7-3 ???, ???, ???
7-3 F-390, Aerial Prism, Holos
「待てよ、どうやるんだっけ……」
一飛はゲーム以外用の端末で調べたが、一度もやったことがないし緊張でうまく情報を引き出せない。でも、やるしかない。ここで全力を出さなかったら、人としてどうなんだ、と思う。
「EPLシステム、ミックスアップ! で、いいのかな? 【レインボーパンダヒール】!」
いつだったか三人に勝手につけられたアーツ名を、一飛は腕につけた端末に叫ぶ。隣から怒鳴られようが壁を殴られようが大したことじゃない、後で謝ればいい、と興奮しながら考えた。
「パンダ、ありがとう! あ、ヘイト買ってるし……!」
芽緒は喜んでくれたが、一飛はすぐに狙われて倒れてしまった。しかし、悔いはない。
「しえる、どうしよー……?」
アイルの番だが、ここが勝敗の分かれ道となりそうだった。残った三人は、勝ちたいと思っていた。しえるは、勝っても負けても状況が変わらないのはわかっていた。だが、勝てば強くなれそうな気がした。ひかりと、ふかしイモと向き合える強い自分になりたかった。
「あとほんのちょっとなんだけど……! あるくんがもう一回攻撃できれば!」
間野のときと少し状況が似ている、と歩玖は思った。しえるが歩玖をかばえば、歩玖の一撃で勝てるかもしれない。今回こそ、本当にしえるに頼ろうと決めた。
歩玖には攻撃バフは効果がない。それで、しえるが生き残れるかは微妙だが、アイルは桃ぴよに触発されて「おんせんのうた」を改良した【サウナのうた】を発動した。
ひかりは瀕死だが、だからこそ運営にとって好都合だった。といってもそれは建前で、本当はとにかく自分を守りたかった。あれをやるときが来たのだ。
「見えるものなんて……! 【オーバー・ジ・エンド】!」
キラキラした粒子のようなものがひかりを包む。ひかりは、夢幻の力を限界以上に引き出して次元を歪め、あらゆる攻撃を無効化する不可視の存在となった。
「は⁉ ここで無敵バフ⁉ あり得なくない⁉」
芽緒はうすうす思っていたことが事実だと確信した。運営には最初からプレイヤーを勝たせる気なんてないのだ。あのとき配信でラストイレイザーには触れなかったのに、ちゃっかり対策してきている。今やめぐらが見ていたら、同じことを考えているだろう。
「うそ……」
しえるのつぶやきで、ひかりは思う。嘘やあり得ないことは、真実やあり得ることと違って、不滅だ。見えないものは見えるものより強い。その力を信じている。
その一方で、それだけではいけないことや、力を律することが必要なのもわかっていた。エアリアルプリズムがケイヴトゥジエンドから離れて遠くへは行けないのも、ひかりの葛藤を表していた。ひかりは、それほどまでに透明ぴよと自分をミックスしている。
しえるたちは立ち尽くしてしまう。こうなってしまったら計算は水の泡だった。いくら防御力無視のラストイレイザーでも、無敵にはかなわない。ほかのプレイヤーたちとも話そうとしたが、みんなボスがやりすぎだと感じているようだった。
「ちょっと待ったー! あきらめるのはまだ早い!」
歩玖が振り向くと、エレベーターのほうから、ウェディングドレス姿のアバターが走ってきた。
「え……⁉ 紫音ちゃん⁉」
しえるには、紫音が男性二人につきそわれているのが見える。一人は紫音からよく話を聞かされている彼氏、つまり現夫で、もう一人は八戸だった。
「場所近いの知ってたからさ、仲間のピンチだもん、控えメンバーって言ったらギリオーケーだった! 時間ないからすぐ行くよ! 【フルメイク・リムーヴァー】!」
一度も行動していないので、紫音はすべてのカウントを使用できた。メイク落としをモチーフにしたアーツなので、敵の強化効果を打ち消すことができる。
