7月6日(木)スク水姿鑑賞同盟 後編
好き勝手自由気ままに書いていたらこんな文量に。
変なところもあるかもしれませんが、そこはコメディですのでノリと根性でよろしくおねがいします(笑)
さて、俺はまんまとタケウチの口車に乗せられて、只今絶賛、女子が水泳の授業を行うプールのすぐ側までやってきてしまった。
そこで気がついた。なんで今この瞬間までこんな単純なことに気付かなかったんだろうかってくらい単純な問題に今更ながら気付いてしまったので、俺はこの問題を率直にタケウチにぶつけてみた。
「やぁやぁ、タケウチよ」
「なんだい、マツザキさんや」
「こっちから女子の姿が見えるということはだな」
「ふんふん」
「あっちからも俺たちの姿が見える、ということだよな?」
「ふんふん、それで?」
「いや、それでってゆーか、それが問題なんだけど……」
「ああ、なんだ、そんなことか。マツザキよ、逆だ、逆。あっちからもこっちからも互いに見えるから良いんだ。考えても見ろ、盗撮がなぜいけないことなのか? 隠し撮りがなぜモラルに反するのか? それは自らを隠蔽しつつ、普段見せないようにしているモノを無理に見ようとするからだ。わが校のプールが敷地外側にはフェンスと垣根があるだろ? あれらは見せないためのものだから、あれらを突破して覗けば通報ものだ。それは犯罪行為だし、モラルにも反する行為だからたしかに問題だ。だが、今俺たちがいる学校敷地内側にはフェンスはない。事故防止の観点からも学校側からはプール内がある程度は見えた方がいいってわけだ。見えたほうが良いものが見えてしまってもなんの問題もないだろ? つまり俺たちが今やるべきは敢えて隠さずさらけ出すことと、決して無理に見ようとはしないこと。それが一番大事なんだ。モラルとマナーとリーガルを守って、女子のスク水姿を紳士的に拝むのだ。されば与えられん」
あえてタケウチの発言の内容には触れないが、また一つ疑問が浮かんだ。
こいつ、何故にこういうときだけやたらと口が回るんだろう? 普段からたしかにおしゃべり野郎だが、こと今回に関しては立て板に水のごとし、まさに懸河の弁だ。
全然羨ましくないが、素直にスゴイとは思う。
「お前って、本当にスゴイな」
「よせやい」
タケウチはまた素直に照れた。そんなところを褒められても照れるところ、やっぱりタケウチはスゴイと思う。マジで。
「さぁさぁ、マツザキ、いよいよだぞ! 麗しの水の花園はすぐそこだ! 覚悟はできたな? 俺は出来てる!」
ニカッと7月の太陽にも負けないほど眩しく爽やか過ぎる笑顔のタケウチは、本当にこういうときだけはいつにも増して輝いて見える。こっちは逆に引いてしまうほどに。
「お、おう……」
「なんだなんだ? まだビビってんのか? ま、無理にとは言わねーよ? ビビりに女子のスク水を拝むのは土台無理な話だからなぁ!」
「ビビってなんかねーよ。大体、プール横を通り過ぎるだけだしな」
「フフッ、さすがマツザキ、もうすっかりわかってるじゃあないか」
ニヤリと笑うタケウチ。その同志とか共犯者に向けるような笑顔は止めてほしい、気味が悪いから。
「マツザキ、最後に水と戯れる天使たちを鑑賞するのに大事な心得を授けてやる。スク水天使たちを視認することができるのは、すぐそこの唯一開けた南側のみ。約30メートルに満たない距離を自然を装い歩き過ぎなければならないが、これは時間にすれば数十秒、体感では一瞬だ。そして非常に残念なことにプールは一段高い丘になっているから、こちら側のプールサイドに立っているスク水天使しか見えないのだ。つまりは全てタイミングで天の配剤によるところが大きい。お目当ての女子が見れなかったとしても、絶対に立ち止まったり、ガン見したりするなよ。もしバレたら直後からお前は『妖怪スク水しゃぶり』と呼ばれ、その後は悲惨な学生生活を送ることになるだろう……!」
俺は頷いた。結構真剣に真顔で頷いた。なぜならタケウチの顔がガチのマジで深刻だったから。
さすがに『妖怪スク水しゃぶり』はイヤだ。きっとタツミにも嫌われる。
「よし、わかったな。お前は今のうちに神に祈れ。俺は先に行くぞ」
「一緒に行くんじゃないのか?」
「ああ、それには理由があるんだが、それは無事にことが済んだら説明する。では、いざ行かん! 俺のやり方をよっく見て、手本にするのだ!」
そんな偉そうなことを言って、タケウチは陰からごく自然にプールの南側に躍り出た。
「おおっ……!」
思わず感嘆の声が出てしまうほど、タケウチのプールの横の通り過ぎ方は至極自然だ。ヤロー、言うだけある! もう本当に、ちょっとそこへなんの気なしに歩いていますよ、てな具合に。少なくとも俺の方からだと、タケウチがスク水女子たちの方を見ているようには全然見えない。
俺にあれができるか……!? あの自然さが、俺に出せるだろうか……!
