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第3話 初仕事

 しまむらで買った安いジャージに身を包み、僕たちは下水道の中を進んだ。

 僕の髪は三つ編みにした後、頭の後ろでぐるぐると巻いている。

 雅はちょこんと小さなポニーテール状。

 口元は一応マスクしてあるけど、全然役に立ってはいない。


 正直、とてつもなく臭い。

 それに汚い。

 一刻も早く帰りたい。


 だけど、心の底から無駄に使命感が沸き起こり、「逃げ出す」という選択肢が出てこない。

 これが使い魔として「魂を売り渡した」結果なんだろう。

 そう言いつつ、嫌な顔ができる、というあたりおおいに矛盾しているのだけど。


 ついでに、雅の真剣な顔を見ていると、何となく茶化してはいけないような気がした。


「あった」

 男の死体。

 ネズミがちょろちょろ動いているのが見えた。

「きゃあっ」

 雅が僕の後ろに隠れる。

 目が合った。

「な、何よ」

「何でもない」

 その死体には、人としての尊厳だとか、そういったものは何もなかった。

「さ、さあやるわよ」

 雅が電動のチェーンソーを取り出した。

 ホームセンターで売っていた安物。

 死体の始末、というのはそれほど難しい仕事ではない。

 これを細かく刻んで、より動物や虫に食べやすくすること。

 それがオーダーだった。

 難しくはないけど、正直やりたくない仕事だった。

 だけど、雅は積極的に動いている。

 容赦なく、死体を斬り始める。

 足を細かく分割すると、次は腹だ。

 そして、腹に刃を入れると、破れ目から、蛆がずわっと湧き出た。

「きゃっ」

 叫びを挙げた。

 そして、地べたにチェーンソーを置く。そして、死体から三歩離れて、吐き始めた。



 僕は駆け寄った。

 涙目で辛そうに吐いていた。

 吐くのは苦しい。

 知っている。

 男だったころ、何度戻したことか。

「後は僕がやるよ」

 僕はチェーンソーを取り上げて、刃を入れ始めた。

 皮膚を破り、肉を斬り裂き、骨を砕く。

 ついでに身につけていた衣服もいっしょにズタボロにしていく。


 うっ。

 食道をすっぱいものがこみ上げる。

 だけど。

 これ以上、雅にやらせるのか?


 見た目はともかく、一週間前までは男だっただろう。

 だったら、雅の前で弱音を吐くな。

 絶対に。

 自分自身に言い聞かせる。



 ほぼみじん切り、というレベルまでバラせたところで、ほっとため息をついた。


 後は汚物にまぎれて、自然に始末されていくはず。



「行こう」

「うん。ありがと。役立たずでごめん」

「気にするな。行こう」



 下水道の出口は港に繋がっていた。

 匂いは潮の香りに紛れて、だいぶ治まっている。

 あたりは真っ暗。

 まあ、午前二時の港をうろついているヤツなんて、ろくな人間じゃない。



 僕は汚れたチェーンソーを海へと放り投げた。

 そして、近くの海浜公園のトイレへと向かう。

 掃除用具置き場に隠しておいたバッグを取り出す。

 中身は着替えだ。


 そして、交代で、そこの水道を使って汚れを落とす。

 ホームレスの人にでも見られたら、大変なことになる。

 素早く、的確に。



 ジャージはゴミ袋に詰め、近くの集合住宅のゴミ捨て場に。

 ちょうど明日が燃えるゴミの日というのは、リサーチ済。



 さらに、その集合住宅を抜けたところに、駅の自転車置場から拝借してきた自転車が置いてあった。

 ここまで、これに乗ってやってきたのだ。



「帰ろう」

 雅が言う。


「うん」

 僕もそれに答える。


 そして、六畳一間の僕のアパートへと帰る。

 まず、何よりもお風呂に入って。

 一応、順番に。


 決して一緒に入るとか、そういうことはない。

 ないよ。女の子同士でも。


 そして、改めてスウェットに着替える。

 僕は、雅にベッドを提供することにした。

 雅は、特に遠慮もせずに、ベッドに横になった。

「おやすみ」

「おやすみ」


 僕らは泥のように眠った。



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