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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
33/42

6-2 ???, ???, ???, ???

6-2 Genjuku Station, Genjuku, Genjuku-ku, Tokyo




 現宿のイベントは三日間かけて行われる。前半の金曜と土曜は現宿駅、後半の日曜はエアリアルプリズムと舞台が分かれていた。前半は混雑回避のため時間制で、しえるが「エッグタルト」というパーティ名で抽選を当てたのは、今日、土曜の午後四時半からの組だった。


 全員そろって現宿駅の南口前で待っていると、午前の組だったアイルからメッセージが来た。


「アイルちゃん、けっこううまくいったって。あと今温泉にいるみたい」


 しえるがアイルの湯上りの自撮りを共有すると、芽緒は急に暑さを感じた。


「かわいいな、っていうか良いなぁ。あたしも緊張するし早く汗流したいよ」


 芽緒は、早くボス戦を終わらせたいとは言わなかった。もしかしたら、今日でもうゲームは終わりにするかもしれない。エアリアルプリズムへ行けたとしても、月曜から勉強だけの生活が始まるのは間違いない。だから、楽しまないと、と思う。


「ついに来たね。まあ、あるくさんがいれば大丈夫だと思うけど」


 一飛にそう言われると歩玖はうれしかったが、緊張もしてくる。


「……僕も、みなさんがいるので安心です」


 歩玖は、なんだかしえるみたいなことを言ってしまったと思った。ほとんど毎日しえるに勉強とゲームを教えてもらっているせいで、話し方がうつってしまっている。


「ガチ勢のパーティ、250でしょ? どこまで食い込めるかな……」


 芽緒は昨日からSNSをチェックして、ほかのパーティの自己申告の情報を集めていた。ポストやめぐらと噂される、全員バーチャルのやりこみパーティは断トツの成績を残している。アイルもこの一週間頑張っていたようなので、これで二枠は埋まると考えていい。


「300オーバーしたら絶対アウトだね。……あ、ごめん、そろそろ時間か」


 EPL有利の局面でも、やりこんだバーチャルにはかなわない、などと考えていて、芽緒はまた楽しもうというのを忘れてしまっていた。話題を切り替えて、考え直す。勝つのも大事だが、そのためにみんながつまらなくなったら意味がない。


「うん。行こ!」


 時間になり、しえるを先頭に南口改札へ進む。久しぶりのふかしイモの新作ダンジョンなので、期待が足取りにも出ていた。


 しえるには両方見えているが、画面では駅の外観や構内は岩壁になっていた。安全のため、雰囲気は損なっても人や段差、非常口などは現実のものが映る。また、ボス戦以外はドローン、ジェスチャー操作、EPLは禁止になっている。ただ、手持ちカメラの配信なら可能だ。


「けっこう混んでますね……」


 一般客やプレイヤーはとても多い。歩玖は方向音痴なので、迷子になったら合流できなさそうだった。来るときもしえると一緒だったので、ここがどこなのか全くわかっていない。ダンジョンのマップや駅の地図を見ても理解不能だった。そもそもの造りがダンジョンだと思う。


 「あれ敵かな?」「あれ何だろ」と、しえると一飛が同時に言った。ドローンが使えないので、一飛はしえるのレンズのカメラの映像を見ている。


「ヒヨコじゃない?」


 動物に目ざとい芽緒にはすぐに黄色いヒヨコだとわかった。ヒヨコにしては人のひざくらいまであるので相当大きめだが、そこはゲームなので視認性優先なのだろうと歩玖は思った。


「なんだお前らは! 敵か⁉」


 近づくとヒヨコは喋りだした。一飛は「ちゃんとしたボイスだ。さすが豪華だなー」と言っているが、その場の三人はヒヨコに威嚇されて戸惑った。しえるは腕を組む。


「なんでヒヨコなんだろ? あ、名物のお菓子だからかな」


「ふかしイモならありそう。……えぐ、早くセリフ送ってあげないと。固まってるよ」


 「そっか、ゴメン、ぴよちゃん」と言って、しえるはヒヨコを動かしてあげた。


「というか、こんな弱そうな奴らは俺の敵じゃなかったな。ハッハッハ!」


「感じ悪。ヒヨコ好きだけど性格も大事だよ」


 芽緒がリアクションをとっているうちに、ヒヨコはどこかへ行ってしまった。が、すぐに戻ってきてまた「なんだお前らは!」と言ってきた。どうやら方向音痴らしい。


「ここはもともと俺たちの家だったんだが、カラスの【夢幻術】でダンジョンに作り変えられてしまったんだ。最深部でヤツをブッ倒す!」


 しえるは歩玖に聞かれたら、「夢幻術」とは夢幻力を使った技のことで、システム的に言うとアーツのことだと説明しようと思ったが、必要なさそうだった。


「なるほどね。最後にカラスを倒して、ヒヨコちゃんの家を取り返せばいいんだ!」


 芽緒と一飛は「それ盛り上がるの?」「ファンタジーにしちゃ地味だけど、ふかしイモらしいっちゃらしいか」と言っているが、しえるは普通にわくわくしていた。ヒヨコとの会話で、方向音痴の彼を最深部まで案内することになった。