そんなことを考えているうちに、あっという間にタケウチは約30メートルを渡りきり、プールからは見えない陰の方からこっちに向かって満面の笑みでサムズアップを送ってきた。
本当に楽しそうな男の笑みだった。やりきった男の顔だった。しかしそんなに楽しいものなんだろうか? たかが女子の水着、それも色気のないスク水だ。そんなもんが実際にそんなにいいものなんだろうか?
もちろん、たとえスク水だったとしても、女子の水着姿に興味がないと言えば嘘になる。見れるものなら見てみたい。だけど、たかがそれを見るだけで、俺もタケウチみたいに満面の笑みを浮かべることができるだろうか?
その答えは、実際にやってみれば自ずと出るか……。
俺の番だ。夏の太陽の下、額の汗を袖で拭い、軽く深呼吸する。
よし、行くか……!
花園への道を一歩踏み出した。
歩きながらさりげなく、左側へチラッと目を向けるとそこには、
「……!」
桃源郷が広がっていた。タケウチの言う通りだった。そこには天使たちがいた。
照りつける夏の目もくらむような熱い放射線にキラキラ輝く、水滴を纏いしスク水の天使たちがそこにいた。濡れて滴るその姿、人それぞれ多種多様な曲線美の天使たちはたとえ身につけているのがスク水であったとしても、いや、むしろスク水だからこそ、健康的な美を演出していた。逆に色気がないのがむしろ却って艶やかだった。ちょっとした動作で弾む胸も、水着の食い込みを直す指も、そこにやらしい素振りがないのがむしろ逆に却ってエロチックだった。健全で健康な天使たちの水着姿は、まさに禁断の地を覗き見るような気がして、恐ろしくも素晴らしかった。
「どうだった?」
声でハッとなった。目の前にはもうタケウチ。タケウチの言った通り、桃源郷はほんの一瞬しか味わえないらしい。気がつけばもう、30メートルを歩ききってしまっていた。
「素晴らしかったろ? で、誰が一番良かった?」
「誰がって言われても……」
正直なところ、誰の水着姿を見たのか思い出せない、というより、スク水女子たちの威力があまりにも強烈だったせいで、思い出せるのは顔から下ばかり。情けないし、失礼な話だが、顔から下の方にしか目がいってなかったらしい。あと一つ言い訳をさせてもらえるなら、緊張と興奮と、あと、やはり覗き見の罪悪感と言うか、自制心が働いてあんまり見ないようにしていたせいでもある。
「うんうん、わかるぞ。最初は皆そうだ。俺だってそうだった。だが安心しろ、俺はちゃんと忘れ物をしてきた」
そう言って、タケウチが指差す先、さっき俺たちが歩いてきた元の場所には一枚のハンカチが落ちていた。
「俺は忘れ物をした。忘れ物は取りに行かねばならんだろ? そうすると二度楽しめるわけさ。どうだ? 完璧な作戦だろ?」
「……それってさ、実際に置いてくる必要あったのか?」
「ある! なぜなら俺たちは覗き見野郎じゃないから! 仕方なく取りに戻り、仕方なく二往復してしまうだけ! このリアリティがなければ――」
「わかったわかった! もうわかったから!」
またタケウチの長口上が始まりそうだったので、さっさと切り上げさせてもらった。二往復するとなると、少しの時間も惜しい。あんまり長い時間授業をサボるのも良くないことだし。
「わかったならよし! じゃ、ちょろっと忘れ物とってくるわ!」
タケウチは小走りに行って、小走りに帰ってきた。
「ふーっ、いやー、最高だったわ!」
