5-2 Place of Origin, Cave to the End, Holos
「ぼくもいろいろ口出しちゃったから、ちょっと派手すぎたかも。どう?」
「いえ、むしろ良かったです。私マニアックなほうに行きがちなので、なかなかキャッチーにできないんですよね」
ひかりはラスボス最終形態のアバターをバーチャルで歩かせてみた。今は人型のキャラクター部分だけだが、本番はごてごてしたオプションパーツがつく。それに、ここはケイヴトゥジエンドで本来は別のカラス型のボスがいる場所だ。こういう光景は開発者しか見られない。
「怒涛の作業も、あとはやめぐらくん対策だけか。いや~、頑張ってるな~」
八戸はコウノトリの姿で腰を伸ばした。プロデューサーとして関わる中で、八戸は宣伝が最も自分の本領を発揮できた。今はまさにその時期なので、ほかの会社の人に会ったり配信に出たりで忙しい。気持ちは衰えないが、この歳だし体にはけっこう来ていた。
「……はっきり言って、私はあんまり賛成できないです。プレイヤーには気持ちよくボスを倒してほしいですもん」
エアリアルプリズムのラスボスは、ほかのバトルと違って八組のパーティが協力して戦う形式だ。イベントのフィナーレを飾る、お祭り的な意味合いが強い。ひかりは、ここでボスが激戦の末敗れるのが一番みんなが楽しめるし、自分もすっきりする。
ただ、八戸と会社の方針は違った。ボスはプレイヤーがぎりぎりで勝てないくらいの強さにしてほしいと要請されている。未発表だが、エアリアルプリズムのイベントは現宿だけでなく、全国の各主要都市でも行うことになっている。人気次第では世界でという計画もあった。
それで、エアリアルプリズムやゲームそのものの寿命を延ばすために、まずはプレイヤーに負けさせておいて、一、二年かけて攻略させていきたいのだ。
「おイモちゃんには大変申し訳ない。そういう気持ちでやるのってつらいでしょ。でも協力してくれたの本当ありがとうね」
八戸は、ひかりがリアルでは本心を言えないのを知っている。ほかの開発者がアバターでやりとりすることは通常ないので、こうしてことあるごとにひかりの意思を確認して、尊重するようにしていた。
ひかりをディレクションした責任というのもあるが、八戸は同じクリエイターとしてひかりの才能を買っていたし、本人の人柄も気に入っている。
人に夢を与えることができるのは特別なことだ、と八戸はつねづね考えていた。そして、夢は現実と戦うための力になる。
八戸は大家族で生まれ育って、いつもきょうだいに埋もれがちな目立たない子だった。でも、やはり注目してもらいたかったので、そのために努力した。何か面白いことを言えば自分を見てもらえるのがわかって、才能を磨いた。
アーティストに憧れて大学で奇抜な生活をした後、入った広告会社でたまたま絵本を描くよう勧められ、偉い人に気に入られて出版されることになり、さらにその本で芸能人が感動して泣いたと話題になって、八戸はとんとん拍子に有名になり、テレビにも出るようになった。
八戸は、自分にはアーティストとしての素質はあっても、絵本の才能はないとわかっていた。絵本の内容はひどかったし、他人は見当違いに読むし自分勝手に感動するし、アートの本質ではなくコネやカネで評価される世界に嫌気がさしていた。でも、お茶目なので人気があった。
藤山と出会ったのは、八戸が絵本作家としても広告界でも確固たる地位を築いた頃だった。藤山はビデオゲームの黎明期を切り開いた、業界では伝説の人物だった。八戸は、藤山こそ本質を見抜き作品にできる本当のクリエイターだと思った。
八戸は藤山に認めてもらいたかった。業種は異なるが熱烈にアプローチし、ゲームとメディアをミックスする仕事を作り出して、一緒に働きながらかなり親密になった。藤山のほうでも、自分にはないセンスを持つ八戸が気に入り、プライベートでもつきあうようになった。
その藤山が、七十歳を過ぎても、自身が生み出した人気シリーズの新作を作る、しかも新技術であるMRを土台にAIも取り入れると聞いて八戸は衝撃を受けた。「創造と破壊」というテーマにも共感し、協力させてほしかったのでいろいろとお互いに相談に乗ったりしていた。
しかし、EODが四年でピークを迎えたとき、会社は藤山をプロデューサーから外すことにした。藤山は超がつくほどの重役で、藤山指揮下ではEODの評判がもろに会社に影響するからだ。藤山には成功だけをしてもらい、あとは後ろで見守ってもらう、ということだった。
八戸はそういうやり方が嫌いだった。EODにはアート性が必要だ、という藤山の考えを汲み取り、なんとかうまい形でプロデューサーに就任することができた。まず始めたのが、創造が行き詰っていた今までのEODを壊すことだった。これは自分にしかできないと思った。
今、八戸は藤山や自分のように、夢を持ち、また与えることのできる人を探していた。やめぐらやひかりやアイルにはその素質がある。できれば自分を継いでほしいとさえ思っていた。
「もし、おイモちゃんが嫌ならそう言ってね。おイモちゃんにできないことは、ほかの人にやってもらえばいいんだからさ」
八戸がそういうつもりで言っているわけではないとわかっていても、ひかりには「できなければほかの人に替わってもらう」と聞こえてしまう。ひかりは責任がどんどん重くなっていくのは大変でも、新しい創作に挑戦したい。
ひかりは今の仕事が天職だと思っている。絶対に手放したくない。娘を邪魔者扱いしているわけではないが、もししえるに知られてしまったり、それが明らかになったりしたら、会社からの信用を落としてしまうかもしれない。
最悪なのはしえるがひかりに勝った場合だった。この時代、どこから情報が洩れるかわからない。二人のことを調べ上げて、ひかりが娘かわいさに攻略法を教えたとか、もっとひどいめちゃくちゃなことを言ってくる人がいてもおかしくない。
今回、ひかりが会社の言うことを聞いてボスを強くすれば、そんな事態も防ぐことができる。
「……大丈夫です。やれますよ。そのためにハコネにいるんですから」
「カッコいいな~。じゃあ、そう伝えとくね」
通話を終え、ひかりはディスプレイも外さずに、エンドウマメのスナックを一口つまむ。
すでにラストイレイザー対策の最後の切り札は作られている。一度しか使えないかわり、ほとんどカウントを消費しないのに一定時間無敵になれるというチートみたいなアーツだった。できれば使いたくないが、いざというときは仕方がない。
そちらが最強の武器なら、こちらは最強の防具で対抗しよう。そう考えると、ひかりは本当にラスボスの気分になってきた。でも、それだけにボスの孤独もわかる。
「ダンジョンって、こんなこと考えながら作るもんだっけ……」と、ひかりは心の中でつぶやいた。疲れる。しょっぱい系のより、甘いものをとったほうがいいかもしれない。ひかりは、冷蔵庫にしえるが買ってきてくれたエッグタルトがあるのを思い出し、取りに立った。