「敵が来たら俺に言うんだぞ! いいな!」


「偉そうに……。あ、言うだけあって一応普通のバトルに参加してくれるんだ。でも強いの?」


 芽緒はパーティの画面におまけ枠でヒヨコが加わったのを見て、性格が悪くてもヒヨコはヒヨコなので満足した。歩玖はこのパターンは初めてだったので、メンバーの数には入らないが一緒に戦ってくれる仕組みだとしえるから説明を受ける。


「って言っても、今回のボスは競争用だから、ボス戦のときはいないと思うけどね。紫音ちゃんも控えに入ってるけど出てこれないし」


 こういう大会形式のバトルでは、公平を期すため、バトルメンバーは一度に戦える人数と同じ四人までで、控えメンバーは参加できないと決まっている。道中ではいくらでも交代ができるので、いつ誰がトイレに行っても大丈夫、とのことだった。


「えぐ、どうしたの?」


 説明しながらしえるがずっと笑いをこらえていたので、芽緒は気になっていた。


「ゴメン、なんか、ぴよちゃんが芽緒ちゃんに似てるなって思って……あっはは」


「えー⁉ ひっど! ウソでしょ⁉ どこが⁉」


 芽緒は否定するが、歩玖と一飛も、方向音痴なのが歩玖っぽいという部分を考えても、武闘派なところが芽緒に似ていると思っていた。


「ひゃー! 怖いよー!」


 ヒヨコ加入のストーリーはまだ続いていたらしく、今度は左手から緑色のヒヨコがものすごいスピードで走ってきて、正面の奥にある竜巻の中へ駈け込んでいった。黄色のヒヨコによると、彼の仲間だそうで、臆病者で逃げ足が速いという。一飛は事前の説明を思い出した。


「じゃあ、六個あるチェックポイントっていうのがヒヨコなのかね。ヒヨコを六羽集めればボスと戦えるってことか」


 一飛が言い終わらないうちに、画面に「ひよこを集めよう!」と指示が出てきた。残りのヒヨコは現宿の各路線である、NR線、丸ノ間線、央江戸線、京臣線、小田速線と関係するところにいる、とみられるヒントが出ている。


「マジか……。けっこう歩きそう。ボスまで集中力持つかな」


 芽緒は体力にあまり自信がない。ボスを倒すのを含めて九十分の時間制限があるので、休憩も考えて取らなければいけないようだった。


 緑色のヒヨコが入ったのはNR改札だ。参加者は自由に改札を通れるが、今はゲーム的には竜巻があるので入れない。緑のヒヨコが来たほうへ進むと、景色はじめじめしてきた。コウモリやヘビ、カエルのような敵が襲ってきたり、ところどころに水たまりがあったりする。


 しえるは水たまりで道が分断されているのに気づいた。


「え、どうしよ。通れないね」


「俺に任せろ!」


 黄色のヒヨコは土属性の力を使って、水たまりを埋め立てた。


「これで通れるってことか! やるじゃん、黄ぴよちゃん!」


 プレイヤーの反応を見越して作ってあるのか、黄ぴよは誇らしげだった。一飛が冗談で「やったじゃん、@さん」と言うと、芽緒は「あたし関係なくない⁉」と強めにつっこんだ。


「こういう感じで、各属性のエリアを、ヒヨコの力を使って進むってことなんですね」


 歩玖は、ダンジョンの経験が少ない自分でも、これだけの広さを迷わず進めるのは、パーティと一緒なのもあるが、やはり運営やふかしイモの作り方に工夫があるからだろうと思った。一飛も似たようなことを思っている。


「大きいイベントは基本ライト層向けだから、仕掛けの難易度は低めだよね。企業案件で個性も出づらいだろうし。あと、ボス部屋が最初から地図に載ってるのも珍しいな」


 目的地を確認しておきたいので、まずそこへ向かうことになった。奥へ行くにつれ薄暗くなってきて、闇に潜む謎の影や光の玉など、幻想的な敵たちを倒しながら進む。階段を下りていくと、ボスがいる最深部への扉の前に、ぼんやりとピンク色に光るヒヨコがいた。

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