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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
27/42

4-7 Hazamano Park, Hazamano, Yonoji-shi, Tokyo

 芽緒が確認したカウント数は198だった。アイルたちの196とは僅差で負けてしまっている。どうやら、歩玖で決められなかった時点で敗北は決まっていたようだ。


「……すみません、結局しえるさんを倒れさせてしまって」


「ううん。大丈夫。それより私は、あるくんが楽しんでくれてたのがうれしいな。でも、私のマネするのはちょっと早かったかもね!」


 芽緒と一飛もしえると同じだった。


「そうそう。負けたのは悔しいけど、そこは覚悟の上でやったんだから悔いはないよ。だから謝ることないって」


「いやー、スリルあったね。ちょっとしたミスはみんなあったから、あるくさんのせいじゃないよ」


「……ありがとうございます。楽しくできたのも、みなさんのおかげです」


 バトルでそれどころではないのもあって見ていなかったコメントは、おおむねパーティに好意的な意見になっていた。最後の歩玖の賭けは賛否あったが、ラストイレイザーに頼り切らない工夫された攻略法や、自力の低さを役割や技術でカバーしていることなどが評価された。


「まだなんか言ってる人もいるけど、これでやめぐらカリバーの正当な持ち主として認めてもらえるんじゃない? あるく様」


 芽緒にからかわれて、歩玖はまた恥ずかしくなった。この流れではもうアバターを変えられないような気がする。


「じゃあ、またね~!」


 お互いの健闘を称えてから配信が終わって、アイルはグラスを外して目を輝かせながらしえるに尋ねる。


「ねーねーねー、楽しかった?」


「うん! 楽しかったよ。アイルちゃん、いつもこんなことやってるなんてすごいね」


 アイルはかなり期待して、改めてしえるを誘う。


「しえるも一緒にやろうよ!」


 しえるはアイルをがっかりさせたくないが、ここははっきりさせなくてはならない。


「……ゴメンね。楽しかったのはホントだけど、私は今のパーティが好きだから、みんなと一緒にいたいの」


「そうかもしれないけど、しえるはうちのパーティのみんなも好きになるよ! ねー⁉」


 今日のメンバーは個性があって魅力的で、配信でも相当人気だしEPLも強い。自分にもしえるにもぴったりだ。パーティのみんなをアピールしようと思って、アイルはかがみゆ、冷歌、ハルキのほうを振り返った。


「ええ。そうですね」


「また会えたら良いな」


「……俺も、そう思う」


 アイルはグラスをしていないので、返事をしたのは、ただの三機のドローンだった。


「あ……」


 アイルは突然寂しくなった。自分には、しえるの仲間たちのように、この場に一緒にいてくれる人がいない。移動の時間やお金をかけるほどではない、と言われているような気がしてしまう。よりによって今日は、いつも一緒にいるダディもいない。


 しえるには、アイルがそう思っているのがわかった。前にも一度、しえるが誘いを断ったときに同じように寂しがったことがあった。そのときは泣いてしまっていたのだが、今も泣きそうに見える。


「……みんな、今日はありがとね! また一緒にやろ!」


 アイルは涙を押し殺して、三人との通話を明るく終えた。いつもは抱き着かれている側だが、しえるはアイルをそっと抱えるようにハグする。


「アイルちゃん、今日うち泊まってく?」


「え⁉ いいの⁉ ダディに聞いてみる!」


「マジで⁉ いいなぁ……」


 さっきまでが嘘みたいに喜ぶアイルと対照的に、芽緒は残念がった。今日はいつもより遅くなってしまうので、帰りは歩玖を電車で送ることになっている。いっそ歩玖も一緒に泊めさせるか、というのが一瞬頭をよぎったがさすがに無理だ。


「あ、じゃあさ、夕食どっかで食べようよ。で、もしよかったらなんだけど……」


 芽緒はちょうど四人だと気づいて、例のクーポンのことを思い出した。でも、凛花たちのことも思い出す。あのとき、三人と自分で四人になる、とどうして考えられなかったのだろう。早く使ってしまいたいのと、とっておきたいのとでまだ迷っている。


「アイルからあげがいい!」


 芽緒が言いかけているうちにアイルが主張してしまった。しえるはそう来ると思って、すでに最寄りのファミリーレストランをみんなの画面に出していた。


「ここでいい? パンダちゃんの近所にもこのお店ある?」


「え? 俺も? いや、ちょっとそれは……」


 今夜はコンビニのからあげ弁当にしようともう決めていたし、その四人に混ざるのはどうなのかと考えた一飛だが、誘いを断り切れず同じ店の出前を取ることになった。


「じゃ、行こっか!」


「……待って、えぐ子さん。先にみんなに言っときたいことがあります」




「からあげ定食! からあげ多めね!」


「そんなのある? あ、二個増えるやつのことね。あたしも決まり。えぐは?」


「私プリンアラモードと~……。何にしようかな」


「デザートから決めるんだ……」


 芽緒はまた歩玖が決めかねているようだったので、さっきの話を改めて言う。


「今日は酒田一飛二十九歳独身冷蔵庫故障中のおごりなんだから、遠慮しなくていいよ」


「あ、はい。パンダさん、ありがとうございます」


「いえいえ……。ここでみなさんに払わせたら……。ねえ?」


 一飛は何とか大人としての面目を立たせてもらえた。会計時に誰かに電子マネーを送金することになっている。


「いただきま~す! 熱!」


 アイルはいきなりからあげを口に入れたのでやけどしそうになった。からあげからあげ言われてもブレずにきのこスパゲティにした芽緒以外の三人は、結局からあげ定食を食べている。