タケウチの目がキラキラと輝いている。さながら純真な子供のようだ。こんな不純極まりないことをして、どうしてこんなに天真爛漫でいられるのだろう、本当にタケウチって不思議なヤツだ。
「じゃ、次はお前の番だな」
「俺? 俺は忘れ物なんてしてないけど」
「だーいじょうぶ、ちゃんとあそこに俺ん家の鍵を置いてあるから。ほら、さっき俺がハンカチを置いてたところにあるだろ? あれを取ってこい」
「お、お前……」
「なぁに、礼はいらねぇよ! 友人からのささやかな贈り物さ」
タケウチははにかんで言った。
お前、用意周到すぎて正直引くわ、と言いたかったのだが、どうやら俺が感動していると勘違いしたらしい。まぁ、あえて否定することもないか。タケウチの友情もありがたいといえばありがたいし。
「そうか、じゃあ行ってくるわ」
俺はタケウチを真似て小走りになりつつ、今度は前よりも冷静にしっかりと、しかしガン見することなく、プール側へと目をやった。
そこは桃源郷。二度目ということで多少は慣れたせいか、先程よりいくらか眩しさが弱まってはいたが、依然として輝かしく美しく麗しくセクシーなところだった。色とりどりのスク水天使たちを俺は目の端でさり気なさを装いつつもつぶさに観察する。
「……!」
ウンノがいた。ウンノはスレンダー美脚スク水天使だった。しなやかなボディラインを流れる水の雫が、スラリと伸びた足へと伝い落ちる様は色っぽくもあり芸術的ですらあった。全体的に引き締まり、調和の取れたスタイルとキレのある涼し気な顔立ちと相まって、作り物のように美しい。
幸いなことにウンノはこっちには目もくれない。こっちをからかうように妖しげに微笑むウンノもかわいいといえばかわいいが、授業に集中するときの真顔のキレのある表情はとてもかわいくて、何より綺麗だった。
「……!」
ウンノを見ていると、すぐ隣にトキさんがトテトテとやってきた。
トキさんはまるで水の妖精だった。決してスタイルがいいわけじゃないけど、小さくてかわいくて、なんだか微笑ましかった。ウンノと並ぶと姉妹に見える。正直なところ、俺の好みとはかけ離れているけど、ああいうのが好きなのもいるし、決して需要がないわけじゃないと思う。それに何よりトキさんはかわいいし、守ってあげたくなるタイプだし、そういう意味ではスク水がすごくよく似合っている。
二人を主に鑑賞していると『行き』が終わってしまった。俺はタケウチの家の鍵を拾い上げるとポケットにしまった。
さぁ、いよいよ『帰り』だ。
桃源郷への一歩を踏み出す。一分にも満たないほんのわずかな至福の時間を最大限に堪能すべく、全神経をプールへと集中する。と、同時にしっかり自然を装い、決して女体をガン見しないように自制することも忘れない。本能と理性のバランス……両方やらなくっちゃあならないってのが『できる男』の辛いところだな。
チラッと最初の一瞥にまず飛び込んできたのは素晴らしいスタイルだった。スレンダー美女のウンノ並みにキュッと細くくびれた腰を持ちながら、なのにその上下にあるお胸とお尻はたわわに立派に実っている。コーラの瓶は女性のスタイルをモチーフにしてると聞いたことがあるが、まさにそれを思わせるような美しくも豊かなラインを描くそのスク水ボディに、俺は思わず見惚れてしまった。おそらくプールから上がったばかりなのだろう、胸から腰へ、そして腰から尻、脚へと伝い落ちてゆく水の雫のなんとコケティッシュなことか!
