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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
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1-5 Akira Park, Akira, Shinagawa-ku, Tokyo

 CGアバターの、しかも鎧とはいえ、歩玖は女性の外見を褒めるのは照れくさかった。


「か、かわいいと思います」


 歩玖の両目のレンズは、実際のしえるを完全にゲーム内のキャラクターに置き換えている。鎧の脇や背中を見せてきているのは、声と頭の上の名前からして間違いなくしえるだが、見た目では全然わからない。


「え、じゃ、あたしの耳も見えてんの? 気に入ってるけど会ったばっかの人に見られるのはちょっとはずいな……」


 そう言って頭に生えたウサギ耳をなでているのは芽緒らしい。彼女のアバターは動物と人間のハーフのような感じだった。しえると違い軽装で、手には長い槍がある。


「あるきゅん、私も見て見て~」


「……あ、すごいですね!」


 その呼び方で振り向くのはどうかと思った歩玖だが、結局振り向いた。紫音のアバターはファンタジックかつファッショナブルで芸術的な感じだった。短い杖がゲームっぽい雰囲気ではあるが、ファッションショーで出てきてもおかしくなさそうに見える。


「シオンヌ姉さんはリアル職業が美容師だからね。センスあるでしょ」


 一人だけ見た目が変わらないパンダに、歩玖が「それでなんですね」と答えると、紫音がモデルのように歩いて全体を見せてくれた。芽緒がからかうようにパンダに言う。


「酒田一飛二十九歳独身のリアル職業は何だっけ?」


「あのー、信じてもらえてないのかもしれないけど、一応ちゃんと働いてるから。え? なんでパンダなのにゲーミングカラーなのかって? いいじゃん、パンダだって白黒はっきりさせたくない時あるじゃん! いや、特に深い理由はないけど」


 パンダこと一飛は、三人から「信じてるって」「話そらすな」「聞いてない聞いてない」などと口々に言われ、歩玖はちょっといじられすぎではと思ったが、パンダ自身はそれなりに楽しんでいるようなのでこれでいいのかもしれない。


「俺のことより晶くんでしょ。速攻でぶっとばすんじゃなかったっけ?」


 「そうだった、経験値!」と言って芽緒は晶くんに向かって槍を構える。さっきからひどい言われようの晶くんに、歩玖はちょっと同情した。


「それじゃ、いつもどおりあたしからね。いくら固いって言っても、アタッカーなんだし1000や2000は出していかないと」


 芽緒は指先だけで画面の項目パネルを選択する。晶くんは三つの箱のうち、どれをターゲットにするか選べるのだが、芽緒がパンダに指定されたのは一番近い箱だった。


「後先考えなくていいなら、いきなり最大のやつでいくよ!」


 芽緒はパネルを押し、攻撃を放った。ウサギ耳のアバターも本人と同じ動きをし、ちょっとだけ指を動かす。そうは見えないが晶くんに槍が当たったことになっていて、ちゃんとダメージを与えている。その数値を見て芽緒は愕然とした。


「は……⁉ 11……⁉」


 表情はわからないが、パンダはにやにやしているらしい。


「おー、11出た? 10超えたらすごい方よ」


 見間違いではなさそうだが、芽緒は一応ログを見返したようだ。


「11だよ⁉ 【カウント】全消費して11! いつもの1パー以下! なんで⁉」


 パンダは「そりゃ、晶くんの防御力がそれだけ高いってことで」とだけ言って、自分に回ってきた順番をしえるに譲る。


「へー、晶くんやるじゃん。じゃあ、私も本気出そっかな!」


 しえるは楽しそうに左手をポケットに入れて、何かを取り出して構える。


「【EPLシステム】、ミックスアップ!」


 音声が端末に入力され、しえるのアバターは一瞬まばゆい光の塊になった。その光を残してまといながら姿が戻ると、左手にはいつのまにか剣が握られている。


「あれ、あるくん、EPLはわかる?」


 歩玖の返答は目で伝わったらしい。しえるが「アバターじゃなくて、リアルの私が持ってる物を見てみて」と言うので、歩玖はディスプレイをオフにした。


「え……。何ですかそれ?」


「じゃーん、ポータブルかくはん器!」


 実体のしえるが自慢げに見せてきたのは、料理やお菓子作りで卵をかき混ぜたりするのに使うかくはん器だった。ポータブルとの名のとおり、歩玖が見覚えのあるものより少しサイズが小さい。


