6-1 Hikari’s Room, Namio-machi, Yonoji-shi, Tokyo
「じゃ、行ってくるねー!」
部屋の扉の向こうからしえるの声が聞こえて、ひかりは机から「気をつけてねー」と返した。はりきって出て行ったらしく、ドアが勢いよく閉まる。今は夏休みだしアルバイトだけなので、野球で鍛えた体力があり余っているのだろう。
今日はいよいよ現宿のダンジョンを攻略して、エアリアルプリズムへの参加をかけてボスと戦う日だ。カウントで上位八パーティに入ることができれば、明日の夜行われる運営の生配信の中でラスボスに挑戦できる。しえるは昨晩ひかりに楽しげにそう話していた。
ひかりはしえるにゲームを楽しんでほしい。でも、しえるが楽しんでいればいるほど、ひかりは良心が痛んだ。これで正しいんだろうか、とひかりは思う。親子で同じことをやっているのに、こんなに壁があるなんて。
二十年ほど前の、ひかりがしえるくらいの時代はまだ、ゲームに熱中するのは後ろめたいこと、という風潮が残っていた。ひかりは性格からして、自分がゲーム好きだということはずっと誰にも言えなかったので、しえるはいいな、と羨ましく思っている。
結婚や出産をしてからだいぶ状況は変わったものの、ひかりの両親はかなりお固い部類だった。教育にも厳しかったので、一人っ子のひかりは箱入り娘という感じで育つ中で、けっこうストレスを抱えていた。ただ、根が明るかったのでなんとか耐えられた。
反発したいと感じることも多かったが、そのエネルギーはゲームに向けられた。家はほぼゲーム禁止だったが、ひかりはよく隠れてプレイしていた。とはいっても、遊べるのはほんのわずかな時間だった。
それで、ゲームができないときは攻略本を熟読して、やってもいないダンジョンを何度も想像でクリアしたり、研究したりした。後から考えると、自由にゲームができるようになった大学以降よりも、この頃のほうが楽しく、今の仕事の土台にもなった気がする。
友達には恵まれたが、趣味が全然違うタイプだったので、ゲームの話は一切しなかった。結局、人生で大半の相手から隠している。親はともかく、今や夫や娘にまで隠すことになろうとは思ってもみなかった。しかし、これこそが今のひかりの原点だった。
今の仕事は本当に最高に楽しい、夢のような仕事だ。でも、本音を言えば、しえると一緒に遊べたらどんなにいいだろう、と思う。どちらかなんて選べないとはいえ、現実、しえるより自分を優先している。ひかりはその部分は見て見ぬふりをしていた。
「なんでこうなったのかな……」
ひかりは、空気の層の軽い触感が売りのスナック菓子をサクサク言わせながら、窓に浮かぶ夏らしい雲を眺めた。四王子からエアリアルプリズムが見えることはまずないが、製作者のひかりにはそこにあるように感じる。そして、空が飛べたらな、と思った。




