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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
35/42

6-4 ???, ???, ???, ???

6-4 B2F, Platform 1, Genjuku Station




「うわ、人がいっぱい! みんなボスと戦ってるの⁉」


 ホームへ下っていくと、電車の利用客の邪魔にならないよう、大勢のプレイヤーたちは壁際のゾーン内でそれぞれボスと戦っている。歩玖は、もし自分が何も知らずに電車でここへ着いたら何事かと驚くだろうと思った。


「いやー、なんか見てるだけで暑そうだわ」


 一飛はしえるのレンズに映っている人だかりだけでなく、カラスのねぐらであるこの場所のことを言っていた。線路はマグマ溜まりになっていて、ホームにはカラスが集めてきたと思われる金銀財宝や、ガラクタでもとにかくピカピカしたものが積まれて散らかっていた。


 パーティは係員からのいろいろな確認の後、ゲームエリアの一画に誘導された。


「これで思う存分戦えるね!」


 しえるはかくはん器とドローンを取り出した。一飛の声はどのみちイヤホンだし、位置関係はバーチャルでも調整できるが、やはりいつもの感じのほうが良い。


「@さんも久しぶりにEPL使うんだっけ?」


「……うん。ほら、これ。歩玖には初めて見せるか」


 芽緒がペンケースから出したのは六色ボールペン付きシャープペンシルだった。六属性の攻撃と物理攻撃で合わせて七種類の攻撃アーツを駆使する芽緒のために、以前しえるがプレゼントしたものだ。


「そうだ、歩玖にはこれ貸してあげるよ」


 今になって木の棒を現地調達できないことに気づいた歩玖に、芽緒はノック式消しゴムを渡して、「イレイザーって消しゴムって意味もあるから」と言う。


「あ、ありがとうございます」


 歩玖はノックして消しゴムを出してみた。これなら万一手からすっぽ抜けて人に当たっても怪我しないだろう。とはいえ、公式ルールに則ってしえるや芽緒のように手にストラップをするのでその心配はなさそうだ。


「さ、やろっか!」


 時間が迫っているので、感慨にふける暇はなかった。エアリアルプリズムに行くための、ここまでの努力の積み重ねを、今こそ発揮するときだ。しえるは目でみんなとその気持ちを合わせ、バトル前のイベントを開始した。すると、カラスが出てきて喋りだす。


「ギャーッギャッギャ! ピカピカはぜ~んぶワシのモンだギャ! この不思議なピカピカ豆の力があれば、この洞窟の外にある、夜のピカピカを手に入れるのだって夢じゃないギャ! もう鳥目を気にしなくてもいいのだギャ!」


 しえるは、悪趣味でギラついた装飾品を身につけた巨大カラスにかくはん器を構える。


「夜のピカピカって、現宿の夜景のことかな? カラスくん、欲張りなせいで夢幻力が暴走しちゃってるみたいだね。ぴよちゃんたちの家を返してもらうよ!」


 歩玖の位置から見ると、物語にすっかり入り込んでいるしえるは「家を返せ!」とぴよぴよ言っているヒヨコたちの一羽のように見えた。


「うるさいヒヨコとカカシどもめ! ワシのナワバリから出ていけギャ~!」


 カラスが襲ってきて、バトルが始まる。芽緒はさっきからカラスの言動が気になっていた。


「うちらはカカシじゃない! カラスなのに自分のことワシって言うのややこしいし、そんなゴテゴテつけてて空飛べるの⁉」


 芽緒はボールペンの黄色をノックし、EPLをミックスアップした。ウサギ耳のアバターが光に包まれる。


「光攻……じゃなかった、最初は【防デバフ】!」


 芽緒がボールペンで突くと、カラスに防御デバフがかかった。芽緒はシンプルなものが好きなので、アーツの名前は効果そのもののほうが自分っぽいので気分が乗る。


「もっともっと! ピカピカが足りないギャ~!」


 カラスだけに見た目によらず素早かった。いくら光る物があっても自身の闇は照らしつくせないらしく、抜けた羽をいくつもの闇の刃にして飛ばしてくる。カウントの競争がしやすいように、複雑な攻撃方法やギミックはないようだった。しえると一飛が防御を固め、手番は戻る。


