4-6 Hazamano Park, Hazamano, Yonoji-shi, Tokyo
「それじゃ、やってみよ!」
ゴーレムと奉行は再び姿を現して、パーティに立ちはだかった。
一番素早い芽緒は、無言で先手の防御デバフを奉行にかける。開幕の一発がミスになると微妙に難しい展開になるが、命中したのでほっとした。
「よし……! 歩玖、いいよ!」
歩玖は攻撃回数を一回でも増やすために、芽緒には追いつけないがしえるよりも素早くなっていた。最低限の防具しか準備できなかったのもあって、今は芽緒以上に極まったアタッカーだった。
「は、はい! 行きます!」
歩玖はいちおう気分を出すためと、どうせ「攻撃3」しかしないしパネルの選択を間違えたら嫌なので、また木の棒でジェスチャー操作をしている。ゴーレムに素早く棒を振って、いつもどおり出た上限越えのダメージもとんでもないが、増えたコメントの量も半端ではない。
「え~っ⁉ ヤバ……!」
アイルのパーティの三人はラストイレイザーの威力を前に、キャラとも素ともつかないような、配信映えしないリアクションになってしまった。アイルのファンのほかにやめぐらのファンもかなり見ているらしく、一時コメント欄がやめぐらコールで埋まった。
「ゴーレムが硬くなってからのほうがインパクトあっただろうけど、撮れ高とかあたしたちには関係ないから!」
芽緒は、ゴーレムと奉行を並行して倒そうとしているのを指摘するコメントを見つけて気を良くした。宝の持ち腐れではないのを見せつけてやりたい。
「あるくんいいね! 私も……。EPL! ミックスアップ!」
かくはん器を構えたしえるが輝く。歩玖にはその光がアイルのパーティの誰よりも明るく見えた。味方のひいき目かと思ったが、コメントには同じような意見があったので安心した。
「ムランゲ・ブークリエ!」
庸布のときと同じように、しえるの盾がメレンゲになった。しえるは本物のメレンゲを作るとつい泡立てすぎて失敗してしまいがちだが、この「ムランゲ・ブークリエ」は鍛えれば鍛えるほど頑丈になるので使うとテンションが上がる。ただ、味はたぶん良くないと思っている。
「来るよ!」
しえるの直後はゴーレムの攻撃だ。歩玖と芽緒はしえるの後ろに隠れた。バーチャルかどうかやジェスチャー、EPLのオンオフに関わらず、攻撃の対象は位置情報に基づいている。それで、盾に入るにはしえるよりもボスから遠くにいなければならない。
「ヴォ~!」
仲間をかばったしえるの受けたダメージは、バフのかかったハルキと同じくらいだった。EPLに詳しいと思われる、的を射た評価のコメントがあったので、芽緒は自分のことのようにうれしくなった。
「この大舞台ですごいね、えぐ子さん。俺なんか手震えてるよ……」
一飛は後半に備えて温存しておきたいので、少ないカウントでしえるをちょっとだけ回復した。
相手もアイルたちに負けていない、という雰囲気のコメント欄を眺めて、普段のアイルだったら不機嫌になったはずだが、今は違った。アイルもしえるが褒められているのがうれしかった。
あのEPLからして、しえるは配信を楽しんでくれている、とアイルは思った。このままいけばしえるもアイルのように配信でたくさんの人に楽しんでもらうことの良さに気づいて、配信仲間になってくれるかもしれない。
ゴーレムを歩玖、奉行を芽緒が削っていく中で、だんだんパーティを批判するコメントが目立つようになってきた。そもそもアウェーだし、予想していたとおり、ラストイレイザーへの妬みも見てとれる。芽緒は無神経な言葉に苛立ってきて、【水攻撃7】を叩くのに力が入る。
「は~? 好き勝手言ってくれちゃって……」