 そろそろデザートという頃、しえるはアイルの残したキュウリが気になった。


「アイルちゃん、キュウリ食べないの?」


「うん。しえる食べる?」


 芽緒はアイルのわがままがまた始まったと思った。


「いや、自分で食べないと」


「だって~……」


 みんなで、食べないとダディに告げ口するぞ的な冗談を言ったが、食べ物の好き嫌いは親公認らしい。とは言われてもアイルの口からではあまり信用できない。芽緒は無理に食べさせるつもりもよその教育に口を出すつもりもないが、甘やかされているとは思ってしまう。


「ていうか、しえるもタコ嫌いじゃん!」


「あ、アイルちゃんよく覚えてたね……。私はちゃんと食べてるよ、けっこう無理やりだけど。嫌いでもさ、これ食べれば強くなれる! って思うから」


「でも、ダディは好きなことだけしてるほうがいいって言ってるよ。好きが一番強い! って」


 しえるはダディの考え方をだいぶ把握しているが、芽緒はそう聞いてようやくわかってきた。


「なるほどね、そう来られるとな……」


「だから、しえるのこともあきらめないよ! 今日のパーティのみんなにも、アイルのこともっと好きになってもらう! アイルがもっとみんなを楽しませられるようになれればいいんだもん!」


 歩玖は、自分と違ってアイルには最初から「自分がある」ので尊敬した。ただ、それは別としてキュウリは食べられるようになったほうがいいと思った。


 芽緒も、これまでのアイルの振る舞いにはかなり苦手なところがあったが、今のを聞いて見方が変わった。芽緒もできれば好きなことだけをしていたいタイプなので、もしかしたらアイルと似ているのかもしれないと感じる。


「じゃ、@さんよろしくね」


「オッケ。ごちそうさま。ありがとね!」


 食事中何を話したらいいのかわからずほぼ無言だった一飛から送金されて、芽緒は会計に向かう。


「あ、そうか」


 この店で例のクーポンを使えるのはわかっていた。芽緒は一飛の手前言い出さないでいたが、今なら気づかれずに使える。浮いた分はまた現宿のときに使ってもいい。財布のクーポンを半分引き出す。


「いや……」


 芽緒はクーポンを戻した。凛花たちと使うときのためにとっておこう。これは、あたしの武器なんだ、と芽緒は思った。




 間野から歩玖の五百歳烏山までは京臣線で一本だが、二田までは乗り換えが必要だ。歩玖と電車に乗り込んでから、芽緒は確認ついでにそういう話をしていたが、すぐに終わってしまった。そういえば、歩玖と二人で話す機会はあまりなかった気がする。


「あたしもえぐのとこ何回か泊まったことあってさ、ちょうどえぐのパパがいたときもあったんだけど、お医者さんだしなんかそれこそゲームの勇者みたいな人だったよ。やっぱえぐのパパだな、って感じでイケメンだったなぁ」


「へぇ~、しえるさんのお父さん、そういう感じなんですね」


 しばらく話していて、芽緒は自分だけ、しかもほぼしえるのことだけしか話していないのに気づいた。いくらアイルが羨ましいといっても、これでは歩玖に悪い。


「……歩玖は今日、どうだった? 楽しかった?」


「はい、楽しかったです。とても」


 歩玖は芽緒に、今回しえるに楽しむと約束して、自分の「夢」も見つかったことや、役割を果たせたのも楽しかったと話した。


「でも、負けちゃってやっぱり悔しかったので、現宿のイベントでは勝ちたいです」


「だよね。やっぱやるからには勝たないと」


「芽緒さんは楽しかったですか?」


「え」


 聞かれるとわかっていたのに、いざとなると慌ててしまう。芽緒はやはり、楽しむことよりも結果とか、しえるがどう思っているかというのばかり気にしていた。


「……あたしも楽しかったよ。湯布院アイルもだけど、歩玖も強いよね。すごいと思う」


 急に褒められたので、歩玖は何と言ったらいいかわからなかった。


「失敗を恐れずに挑戦する勇気、っていうのかな。バトルの最後もそうだったし、歩玖はEODとかあたしたちのこと何も知らないのにパーティに入ってくれたでしょ。なかなかできないよ。あたしは無理だな。失敗するのが怖いから。いつも、失敗したら死ぬって思ってる」


 芽緒がしえるのことを強いと思っているのは、失敗したり傷ついたりしても、その経験をまた新しいことに挑戦する力に変えていけるからだった。それで、同じことができる歩玖やアイルのことも強いと思った。


「えぐみたいにうまく説明できないけど、何て言ったらいいんだろ、楽しかったは楽しかったよ。でも、本当はもっと楽しめたはずだった。歩玖がえぐに楽しむって言ってたみたいに、あたしも現宿では楽しめるようにしようと思う。だからありがとう。勉強になった」


「いや、そんな……。僕も、ありがとうございました」


 芽緒に真面目な顔で言われて、歩玖はやはりどう返したらいいのかわからない。


 ちょうど五百歳烏山に着いたので、お礼は別れ際のあいさつになった。


「あー……」


 ほとんど誰もいない車両が走りだして、芽緒は頭を抱え、言ってるそばから失敗したと思った。なんで小学生男子に人生相談みたいに話したのか。歩玖なら小さいから何言ってもいいかと思ってしまった。最悪だ。死にたい、いや死んだ、などと考える。


 正面にある、光が走る真っ黒いガラスには、楽しくなさそうな自分の顔が映っている。芽緒は無理に笑顔を作ってみて、ぎこちないな、と思った。

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