「@さん、いいよ」


「オッケ、【光攻撃8】!」


 今回も、芽緒はデバフが効いているあいだ集中して攻撃し、ほかの期間を歩玖がコンスタントに削るという役割分担だった。ライバルと差をつけられるのはラストイレイザーあってのことだ。芽緒さえミスがないようにしていれば、八位以内に入れる可能性は決して低くない。


「やっぱ、慣れてないとこんなもんか……」


 芽緒のEPLによるダメージの伸びは五パーセントくらいだった。ないよりはよほどいいし、アイルたちやしえると比べてはいけないのはわかっている。それでも芽緒は焦りが止まらない。


「芽緒さん、お願いします」


「……【光攻撃9】!」


 すでに何周かしたが、歩玖の次が自分だと、嫌でも数字を比べてしまう。今回、EPLの効果はほとんどなかった。


「あ……」


 緊張や焦りのせいで、芽緒の光はほとんど失われてしまっていた。次に放つ高カウントまでになんとか立て直したかったが、フルカウントたまっても光は戻らない。


「芽緒ちゃん」


 しえるは自分の番で進行を止め、芽緒のそばに寄った。


「……ごめん、やっぱりあたし……」


「ううん。私、芽緒ちゃんが本気で一緒に遊んでくれてるのがすごいうれしいよ。だから気にしないで」


 ずっと足を引っ張っていて、迷惑をかけ続けているのに、それでも一緒にいてくれようとするしえるに、芽緒は感謝していた。ゲームの中だけでなく、リアルでも優しいし、かばってくれる。


 芽緒は小さい頃から英才教育を施されていて、いつも競争の中にいた。能力があったのでうまくやっていたし、親から、人とは違う人間になるように教えられても、そのやり方が自分に合っていた。なので、自分は人とは違う、周りは敵、というのが当たり前だった。


 でも、しえると仲良くなって少し考えが変わってきた。しえるは芽緒のことを敵ではなく、味方だと思ってくれる。芽緒にとってそんな人は初めてだった。それまでは親でさえ敵のような気がしていたので、しえるにはかなり救われた。


 それから、本当はみんなと同じがいい、という願いが強くなってきた。しえるには、自分と同じものを見つけられそうだった。しえるみたいになりたかった。でも、それは無理だとわかってしまった。


 自分はしえるとは違う。本当に強いしえると違って、自分は本当は弱いくせに強がってばかりだ、と芽緒は思う。そして、しえるには弱みを見せたくない。がっかりされるのが怖いからだ。


 芽緒は、しえると同じことができない自分には失望した。結局、誰にも自分と同じところなんてない。自分には自分の方法しかできない。今までのように、自分を貫くことしか。つらくても、それが現実なのだ。


「あれ……?」


 どういうわけか、芽緒のアバターにはさっきよりも強い光が宿ってきている。芽緒は不思議だったが、たぶん、あきらめがついたことで気持ちが落ち着いたからだと思った。芽緒は増していく輝きを見ていると自信がわいて、これなら行けそうな気がした。


 見せかけの強さだっていい。今、力が手に入るのなら。そう思って、芽緒はEPLを続ける。


「えぐ、ありがとう。元気出てきたかも。もう大丈夫」


 ずっと芽緒を見てきたしえるには、無理しているのがわかった。でも、しえるにできるのはこれが精一杯だった。芽緒は、本当に大変なときに限ってしえるを頼ってはこない。しえるにはいつでも助ける準備があるが、芽緒の意に反してまでそうするべきかは悩みどころだった。


 しえるは自分が不甲斐なかった。芽緒を助けられるなら何でもしたい。でも、今は何もできない。芽緒が本当に自分を必要としてくれるのを、あるいは自分でなくても、芽緒が必要とするものを与えられる人が現れるのをずっと待っている。


「……うん。芽緒ちゃんならできるよ!」


 芽緒はしえるにうなずいてから、光でできたボールペンをカラスに差し向けた。


「ここで勝って、えぐをエアリアルプリズムに連れてく! それがあたしの夢……! 邪魔するならカラスでもぶっ刺すから! 【光攻撃10】!」


 芽緒の攻撃には、バトル中でこの一度だけ、しえると同じくらい強い補正がかかっていた。

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