芽緒は、パーティに極端なアタッカーは二人もいらないという意見が胸に刺さった。芽緒だってそう思うし、できるならとっくに違う役割をやっている。
歩玖も、わかってはいたことだが、行動が単調すぎるとか、ラストイレイザーに振り回されている、やめぐらの意思を受け継ぐ資格はないとか言われてショックを受けていた。
「あるくん、もういいよ?」
「あ、すみません。僕の番ですよね」
コメントを気にしていて、歩玖はしえるに声をかけられるまで気づかなかった。棒を振ってから、しえるやアイルのパーティがネガティブなことを言われてもEPLを続けられるのはどうしてだろうと思った。
「……しえるさんは、どうしていつも楽しそうにできるんですか?」
芽緒は「あー! クソコメマジウザくない⁉」とわめこうか迷っていたが、歩玖が良いことを聞いてくれたと思って手を止める。
「え? うーん、そうだなぁ……」
バトルに集中していたので、しえるは少し考えてしまった。それに、歩玖にはできれば自分の方法を自分で見つけ出してほしい。とはいえ、方法を参考にしてもらうのは良いかもしれない。
「私、野球やってたって言ったじゃん? どうしても相手チームの野次とかあるんだよね。あと、こっちが勝ったら向こうはつらいだろうな、っていうのもわかるの。だから戦いづらいこともあったよ。でも、そういうときは何のために野球やってるのか思い出すようにしてたかな」
「何のために、ですか」
「うん。私はチームのみんなを助けたい、そのためにここにいるんだ、今まさにそれができてる! って思うと、なんか楽しくなってくるんだよね。今もそう。みんなのためなら何だってできそうな気がしてくるよ!」
歩玖は、しえるが今まで何度もこういう状況を乗り越えてきたのだろうと思って、自分も楽しむと約束したのだから、しえるのように乗り越えたかった。歩玖は自分が何のために今、こうしているのかを振り返ってみる。
あのときの左利きの投手としえるが、歩玖には混ざって見える気がした。
「……僕は、みなさんの役に立ちたいと思って、そのためにやってます。探してた夢は、これなんだと思います」
そう口にすると、歩玖はなんだか気持ちが高揚してくる。もう間違いなく、これが「夢」なのだと確信できた。できることもやりたいことも、どうしてそうしたいのかもわかった今、歩玖はしえるの言うように、何でもできそうな気分になる。
「そっか、もう見つかったんだね。すごくいい夢だと思う!」
アバターの笑顔を向けられた歩玖は、本当のしえるの笑顔のようにも感じた。
「何のために、ね。さすがえぐだなぁ」
芽緒も、勝つために、と考えると、ほかの人はほかの人だ、と思えるようになった。
「さ、こっからだよ、えぐ!」
「ジュジュ~……!」
芽緒の攻撃で奉行が沈むと、ゴーレムのラッシュが始まる。この攻略法ではしえるの防御力が上がりきらないのに対して、敵の防御バフはしばらく残る。あとはしえるとゴーレムのどちらが先に倒れるかだが、テストプレイでは先にゴーレムが倒れたことはない。
「バフが切れたらあたしはフルカウント打ち込むから。それまでよろしく」
防御バフ中は攻撃の効率が落ちてしまう芽緒には、しえるにただ守ってもらうことしかできない。でも、それが自分たちのパーティなのだから、外野に何を言われてもいい。芽緒はアイルとの勝負に勝つのと同じくらい、しえるが生き残るのも願っていた。
「うわ~、やっぱりきついなぁ……」
EPLや一飛の回復があっても、しえるの体力はどんどん減らされていく。この攻撃でもメレンゲの効果は発動するが、相手の火力が上回っていた。
しかし、ゴーレムのほうも歩玖の攻撃でかなり弱ってきている。そろそろ相手のバフが切れて、ちょうど芽緒のカウントもたまるという状況だった。いつもならここでしえるが倒れるが、EPLのおかげでまだ大丈夫だ。ただ、カウントの調整は難しかった。
