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10月3日(月)

「いいかげん連絡先交換しない?」


 放課後、チャリで帰宅の道中、隣のタツミが言った。


「なにが()()()()()なんだ?」


「だって最近結構話すじゃん? だったらそろそろ連絡先交換してもいい頃合いだと思うんだけど?」


「ま、そうだな」


「なに? なんなの? 嫌なの?」


「嫌じゃないよ」


「だったらなんでそんな反応? 私と連絡先交換したくないの? だから今まで言わなかったの?」


「そんなわけじゃないけどさ……」


 横目でちらっとみると、あっちもこっちを横目で睨んでいた。睨まれても全然怖くなかった。凄んでいるつもりなんだろうが下手だった。きっとタツミは本気で怒ったりするのが苦手なんだろう。だからどう凄んだって結局可愛くなってしまう。先天的に怒りの似合わない女の子だ。


「俺から言い出さなきゃいけないってルールはないだろ。そんなに連絡先交換したかったんなら、もっと早く言えばいいのに。こっちだってやぶさかじゃないんだから」


「だって、自分から言うのはなんか恥ずかしいじゃん……」


 タツミが頬を少し染めて、やっぱり怒ったような表情。そしてやっぱりそれは可愛い。どうあがいてもタツミは可愛らしい。タツミがあんまり可愛らしいから、


「ちょっとストップ」


 言って、俺はチャリを止めた。タツミも少し遅れて止まった。俺はその隣まで行って、タツミの顔をそっと見た。


「どしたの? 急に?」


 小首を傾げるタツミ。


「いや、なんでもない」


 そうだ、正直には言えない。君があんまり可愛らしかったから、チャリを止めてまじまじと見てみたかったなんて、そんな言葉を堂々と言える俺じゃない。イタリア生まれならそれもできたかもしれないが、あいにく俺は純日本人。奥ゆかしさが売りなのだ。


「行こう」


 俺はそう言って、チャリを再び漕ぎ出そうとしたが、


「ちょっと待って」


 タツミの制止がかかった。


「今ここで交換しよ」


 俺は頷いた。俺たちは道路の端っこに寄ってスマホを取り出した。


「連絡先聞くのって、結構勇気がいるよね?」


 スマホを操作しながらタツミが言った。なにやら恨めしげな上目遣いで俺をチラッと見た。


「そうかぁ? 別にそんなことないだろ」


「じゃ、なんで聞いてくれなかったの?」


「俺、そういうアプリが結構苦手なんだ。通知とか見ると、急かされてるような気がしない?」


 こういったアプリは俺を一人にしてくれないから好きじゃない。一人でいたいときに、通知とかがあるとそれだけでなんとなく嫌になってしまう。かといって、円滑な人間関係のためにも無下にはできない。ほんとネット社会ってのは厄介だ。


「そう? 全然そんなことないけど。だから連絡先聞いてこなかったんだ?」


「そーゆーこと。俺から聞いててさ、返信遅かったりすると嫌じゃないかなって思って」


「私は全然気にしないから、いくらでも遅くなっていいよ。あ、でも暇で気が向いたときにはちゃんと返信してよ?」


「ああ、暇で気が向いたときにはな」


「うわぁ、その言い方だと全然返ってこなさそうな感じ」


「最長三週間返さなかったこともある」


「うえぇ、それって相手怒ったりしない?」


「怒ったりするようなヤツとはもう続けないから、こっちとしては何も問題ない」


「マツザキくんって結構無精なんだね」


「これだけだ。ほかはマメな男だってあるところでは有名だったり無名だったりするんだぜ」


「意味不明」


 俺たちは笑った。やっぱりタツミとは気が合う。こんな馬鹿な話ができる異性はそうはいない。苦手なコミュニケーションアプリでも、できるだけ早く返事を返したほうがいいかもしれない。可愛くて気が合う異性なんて、とっても貴重だもんな。大事にしないと。


 連絡先の交換を終えて、俺たちは再びチャリを走らせた。日没一時間前。西日が背に暑い。東の空に夜が迫っていた。


 そういえば、聞いていないことがあった。


「なんで自分から連絡先を聞くのが恥ずかしいんだ?」


 タツミは恥ずかしそうに笑って、


「だって、こういうのって普通は男の子のほうから聞いてこない?」


 なんてことを言った。その感覚、俺には全くわからない。ただ面白かった。タツミにとってはプロポーズみたいなもんなのだろうか? それにしても古い考え方のように思える。笑っちゃいけないのかもしれないが、俺は思わず笑ってしまった。


「お前ってホント変わってるよな」


「だってだって、今までは全部男の子の方から聞いてきたんだよ? だから、そういうもんだって思うじゃん?」


「モテモテだな。あやかりたいもんだねぇ」


「マツザキくんはモテないから連絡先聞かれないもんね?」


「馬鹿言っちゃいけないよお嬢さん。今日なんと初めて女の子の方から俺に連絡先を聞いてきたんだ。それがまたとびっきりの可愛くていい子なんだ」


「マツザキくんにはもったいないくらいのね~」


 いたずらっぽく笑うタツミ。そしてやっぱり可愛らしい。可愛らしく生まれついてしまった女の子はどうしても可愛らしくなるらしい。男どもが連絡先を聞きたがるのもうなずける。


 たしかにタツミは俺にはもったいないくらいの女の子だ。可愛くて、気が合って、男どもにも大人気。小マメな連絡なんて面倒で苦手だけど、相手がタツミなら少しは頑張れるかもしれない、そう思った。また、それだけの価値がタツミにはある。そんな子が自分から勇気を出して連絡先交換を申し出たのだ、大事にしないとバチが当たる。

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