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9月10日(土)

 今日は休み、というわけで、タケウチとイシカワとカワナ、そして俺の四人で街へ出た。電車で約二十分の繁華街だ。適当に喋りながら歩き回り、服を買い、飯を食った。最後に、全く俺の好みとはかけ離れたおしゃれ過ぎるカフェで休憩した。


 そこでタツミを見かけた。店の一番奥、隅っこの席だった。

 今日のタツミは、俺史上一番おしゃれだった。白い、清楚極まりないワンピースに、美容院でしっかりと金を掛けられた髪がぴったりマッチしていた。身につけている小物も主張しすぎず、アクセントとして調和し、タツミ自身をよく引き立てていた。特に薬指の指輪は白く長く細い指と相まってとてもきれいだった。


 そんな麗しの美少女然としたタツミの正面には、高身長イケメンが座っていた。地黒な感じが鼻につくタイプのイケメンだった。二人は向かい合っていかにも楽しそうに談笑していた。見てるとなんだかムカついていた。


 俺たち四人の中でタツミに気がついたのは俺だけだった。俺はあえてそのことを口には出さなかった。なんとなく不愉快だったからだ。いや、なんとなくというのは嘘だ。本当はよくわかっている。ただ、それを口にだすことも、考えることも、認めることすらも嫌なだけだ。


「おい、マッチャン! なんか暗くね?」


 タケウチが言った。マッチャンとは多分俺のことだ。そんな呼ばれ方されたのは初めてだが、ここでマッチャンと言うと俺しかいないし、タケウチも俺を見ながら言ったのでまず間違いはない。


「ほんとだ。大丈夫かぁ?」


「体調悪いのかぁ?」


 イシカワコンビは俺を心配し始めた。

 体調は別に悪くないが、気分はあまりよくなかったので、二人の言葉に乗っかることにした。


「なんかちょっと疲れたみたいだ。俺、先帰るわ」


 そう言って、俺は買い物袋を手にとって席を立った。


「おいおい、マジか」


「大丈夫か?」


「一人で帰れるか?」


 三人が心配してくれた。三人ともマジな顔だった。


「大丈夫大丈夫。じゃ、またな」


 俺は足早に店を出た。

 時刻は午後三時。中途半端な時間だ。真っ直ぐ帰るには早すぎる気がした。かといって一人で街にいるのもつまらない。とりあえず地元に戻ることにした。


 帰りの駅のホームに立っていると、


「マツザキく~ん!」


 声がした。振り向くと、タツミが大きく手を振りながらこちらに向かって走ってくる。


「タツミ……」


「マツザキくんも買い物だったんだね……!」


 息を切らせて駆け寄るタツミの額には大量の汗が浮いていた。かなりの距離を走ってきたに違いない。


「彼氏はいいのか?」


 言った直後、そんなことを言うべきじゃなかったと後悔した。だが、タツミの答えは意外なものだった。


「彼氏じゃないよ。友達のお兄ちゃんだよ!」


「友達の兄貴と、なんでデート?」


「デートっていうか、お兄さんに彼女が出来たから、彼女への誕生日プレゼントを選ぶために一緒についていっただけ!」


「別に嘘つかなくていいよ。そんなの妹さんに任せときゃいいじゃん」


 タツミは俺の言葉にムッとした。俺は、しまった、と思った。


「嘘なんかついてない! 友達が都合悪くなったから、たまたま二人になっちゃっただけだって! 私だって二人きりは嫌だったんだから」


「そのわりには楽しそうにしてたよな」


 俺はまた、しまった、と思った。しくじりすぎているが、言葉が止まらなかった。

 また怒らせてしまったかと思ったがそんなことはなかった。タツミは怒れる瞳を急に和らげると、ニヤニヤ笑った。


「だからあの三人組と遊ぶの止めて、突然一人で帰ろうとおもったんだ? 私が楽しそうに男の人と喋ってるのを見て、気分が悪くなっちゃったんだ?」


 タツミ、お前人の心が読めるのか? そう言ってやりたいほど図星だった。あまりにもその通りだったから、俺はもう何も言えなかった。


「ウソウソ、ごめんごめん! でもマツザキくんだって悪いんだよ、私の言う事全然信じてくれないから、ちょっと意地悪したくなったんだよ!」


「ん、そうか……」


 としか言えない自分が情けなかった。とにかく今日の俺は情けなかった。


「ね、一緒に帰ろ?」


「ああ……」


 電車が来たので、二人で一緒に帰ることになった。午後三時、電車が混むにはまだ早い時間だった。俺たちが乗った車両には他に誰もいなかった。広々としている空間で、俺たちは隣り合って座った。


「ねぇ、まだ怒ってるの?」


 席につくなり、タツミが言った。俺は首を振った。


「いいや、怒ってないよ。それより、ごめんな……」


 何に対して謝っているのか、正確なところは自分でもわからなかった。しかし俺はタツミに対して謝ることがたくさんある気がしたので、とにかく謝る必要があった。


「いいよ」


 タツミは笑って言った。俺はほっとした。タツミの優しさはいつだって俺をほっとさせてくれる。


 しばらくして電車が動き出した。タツミは疲れていたのか、俺の肩に寄りかかってきて眠ってしまった。本当は俺も疲れていて、とても眠かったが、二人して眠るわけにはいかないだろう。それに、今日の俺は反省すべき点が多々あった。タツミが眠っている今のうちなら、ゆっくりと反省できるはずだ。

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