「まずいな……。詰んだかも」
一飛はしえる優先で味方を回復していたが、テストよりもしえるの受けるダメージが読めなかった。ペース配分に少しミスがあったのを後悔している。
「……やっぱ、誰か落ちないとダメな感じ?」
芽緒は何もできないのが悔しかった。アイルには勝てなくなっても、しえるを倒れさせないために攻撃デバフでも作っておけば良かったのかもしれない、とここへ来て後悔する。
「大丈夫、みんなは攻撃に集中して!」
パーティを励ましたしえるの残り体力は、もうあとわずかというところだ。パンダの残りのカウントは少し余裕があるが、すべて回復に使ったとしても、しのげる攻撃はあと一回だろう。
「でも……」
芽緒と同じように歩玖も、どうしてもしえるに助かってほしかった。
「あの……。次の攻撃は僕が受けてみてもいいですか?」
三人は、この局面で歩玖が突拍子もないことを言い出したので驚いた。芽緒が「え⁉ なんで⁉ 死ぬよ⁉」とストレートに言った後、しえるは尋ねた。
「えっと……。あるくん、どうしたの?」
「次の攻撃で僕が倒れて、パンダさんに蘇生をしてもらっても、しえるさんが耐えきれるなら、芽緒さんと僕の攻撃でとどめを刺せるんじゃないかと思うんです」
歩玖の説明をもとに、一飛がカウントを計算する。
「その手があったか……。ギリだね。一か八かになるけど、やる?」
「でもそれ、たしかにえぐが死んだままでは終わらないかもしれないけど、歩玖を一回犠牲にしなくちゃいけないってことでしょ?」
芽緒はすっきりしない感じがしたが、しえるは歩玖の案にかけてみたくなった。
「……やってみよっか」
しえるは一撃なら耐えきれる自信があったが、ゴーレムの体力を見ると、芽緒が歩玖と二人でとどめを刺しきれるかは五分五分だった。そこで決められなければアイルにはたぶん負ける。
「しょうがないな。あたしも頼られてるって受け取っとく。でも、湯布院アイルに負けそうだと思ったらカウント優先だからね」
パーティの意見が一致して、歩玖はうれしそうにしえるの盾の前に出た。
「ありがとうございます。やってみます!」
言い出されたときは戸惑った三人とも、歩玖がこんなに楽しそうな笑顔を見せているのは初めてだったので、どんな結果になってもいい、と思えてくる。
「ゴオォォォ!」
怒り狂うゴーレムに踏みつけられて、歩玖の体力がゼロになった。あまりに見事だったので芽緒は笑ってしまう。
「キレーに死んだね」
「はい……」
芽緒は、歩玖が謝ったら何か言ってやろうと思っていたが、謝らなかったので手持ちぶさたになった。
「あるくんの思いを無駄にはしないよ!」
歩玖の蘇生の後、しえるは攻撃を耐えてみせた。しかし、次は持たない。
「来ちゃったか、あたしの番」
カウントはちょうど10たまっている。日々苦労して作った水属性の強力な攻撃、その名もわかりやすい【水攻撃10】のアーツでさえ、上限ダメージには届くかどうかというところだ。歩玖の代わりに自分が落ちればよかった、という考えを振り払って、パネルを弾く。
「いや~、どっちだろうね……」
ほんの少し残ったゴーレムの体力は、一飛から見ても歩玖が倒しきれるかは微妙だった。
「行きます!」
歩玖が、これがとどめであってほしい、という気持ちで攻撃を放つ。
「ゴオォォォ!」
しかし、ゴーレムはぎりぎりで生き延びた。最後の力を振り絞るかのようにしえるを踏みつける。
「わー!」
しえるが倒れてすぐ、一飛は回復ではなく攻撃をしてとどめを刺した。
「ドオォォォン……!」という地響きを起こして倒れたゴーレムはポエジーとなって消える。
「どっち……⁉」




