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9月13日(火)

「今日も暑いね~」


「と君が言ったから九月十三日は灼熱記念日」


「嫌な記念日だね~」


 タツミが笑った。ガリガリくんソーダ味を美味しそうにかじる彼女は、この日差しと相まってとても眩しい。


 放課後、俺たちは途中でコンビニに寄って買ったアイスを公園で食べていた。この九月だというのにクソ暑い日の中で俺たちがやるべき最優先事項だった。


 暑い日のアイスほど美味いものはない、と俺は確信している。肌を焼く熱の感覚と、アイスを噛むたび口中から胃にかけて冷えてゆく感覚のアンマッチな感じが最高だ。


 ちなみに俺が今食っているのは、ガリガリくんコーラ味。今日はソフトクリームな気分だったのだが、タツミがゴリ押ししてきたので、俺はその熱意に負けてしまった。でも、悪くはなかった。タツミ、彼女はなかなかいいセンスをしている。俺は彼女をひっそり見直した。


「マツザキくん、子どもたちが水遊びしてるよ~」


 俺たちが座るベンチの正面、少し離れたところに水浴びができる噴水があった。子どもたちはそこで全身びしょ濡れになってキャッキャと遊んでいた。手に水鉄砲を持って撃ち合っている。悲劇のない銃撃戦の頭上には絶え間ない水しぶきで虹がかかっていた。


「まさか、子どもたちにまじってやりたい、なんて言い出すんじゃないだろうね?」


「うぅっ、ぎ、ぎくぅっ! ま、まさか、そそ、そんなこと言うわけな、なな、ないじゃん! だって私たち高校生だよ!? 大人だよ!?」


「うぅっ、ぎ、ぎくぅっ、て言ってるじゃん。顔にも声にも出てるぞ。タツミって本当、嘘が下手だな」


「今のはちょっと顔に出ちゃっただけ! 私、本当はとっても嘘が得意な女なのよ……」


 妖しく微笑むタツミ。影のある、妖艶な女を演出しているつもりらしい。


「ほーん。じゃ、嘘ついてみて」


「嘘ついてみて、って言われて嘘ついたところでバレバレじゃん!」


「たしかに」


「でも、嘘ならとっくについてるよ? マツザキくんは気付いてないみたいだけど」


 うふふ、と意味ありげにタツミは笑った。内容もそうだが、なかなか興味深い笑いでもあった。タツミとこうやって話すようになってそこそこ経つが、こんなに興味をそそる笑いを見たのは初めてだ。内容が内容だけに、その笑いの真意がとても気になった。


「へー、どんな嘘ついてんの?」


「そんなの言うわけないじゃん。嘘ついてるんだから」


 さりげなく聞き出す作戦は失敗に終わった。まだ手はある。


「ガリガリくん一個でどうだ?」


「安いよ! ってか言わないよ!」


 買収も失敗した。かくなる上は、


「おねが~い、おっしえって~ん」


「なにそれ、キモい」


 意表を突く、くねくね甘えん坊作戦も失敗に終わった。ほとんど同時に、ガリガリくんの最後の一欠片も口の中へとおさまった。


「そろそろ帰ろっか」


 タツミが言った。俺は頷いた。そこで嘘についての話は終わってしまった。結局、何時、どんな嘘をついたのか聞き出せないまま帰宅してしまった。


 家に帰ってから、なぜかタツミの嘘が気になって仕方がなかった。晩ごはんを食べてるときも、風呂に入っているときも気になった。結局ベッドに入ってからも気になってしまった。


「タツミめ……」


 目をつむると、あの意味ありげな笑顔が瞼の裏に蘇る。よく考えたらガリガリくんを食べて以降、ずっとタツミのことを考えてるような気がする。たった一言なのに、あの言葉は呪いのように、俺の思考をタツミへと誘導する。


 気がつけば夜も更けていた。最悪だ。青少年は睡眠こそ大事なのに、今日はなかなか眠れそうにない。

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