ダメだ、見過ぎだ、あんまり見るとマズいぞ……俺の理性はそう言う。だが、本能にはなかなか逆らえない。なぜならこれはただの欲情じゃない。美しいものに惹かれる、男女を問わず持っている人間本来の本能のせいだ。スク水ボディがエロいとかいやらしいとか、そんな下賤な話じゃないんだ。これは純粋な『美』の問題だ。だから今の俺には決してエッチな気持ちなんてこれっぽっちもないんだ。ゴメン、それはさすがに嘘だ。半分は男の本能もビンビンに働いているってことを正直に言っておく。
素晴らしいスク水ボディがプールサイドをスラリと歩く。適度に肉付きの良い極めて美しい脚が前後に動くたびに連動するお尻のラインを俺は馬鹿みたいに眺めていた。視界のフレームの上部一杯に見切れつつ揺らめく二つのたわわでプルルで弾力質な二つのまるまるとしたお胸が、まるで俺に手招きして誘っているようにさえ見えた。
なるほど、タケウチよ、お前の言うとおりだ、これはなかなか素晴らしいぞ……! 誘ってくれてありがとな。心のなかで、ヤツにこっそり感謝した。
と、そのとき突然、素晴らしいスク水ボディの持ち主がこっちを見た。
すぐに目をそらすべきだっただろう、だが、愚かにも見惚れすぎた俺は全く反応できず、素晴らしいスク水ボディと目が合ってしまった。
「あ、マツザキくん!」
素晴らしいスク水ボディこと、タツミが大きな声で俺の名を呼んだ。
「よ、よう、タツミ……」
一瞬、わずか一秒に満たない時間、俺の脳内に様々な考えがよぎった。出した答えは、いかにも自然に受け答えをすることだった。
「暑いのに運動場でご苦労様だねぇ~」
タツミは胸の下で腕を組んで、物理的に一段高い上から俺を見下すように笑って言った。
俺ときたら、そんな挑発的なジョークより、腕を組んだことでより強調された胸元のほうが気になってしまった。ギュッと持ち上げられたお胸はたとえスク水に包まれていても青少年にとっては凶悪で危険な武器となる。
「こっちは暑いってのに、羨ましいよ……」
さすがの俺も照れくさくなってしまった。もうタツミの方を見てられなくなって、顔ごと目をそらした。
「じゃあおいでよ。冷たくて気持ちいいよ~」
「それができたらいいんだけどな。つーか授業中だぞ? こっちばっか見てると先生に怒られるぞ?」
「そうだね、じゃ、またね~」
手を振るタツミに、俺も軽く手を振り返した。なんとか切り抜けられた……のか? 少なくとも覗き野郎とは思われなかったらしい。最悪の事態は回避できたか……。ああ、良かった。
俺は、もうプールの方を一切見ることなく、タケウチのところまで歩いた。
こうして、俺は最後の30メートルを終えた。互いに見えない位置まで来ると、俺は肩を落として思っきり息を吐いた。
「ふぅーーーあぁ~~~………………」
「見つかっちゃったな」
タケウチがニヤニヤ笑ってる。
「でもまぁ良かったんじゃないか? タツミっちのスク水姿が拝めたんだから。ああ~~、俺も見たかったなぁ、タツミっちのスク水!」
まぁ、タケウチの言うことももっともではある。タツミにバレてしまったものの、代わりにタツミのスク水姿が見られたのはかなりの幸運だった。今も脳裏にタツミのあの素晴らしいスク水ボディが頭の中にチラついている。この強烈な印象はしばらく頭に焼き付いて離れないだろうな。そして、多分おそらく、一生俺はこのことを忘れないと思う。
それにしてもタツミ……意外と着痩せするタイプなんだな……グラビアにいても不思議じゃない魅惑的スタイルだった……。そんな女の子が俺を呼んで、手を振ってくれたんだよな……俺って結構幸せモンかな……?
その後の授業はほとんど何も覚えていない。夏の暑ささえも。頭の中には常にあの姿のタツミがいて、他のことは一切頭に入らなくなってしまっていた。
タツミめ……ほんっと、アイツは小悪魔ヤツ……って、覗いてたヤツの言うことじゃないよな……。




