覚醒
暗がりの意識の中、ふと目が覚めた。
周囲を見渡すとそこにあるのは闇だ。明かりも無くただひたすらに真っ暗な空間がそこにある。俺は一体どのくらい下の階層に落とされてしまったのだろう。こればかりは考えていても仕方のないことだ。今はこの状況をどうやって切り抜けるかだ。
暗闇の空間を壁伝いに歩みを進めた。いきなり下に崖があるかもしれないから慎重に慎重に一歩一歩確かな安全を確保しながら進んだ。
歩みを進めていると少しだけ明るい空間に出た。だがその刹那俺の危険を知らせる警笛が鳴った。すぐさま壁に隠れその警笛のならした原因を探した。
そこに居たのは熊なのか、ゴリラなのか判断が難しく、ただ言えることはかなり巨大な体躯に巨大な斧を持ったモンスターが居た。なんだよ、あれ、あんなのに見つかったら確実に死ぬ。
その大きなモンスターの前に可愛らしい子犬のようなモンスターが居た。ダメだ、殺されちゃう。だがそんな俺を他所に驚くべきことが起きた。巨体なモンスターは子犬に対して斧を振りかざしていたが、子犬はなんと瞬間移動のように一瞬で巨体のモンスターの背後を取り、その瞬間突如顔が巨大化して斧を持っていたモンスターを丸ごと食らいつくしていた。
そのあまりにも恐ろしすぎる光景に腰を抜かしかけ、地面に座り込んでしまった。なんなんだここは、嫌だ、怖い、怖い、怖い。怖すぎて気が狂いそうだ。何で俺がこんな目に合わなければいけないんだ。俺が一体何をしたと言うんだ? 校内一の人気者として誰に対しても明るく優しく振舞ってきた。それこそ桐野たちにだって同じ対応をしていた。それなのに、何で俺がこんな目に合うんだ……。どうして……。
一度自身の嘆きを止め、周囲の様子を探った。すると、先程の子犬の姿はなくほっと胸を撫で下ろすと思わず目がギョッとしてしまった。それは奴が俺の真下に居たからだ。三秒ほどお互いの視線が合い、子犬の顔がまたしても巨大化になったのを見て、俺は全力で当てもなく駆けた。その子犬の一噛みで俺が隠れていた岩石は粉々に砕かれていた。やばいやばい、嫌だ嫌だ、死にたくない、死にたくない。叫びたい声を必死に抑えながらあまりの恐怖に涙して走り続けた。
走り続けると先の子犬の姿が見えなくなった。俺は逃げ切れたのか……? 周囲を隈なく探しても奴の姿は伺えない。今度こそ安堵して床に座り込んだ。はぁ、ほんとに怖かった。まさかこの歳でおしっこを漏らすことになるとは思いもしなかった。
俺が今まで必死に浅い呼吸で物音を最小限に抑えていたのだが、今はその必要性が無い事を悟り大きく息を吸って気持ちを落ち着けた。
大きく深呼吸をするのと同時に突然地面が割れた。その驚きの後から訪れる恐ろしい痛み。
「ぎゃあああああああ!」
下の方に視線を向けると先の子犬が地面の下から巨大な顔を出し俺に噛みついていた。胴体が真っ二つになるような感覚がある。下半身に感覚はなく目も充血しているのか視界が真っ赤に染め上げられている。体全体に悪寒が走り意識が朦朧としている。何でこうなった? 俺は非日常を求めていた。それは別に異世界で死にたいとかそんなことは思ってもいない。最初にこの世界に来たときは漫画やアニメのように毎日楽しい冒険をしてワクワクとドキドキが止まらない生活が始まるのだと思っていた。それなのにどうして俺はこんなつらい目に合うのだ? 嫌だ、死にたくない。こんなところで死んでたまるか。そうだ、あいつらが悪い。あいつらが俺を見捨ててこの地に落としさえしなければ俺はこんな目に合わなかった。あいつらが憎い、憎い、憎い。絶対にあいつらを許さない。例え死者になろうとあいつらを一人残さず殺してやる。
体の感覚が完全に消えた。痛みもなく寒さも感じることは無くなった。真っ赤に染まった視界は徐々に暗くじわじわと広がり、俺の命はそこで途絶えた……。
《力が欲しいか?》
暗い闇の中に居る俺に誰かの声が聞こえる。俺は死んだのではないか?
《力が欲しいか? 誰にも屈さない力が》
「誰なんだ? 俺は死んだんじゃないのか?」
《そなたは死んだ。だが、この力を受け取ればそなたは生き返れる》
悪魔のような囁きを受けた俺は考える。生き返ったとしても力がなければ意味がない。だがこいつは俺に力を与えようとしてくれている。まずはその力を聞こう。
「力ってなんだ? そんなにあんたは強いのか?」
《力とは私の生前の全て。魔法、スキル、全てをそなたに与える》
「それをするとあんたにはどんなメリットがあるんだ?」
《私は晴れて成仏することができる。もう何年もこの場所でさまよい続けてきた。それにそなたは私の後継者に相応しい器だとそなたが転生して来た時から感じで居た。あの時は私の介入が阻まれてしまいそなたに力を与え損ねてしまったのだ。だからこうしてそなたが死んでくれたおかげで私はそなたに力を授けられる。どうか受け取ってくれないだろうか?》
こいつは信用できない。だが利害は一致している。俺も生き返り力が手に入る。こいつは成仏できると。今はこの利害関係だけで充分だろう。
「最後に確認だ。その力はどう使おうが構わないんだな?」
《無論だ。この世界を破滅させようと何をしようとそなたの自由だ》
「よし、わかった。その力受け取るぜ」
これで、あいつらに復讐ができる。必ずここを抜け出してあいつらを探し出す。千歳以外は全員殺してやる。
《では、力を授けたぞ。後はそなたの好きなように……》
暗闇の意識が急激に白一色で染まり、俺は覚醒した。周囲を見渡すとそこは変わらず地下迷宮の中に居るようだった。噛み千切られていたはずの体は傷一つなく、自然と体の底から力が漲るような感覚がある。
それ以外特段変化を感じることは無かった。そうだ、まずはステータスの確認をしないと。そう思い、自身の右端に視線を集中させた。
烏丸海斗職業・闇の執行者スキル転移、魔力操作、魔力探知、魔王覇気、超回復、時空支配、飛空、闇移動。これはかなりぶっ飛んでいるのではないか? 強すぎるだろ! そうだ、レベルの確認もしなければ。だが俺のステータス画面にはどこにもレベルが記されていなかった。その変わりパラメーターが異常なことになっていた。今現在俺のパラメーターはほぼ零になっていた。は? どういうことだよ。むしろ弱くなってるじゃんか! 怒りが爆発しそうなところで動きが止まった。パラメーター画面の右端の方に見たことのない項目がそこにはあったのだ。パラメーターポイント割り振りと書かれているその画面に意識を集中させるとパラメーターポイント所持千ポイントと書かれている。何だこれは? 使い方のよくわからないまま取り敢えず均等に全てを割り振った。まさか、これは俺自身がパラメーターを操作できるということか⁉ ということは俺はこれから先レベルの代わりにこのパラメーターポイントを受け取りどんどん強くなれるということか。
まずはこの場所で修業を積もう。そこでスキルの使い方や魔法の使い方をマスターして外の世界を目指そう。目標はクラスメイトの殲滅だ。
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