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俺の日常に突然美少女が現れた ~俺とタツミさんの青春ラブコメディな365日~  作者: 摂津守
9月

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9月29日(木)

 ねっとりとしたキスだった。大人のキスだ。水気たっぷりの滴るような淫靡な音が、暗く狭く静かな体育倉庫にかすかに響いていた。


 採光口からスポットライトのように差し込まれる小さな光に浮かび上がる二人を、舞う埃が光にきらめき幻想的に彩る。四本の腕が絡みあい、指が互いを求めるように弄り合う。言葉はない。そこにあるのは動物的本能だけだ。弾み漏れる苦しげでありながら喜悦を含んだ喘ぎと吐息が唯一の音声表現だった。太古から変わらない愛の確認作業。人類がいかに成熟しようとも、変わらないものがここにある。いかなる飾られた愛の言葉であっても、知的な囁きであっても、肉体の接触には敵わない。


 禁じられた二人の熱く燃え上がる瞬間。二人とは逆に俺たちは冬の湖面より冷たく白く凍りついていた。息を殺し、気配を消し、ボールが大量に入った籠と積み上げられたカラーコーンの物陰に、俺とタツミはひたすら隠れていた。


 ウンノとニシオのキスを、俺たちはただひたすら隠れ、探偵か犯罪者のように盗み見ることしかできなかった。


 隣のタツミをチラッと横目で見た。タツミは顔を赤くし、バグったパソコンみたいにフリーズしていた。二人の情事から目をそらすこともなければ、瞬き一つしていなかった。それが普通の反応だ。初見であんなものを見せられたら、頭がフリーズしたっておかしくない。俺はこれ以上タツミを見ていられなくてタツミから目をそらした。キスするカップルを目の前にして、可愛い女の子の顔を直視するのは色々と難しい。


 俺は二度目だからタツミのような反応はしない。ただ、見ていて気分の良いものじゃないし、さっさと終わらせて出ていってもらいたかった。こんなすえた匂いの充満した、カビと埃にまみれたところでジッと息を殺し続けるのは結構な苦痛だった。同時に、よくこんなところで長々とキスができるもんだと感心したし、恨めしくも思った。


 まだ二人はキスしている。もう三分は経ったと思う。それでもまだキスを止めない。むしろ挙措動作は激しさを増しつつある。


 まさかやつら、ここでその先に進むんじゃないだろうな……?


 嫌な予感がした。そんなことになったらどうすればいい? やっぱり隠れているべきか? それとも「流石にそれはあきません」と、止めに入るべきか? もしくは不純異性交遊の決定的瞬間をスマホのカメラで撮り……いや、それは俺の趣味じゃない。俺はそこまであくどくない。ま、とにかくこれ以上先に進んでもらうと、こちらとしては非常に困るので、俺は心の中で二人がキスだけで満足することをひたすら願った。


 願いが通じたのか二人はキスだけで終わった。二人が密着した部分を離すと、名残惜しそうに唾液の糸が光の糸のように輝いた。俺はその生々しさに辟易した。勘弁してくれよ! 心の中で叫んだ。二人にとっては素晴らしい愛のシーンなのだろうが、俺とタツミにとってはとても非常に死ぬほど気まずいシーンだった。親と見ている映画でベッドシーンが始まるくらいの気まずさだ。


 俺の体感だと、二人はたっぷり五分以上もキスをして、そのあと小声で何事をかをささやきあったあと、先にニシオの方が体育倉庫を出ていった。そこから少し間を空けて、ウンノが出ていった。体育倉庫に平和が訪れ、俺とタツミはやっと二人きりになった。


「はぁ~……」


 タツミが盛大なため息をついた。俺が今まで生きてきた人生の中で聞いた、一番大きなため息だった。その気持は俺にもよくわかる。俺はタツミに向かって深々と頷き、同意の意を示した。


「あ~、あっつ~……。あの二人……そうだったんだ……! はぁ……」


 タツミは真っ赤な顔を両手でぱたぱたとあおいだ。たしかに暑かった。二人の熱気は体育倉庫内の温度を数度上げたらしい。それだけ情熱的だった、ということだろう。


「あれ? マツザキくんは意外と冷静だね? クールガイ? 冷血漢?」


「冷血漢は意味が違う。ま、俺はあの二人の関係知ってたからね」


「えぇっ!? マジんこ!?」


「マジんこ。前に一度似たようなことがあったんだ」


「それは……なんとまぁ……ご愁傷様です」


 俺は苦笑した。本当にもう、苦笑するしかなかった。


 俺たちは言葉少なく体育倉庫を後にした。お互いに顔を見るのも難しかった。あのキスが映画なら語り合うこともできたが、現実だとそうはいかない。俺とタツミは男であり女だから余計にだ。なんとなく照れるような、恥ずかしいような、気まずいような感じで今日のところは別れなければならなかった。


「じゃね」


「じゃな」


 そう言って別れた後に、ふと振り向くとタツミと目があった。タツミは驚き、顔を赤くして、やけに丁寧な会釈をした後、大げさなはにかみを見せ、小走りに走っていった。わかる、わかるぞタツミ。俺も同じ気持ちだ。こういうときはなんだか気恥ずかしいよな。鏡がなくても、自分の顔が赤くなっているのがわかるくらいに。

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