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10月9日(日)

 日曜日の午後、自室の椅子に座って本を読んでいると、


 ちゃりらり~ん♪


 机の上のスマホが鳴った。誰かからのメッセージが着た。


 最近の俺は誰かさんのせいで(おかげで)マメに通知を確認するようになってしまった。今まで面倒だと思っていたのに、その相手が変わるだけで、こんなにも自分の行動が変わってしまうとは……我ながら驚きだった。


 通知を見てみるとタケウチからだった。どーでもいーよーなくだらない内容だったので今は放置することにした。ヤロー相手だと、どうにもすぐ返す気になれないのが俺のチャームポイント。


 それから三十分後、再び通知音。どうせタケウチだろ、そう思いつつも、一応手にとって確認すると、相手はなんとタツミだった。


『やっほ。今ひま(ザリガニの絵文字)』


 ザリガニである意味も必要性もわからない。そこがタツミのチャームポイントか。俺は本を中断して、タツミに返事することにした。返事の文面を考えていると、あっちから追撃がきた。


『そこのお兄さん、ちょっと付き合ってくんない?(投げ縄の絵文字)』


 付き合ってやろう。俺はすぐに返事した。


『構わんよ』


『忍びねぇな(アフロの絵文字)』


 順序は逆だが、『忍びねぇな』、からの『構わんよ』、ときたら往年のお笑いコンビ『トータルテンボス』のネタだ。まさかタツミがトータルテンボスを知っていたとは。さすがはタツミだ。やはり俺とは気が合う。


『トーテンか、渋いな』


『いいよね、藤田 (煙の絵文字)』


『藤田がっていうか、ネタがな』


『いいよね~(セミの絵文字) なんのネタが好き?(クローバーの絵文字) 私は手の長い転校生 (猿の絵文字) と、ヒーローインタビュー(星の絵文字) と、レストラン(病院の絵文字)かな?(頭に天使の輪っかの絵文字)』


 俺はそこまでお笑いに詳しくない。トーテンのネタにどんなのがあったかちょっと思い出せない。


『そっか。俺はそこまでファンってわけじゃないから、ほとんどおぼえてないよ』


『じゃあ今度DVD貸してあげるよ(ライオンの絵文字) 絶対ハマるよ(シャチの絵文字)』


 俺はお笑いに詳しくないが、お笑いは好きだ。それにタツミが勧めるんだから面白いのだろう。そう思うと、今から観たくなってきた。それにタツミにも会いたくなってきた。口実としてはちょうどいいし、自然な流れだと思う。


『よかったら、今から貸してくれない? そんなに勧められると観たくなるわ』


『残念!(チョップの絵文字) 今、実は電車に乗ってるんだよね(カンガルーの絵文字) それで暇でしょうがないから連絡したってわけ(掌の絵文字)』


「なんだよぉ~」


 俺はがっくりときて、椅子に深く背を預けた。タツミと一緒にお笑いのDVDが見れると思って先走った気持ちの行き場所がなくなって、テンションがだだ下がりだ。おかげでメッセージのやり取りすら面倒臭くなってきた。それでも、この流れで無視を始めるのはどうかと思ったので、やり取りを終えるに相応しい流れになるまでは続けてやろうと思った。


『それは残念。じゃ、また今度ぜひ貸してくれ』


 よし、これで完璧に終わる流れが出来上がった。そう思った直後、


『あ!(カマキリの絵文字) 今終わらせようとしたでしょ!?(宇宙人の絵文字) 電車って凄く暇なんだよ?(包帯の絵文字) ちょっとくらい付き合ってよ~(鎖の絵文字)』


「はぁ……」


 俺はため息をついた。いくら相手がタツミとはいえ、ちょっと面倒になってきた。しかし、あのメッセージを見た以上、少しは付き合ってやるべきなのか。なんだか急にやり取りに義務感が出てきたような気がする。メッセンジャーアプリはやっぱり俺に向いていない。再び自覚させられた。


『ちょっとだけだぞ』


 と送ってやった。最低限の義務的メッセージ。さて、どう返ってくるかと待っていると、さっきまで爆速で返ってきたメッセージが一向に返ってこない。なぜだ? 何がいけなかった? 俺のせいなのか? それともタツミの身になにかあった? こうなるともうダメだ。俺は返信がないことが気になりすぎて、他のことに手がつかなくなった。読みかけの本を開いても、内容が頭に入ってこない。


「くそっ、だから嫌なんだよ……」


 メッセンジャーアプリに悪態をついた。メッセンジャーアプリのまた嫌なところが一つ見つかった。本当、俺にはつくづく向いていないアプリだった。


 返信がない原因を考えたり、考察したり、タツミの身を心配しているうちに一時間が経っていた。その間、俺はずっとやきもきしていた。そしてふと思った。


 俺はどうしてこんなにやきもきしてるんだろう? タケウチや他のヤローども相手にはなんとも思わないのに……。


 どうして? そんなのわかりきっていた。相手がタツミだからだ。相手がタツミだと通知は気になるし、逆に普段は気にならない既読無視がやけに気になってしまう。わかっている、俺はタツミのことが――


 そのとき、


 ちゃりらり~ん♪


 タツミからメッセージが着た。


『めんごめんご(目の絵文字) 電池切れちゃった(稲妻の絵文字) 今もう自宅 (要塞の絵文字)』


「なんだよ。心配させやがって……」


 俺はすぐに返信を送った。


『そっか。じゃ、今すぐトーテンのDVDを用意しろ! 俺は今、トーテンが見たくてたまらないのだ!』


『了解!(軍人の絵文字) じゃ、いつものコンビニで!(車の絵文字)』


 俺は上着を着て、スマホと財布を持って家を出た、すると、


「やっほ」


 玄関前にタツミがいた。小さなビニール袋片手にニコニコ顔。


「さぷら~いず」


 タツミが笑って言った。真っ白な歯が眩しい笑顔だった。


「ほい、じゃ、ちゃんと届けたよ。感想文の締切は明日の放課後まで!」


 そう言って、俺に袋を渡して帰ろうとするタツミを呼び止めた。


「上がってけよ。一緒に観ようぜ」


「うん!」


 メッセンジャーアプリは苦手だが、それでもタツミに会えたから、今日のところは良しとしよう。

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