「なんでそんなのを? と思ってるかもしれないけど、理由は私がお菓子好きだからです!」


 しえるは先回りして説明したようだが、歩玖は説明になっていないような気がした。


「口で言うより見たほうが早いかな。芽緒ちゃんの攻撃と比べると、私は半分いかないくらいなんだ。だから今、普通に攻撃したら、ダメージは4とか5だと思う。でも、EPLシステムを使うと……」


 しえるはかくはん器を軽く放り投げた。それが空中で回転しているあいだ、歩玖はふと気づき、レンズをゲーム画面に戻す。すると思ったとおり、かくはん器に対応して回りながら落ちてくる剣を、騎士のしえるがキャッチした。


「はっ! 【メランジュール・トゥシュ】!」


 技名的なものを言って、しえるは剣(かくはん器)で晶くんを突き、7のダメージを与えた。


「って感じで、ちょっとだけ強くなれるんだ! ……あ、もしかして引いてる?」


「あ、ひ、引いてはないです。ちょっとびっくりして……」


 いくら夏休みの公園とはいえ、高校生がかくはん器片手に本気で「メランジュール・トゥシュ!」はいかがなものだろうか、と歩玖は思わざるを得なかった。まるで、歩玖も昔やったことのある変身ヒーローごっこのようだ。


「え~っと……EPLっていうのは、エトス・パトス・ロゴスの略で! 難しいからかいつまんで言うと、ゲームに気持ち入れて遊んでくれる人は、おまけで強くしてあげちゃうよっていうシステムなの」


 しえるは顔を赤らめながら言い訳のように説明する。


「私はお菓子が好きだから、かくはん器を武器にミックスアップするとテンション上がって、腕につけてる端末が心拍数とか声とか動きに反応して……。いや、は、恥ずかしくないとは思ってないよ⁉」


 歩玖が冷静に見えるのは引いてるからではなく、焦ったしえるの意外な一面がかわいいと思っているのを悟られまいとしているからなのだが、彼女はそう察せなかったようだ。


「だけど、そういう気持ちをちゃんとAIが汲んでて、実際に能力に反映されてるわけでしょ。トッププレイヤーでもEPLやる人多いけど、えぐなみの補正出せる人あんまりいないもん。やっぱすごいよ」


 「いつもそう言ってくれるのはうれしいけど……」と芽緒に答えるしえるは恥ずかしそうでもあるが、楽しそうだと歩玖は思う。ただ、ポータブルと言うからにはかくはん器を常に持ち歩いているのかと思うとやっぱり若干引いた。


 芽緒と同じくしえるのEPLを見慣れているらしい紫音は、何事もなかったようにバトルを先へ進める。


「あー、ふにゃふにゃに柔らかくしたいよー。私も攻撃の方がいい?」


 紫音は攻撃し、ダメージは2だった。また順番が回ってきたパンダはなぜか誇らしげだ。


「いやー、強いね! 晶くん!」


 芽緒はあきれた様子だった。


「爽快感がない。つまらない。クソボス。星いっこ」


 「レビューはバトルが終わってからにしようよ……」と言うパンダにしえるが聞く。


「でもさ、このままいけばいつか勝てるんじゃない?」


 晶くんの上に浮いている体力ゲージには「98%」と出ているので、たしかに同じ攻撃をずっと繰り返せば倒せそうだ。


「そう思うでしょ? じゃ、ターン回すね」


 パンダが自分の順番を飛ばすと、晶くんの行動順となった。ひとつの箱から一本の直線が伸び、レーザービームのようにしえるを襲う。ゲーム的に意味があるのか歩玖にはわからないが、しえるはとっさに防御の体制をとった。


「いった~……。あ! すっごい減ってる!」


 しえるの体力は残り一割程度となっていた。


「えぐが一撃で瀕死……。てことは」と言う芽緒に、紫音が「私たちじゃ即死ってことだ」とつけ足す。歩玖は残りの箱が二人を狙ってくるものと思ったが、そうはならなかった。


