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9月11日(日)

 昨日、買い物に行ったから今日は家でゆっくり過ごそうと思ったのだが、俺の若い精神と肉体がそれを拒否した。精神は暇を訴え、肉体は動き出したそうにうずうずしていた。若く健康な身空が一日中家で何もせずにいるなんてことは不可能なのだ。というわけで、俺はチャリの鍵を手に、家を出た。


 チャリに乗ってあてどもないサイクリングツアーへと出かけた。よく晴れていたが、それほど暑くなかった。夏は去ったといっても過言ではない。風が気持ちよく、絶好のサイクリング日和だ。


 しかしいざ夏が過ぎるとなぜ寂しくなるのか? 胸にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚があった。あれだけ鬱陶しく思えた夏も、秋になると急に切なく思い出されてしまう。人間って都合がいいな。いや、俺が都合がいい人間なのか。


 公営住宅地を抜け、国道へと出た。大きな国道沿いの小さな歩道を走った。この国道はチャリの歩道走行が許可されている。しかしそれは最近の出来事で、数年前に国道を走ったチャリダーがトラックにはねられてお陀仏になったのが契機となって今にいたる。毎年、冬のある日になると、そこには花が供えられる。


 国道から途中で小さな道へと折れた。そこからわずか二百メートルほどで、急に田園地帯が現れる。舗装もされていない、地元民しか使わない道をチャリで走った。丁寧に気をつけながら俺は進んだ。そこから約十分(じっぷん)走ると、県道にでる。片側二車線の県道のすぐ側を川が流れている。一級河川の支流であり、コンクリート護岸された味気のない無機質な川だ。そこの堤防沿いの道へと入った。


 堤防沿いは桜並木だ。春はそれは立派なピンクの花道となり、酔っぱらいが酒を飲む原因となるが、しかし今は時期が時期なのでただの緑豊かな木に過ぎない。しかも桜は毛虫がつきやすいので要注意だ。この近辺に皮膚科が多いのにも、この並木道は一役買っているに違いない。


 桜並木を抜けるとさっきの県道に出る。県道を大回りしてまた一つ川を越えた。これも小さな川だ。その川沿いにしばらくチャリを飛ばし、いいところでその川の反対側へと戻った。回転寿司屋前の小さな橋だ。いつぞや、タツミがお友達と出てきたあの寿司屋だ。


 家はもう目の前だ。たっぷり一時間以上は走っただろう。いい運動になった。少なくとも家でじっとしているよりは有意義な時間だった。


 家に帰る僅かな道中、おそらくは家族一緒に車に乗っているタツミを見かけた。トヨタのアルファードだ。俺はあまり好きじゃないがいい車だ。さすがに車に乗っているやつに声をかけるわけにもいかないので、俺はただタツミを乗せたアルファードが遠ざかってゆくのを見送った。


 家についた。いい汗をかいた。タツミとは話せなかったが、姿を一目見ることができた。

 ま、悪い一日じゃないだろう。

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