「紫音、やった! 効いてる!」
芽緒は紫音のアーツさえも通じないかと思っていたので、ちゃんと効果があったのを喜んで紫音に抱き着いた。すると、アルコールのにおいがした。黙っていたほうが良さそうだ。
「そんな……」
ひかりは予想外にバフが切れてうろたえた。これがあると思って安心していたのに、まるで丸裸にされてしまったかのようだ。混乱して、目が涙で滲む。手でぬぐおうとするが、ヘッドマウントディスプレイなのを忘れていた。
「あれ、なんで防御……?」
一飛のドローンからそう聞こえて、ひかりは失敗に気づいた。両手のひらを内側に向けたので、ジェスチャーで防御を実行してしまったのだ。これでは、もう手番は回ってこないだろう。
「ゴメンね……。もっと早く気づいてあげなきゃいけなかった。もう、終わらせよっか。私、これで最後にする。メランジュール・トゥシュ!」
しえるの攻撃はボスにはあまり効かないが、ひかりには突き刺さった。ひかりはしえるだけに言う。
「私もごめん、一緒に遊んであげられなくて……」
この歩玖の番で決まりとなる。
「……行きます」
ノック式消しゴムを振り下ろすと、壮大なエフェクトでボスは消え去る。歩玖は、やめぐらがラストイレイザーは「すべてを消し飛ばす」と言っていたのは本当になったが、自分の意志で道具をうまく使って役に立てたと思って、満足だった。
歓声が上がって、プレイヤーたちが喜び合う中、しえるはディスプレイを外したひかりのそばに行って、二人で小声で話した。
「……しえる、片目だけレンズだったの? だからか……」
「うん。ママと、ふかしイモさん、どっちも見たかったから」
「私、こんな仕事もう……」
「いいの。ママは、夢を現実にできたんだよ。現実を夢みたいにすることだって、できるはずだよ。だから、その方法を探すために、続けて。私も新しい夢を探すから」
「ありがとう、しえる……」
二人が身を寄せ合っているので、関係者ブースにいた藤山は不思議だった。ずっと二人がどうしてあんなに物語に入りこんでいるのかも気になっていた。それで、今ようやく、二人のあいだに特別な絆があるのがわかった。
藤山はEODの限界に気づいたとき、もう自分にはゲームは作れないのではないかと感じた。この年だし引退しようかとついさっきまで思っていたが、二人を見て気が変わった。ああいう「体験」をしてくれる人がいるなら、自分もやるべきことをしたい。グラスに音声入力する。
「一番近くて遅くまでやってるファミレスどこ?」
横にいたサルヴァートルは、藤山が新しいアイディアを探すつもりなのがわかった。ゲームプログラマーを志したのは、ほかでもない藤山に憧れてのことだ。かつてのような活力はまだ衰えていないとわかり、うれしくなった。
「スマートグラスの最も正しい使い方です。行きましょう!」
配信での出番はここまでなので、二人で出ていく。
「あ、藤山さん、おサルさん、待って! ぼくも行きたい!」
子供のようについていこうとする八戸に、江良は「配信が終わってからにしてください」とささやいた。そうだった、と八戸はひかりを労おうとしていたのを思い出すが、二人はまだ話している。しえるのかくはん器を見て、ふと「あの子、左利きか」と考えて頭に電撃が走った。
ずっと疑問だったことの答え。物語は右手から始まって、左手で終わる。つまり、終わった物語は、ぼくの中で続いているんだよ! そう思って八戸は興奮したが、すぐ冷めた。なんだかありきたりのような気もする。それで、もっと良い答えがないか、まだ探すことにした。
エンディングのストーリーで、ヒヨコたちは一羽に戻るのかと思いきや、仲良く七羽で暮らすことになった。
歩玖は、しえるの言ったとおりのハッピーエンドだと思った。