 二番目の箱は、しえるを攻撃した箱に光線を伸ばしてバリアのようなものを作り、耐久性をアップさせた。最後の箱は光線を使って二番目の箱の体力を回復させる。


 芽緒はあごに指をそえた。


「なるほど、これがヒントってことか。……もしかして、三つの箱はそれぞれ、破壊・維持・創造を表す、とかそういう感じかな」


 芽緒がさっきよりは乗り気な様子なのでパンダはうれしいようだ。


「ね? 面白くない? ギミック系はハズレも多いけどよくできてるのもあって、特にこの晶くんは初心者から上級者まで遊べるから、その界隈ではけっこう人気なんだよ」


 パンダのアピールがあっても、芽緒にとってはやはりそこまでではないらしい。


「……で、どうする? 比較の準備できたし、あたしは早く歩玖の攻撃が見たいんだけど」


 芽緒に視線を向けられ、歩玖はなんとなく緊張してしまった。パンダは残念そうに言う。


「ま、本来の目的はそっちだもんね。ギミック解除に挑戦してみてもらいたいけど、やめぐらカリバーの威力を見せてもらってからでも遅くないか。じゃ、あるくさん、救援として入ってもらえる?」


 歩玖は方法を教えてもらい、バトルに参戦した。歩玖のアバターとステータスを見た芽緒が率直に言う。


「よっわ。見た目もほぼバニラじゃん。なんか懐かしいなぁ~。でもま、だからこそ武器の強さがはっきりわかるか」


 歩玖は悪く言われた感じはしなかったし、変に気を遣われるよりよかった。なんとなくだが、バニラというのは初期設定状態のことだと予想がついた。


 しえるは期待のこもった目で歩玖を見る。


「あのさ、せっかくだからこれを剣にミックスアップしてみない? パネル押すだけなのも楽だけど、体動かすと雰囲気出るよ」


 しえるが差し出してきたのは、そのへんから持ってきた木の棒だった。つまり、しえるのかくはん器のように、木の棒を武器として使えということらしい。


「……もしかして、さっきのしえるさんみたいにやるってことですか?」


 歩玖は言われればやるつもりだが、うまくできるか不安だった。


「あ、あそこまではちょっと、その時の気分にもよるから……。実は、EPLシステムを使わなくても、ミックスアップした武器にいろんなジェスチャー操作を割り当てられるんだよ」


 しえるに教わりながら、歩玖は木の棒をやめぐらカリバーとしてゲームにミックスアップし、鋭く振ることで攻撃とみなされるよう設定した。棒を握っていると多少なりとも重みや触感があるので、何もないよりもずっと、剣を持っているという現実感がある。


「これ……けっこう楽しいですね」


 しえるは歩玖が楽しそうで喜んでいるようだった。


「でしょ? これぞMRゲーム! って感じするでしょ」


 歩玖はもっと小さい時、やはり友達とのごっこ遊びで、木の棒を拾って剣やナイフに見立て、近所の公園の動物の像などを勝手に猛獣ということにして架空の冒険劇を繰り広げていたのを思い出す。


 今は自分も友達もそんなことはしないが、いくつになっても遊びの根っこの部分の楽しさは変わらないのかもしれない、と歩玖は思った。EPLシステムを使ったしえるも、きっと同じような楽しさを感じていたのだろう。


「じゃ、あるくん、お願い!」


「はい、やってみます!」


 歩玖は進み出て、三人が攻撃した箱に狙いを定め、木の棒を構える。


 はたから見れば歩玖は何もないところに向かっているだけだが、レンズを通した世界では、たしかにそこに手ごわいボスキャラクター「晶くん」が存在し、持っているのは最強の剣、「ラストイレイザー」だ。


 パーティが見守る中、歩玖は剣を振り下ろす。


「……はあっ!」


 激しい斬撃の効果音とともに、軌跡にそって一条の光が描かれる。その尾が薄れていく瞬間、雷鳴のような轟きがあって、晶くんの一箱はばらばらに砕けて消滅した。


 出現した数字は、7810だった。

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