい今なら理解できます、あれは魔素過病だったのではと、この地に来て初めて知りました、あんな病があったとは……」
「知らなかったのね」
「ウィステリアは多種族共生の地、それ故にそういう病気があることを初めて知ったのです、それ以外の地域ではあまり知られていないと存じます」
「そうなの、でも何故転生者の先祖がいると貴族に狙われやすいの?」
「はい、転生者は300年前を知っている者です、たとえ子孫であっても何らかの形で何かを伝えられている可能性があると、考える貴族が多いのです」
「………何か利益でもあるのか?」
「詳しくは解りません、お貴族様の考えることは」
「おい、アルビット領主様も公爵様というれっきとしたお貴族様だぞ、失礼ではないか」
「あぁこれはとんだ失言でした、お許し下さい」
「気にしないで、逆に私が教えてもらったんだから、それにしても転生者が利益をねぇ~、まぁなるほどねぇ~」
そんな話を聞いた雪華が思ったのは、確かにある意味では利益をもたらすだろうと言うことだ、物理世界で生活してきたのだ魔素がない世界に慣れ親しみ、それ故に科学を発展させて戦争を起こして争いが耐えない世界だった。
それをこの剣と魔法が蔓延る世界に出現したら、正直危険である。だからこそピートを捜し出し情報をとる必要があるのだ。
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数時間の晩餐が終わって、皆が帰っていった後は、疲れたぁと呟く雪華とともに居間でスキルマスター及びウィステリアの家族が集まっていた。皆楽な服装に着替えて寛いでいた。
「ずっと誰かに捕まって話をしていたよね姉貴」
「あんたはずっと誰かと話して情報収集?」
「……まあそんな所だね」
「私の場合はお祝いの言葉とお初にお目にかかりますの連発よ! 愛想笑いも疲れるわ」
「それが領主の勤めでもあるだろう」
「解ってはいるけどねぇ~、王都とは別の意味でこっちの方が気を使う」
「あぁそう言えば、王都で貴族相手に挑発してたもんなぁ~お前」
「当然よ、舐められたら終わりよ」
「挑発していたのか? 雪華は?」
「えぇもう盛大に挑発していましたよ、どうやってこいつの暴走止めようかと夏椰と相談したくらいに」
「暴走した姉貴を止める相手は今はいないでしょ先輩」
「明後日そいつを探しに行くんだろうぉ~」
「あぁ~~そうだった、殺してやりたいわ、正直ね」
「おいおい、雪華殺すとはまた物騒なことを言うな」
「ふん、殺したって死なないわよアイツは!」
憮然と言う雪華の言葉に、家族は不穏な気配を感じて、どうしたのかと旅につき合った男3人に聞いていたが、雪華の口止めが在るため、今は言えないと言い切った。
「兎に角、あいつの話は、アイツにあって全てを白状させてからよ! じゃないと今後の為にも悪影響満載よ!!」
「まぁ~確かにそうだけど……」
「廉!」
「何だ?」
「ピートをシメた後は魔導工学に力を注いで欲しいのだけど、頼める?」
「それは元から頼まれてただろう?」
「うん、そうなんだけどね、ピートの発言次第では魔導工学にも影響が在る可能性が出てくるから、魔素還元に付いて先に調べておきたいのよ、いろんな意味で」
「なるほど、解った。とりあえずまずピートをぶん殴ってから取りかかるとしよう」
「うん、それでいいよ」
「おい、俺も忘れるなよ、俺も殴りたいんだからな」
「先輩達ぃ~それって今までの仕返しですか?」
「仕返しだな、巻き込まれ仕返しと今回のことも含めての事だ」
「夏椰も殴りたかったら俺達が許すぞ」
「俺は遠慮しておきます、これ以上被害に巻き込まれたくありませんよ、何を好き好んで規格外2人の喧嘩に巻き込まれなきゃならないんですか!」
家族が4人の話を聞きながら、何かとんでもない事をしでかしそうだと言うことだけは解った、そして月宮が雪華に質問してきたのだ。
「雪華様、領民の避難に付いてはこちらで任せていただけると言うことですか?」
「えぇ、そうよ、小花衣と一緒に任せるわ」
「畏まりました」
「避難って何だよ! 雪華、お前何をするつもりだ!」
「別に、ただピートの迷宮でひと暴れするから、地上に影響が起きないように結界は張っておきますよ、でも万が一を考えて避難準備だけはしておくように指示しただけです」
「……万が一って……」
「雪姉ぇ、まさかと思うけどピートさんと喧嘩でもするつもり!」
「そのつもりです」
「止めてよ! クレーターが出来るじゃない!」
「そこまで酷くはないでしょう」
「破壊神光臨だな……」
「ちょっと……春兄ぃまで何を言うんですか」
「噂くらい知っているぞ、お前達天神将の規格外2人の喧嘩の事はな、周囲への被害は数知れず」
「そこまで心配の必要は在りません、十分に結界を張りますので」
疑わしい目で見ているのは、当然元プレイヤー達である、全員が何らかの形で被害を被っていたからだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。