4-5 Hazamano Station, Hazamano, Yonoji-shi, Tokyo
「絶対アイルたちが勝つから!」
間野駅で歩玖たちに出迎えられると、アイルはいきなり言い放った。しえるはアイルの後ろを見渡す。
「……あれ? 今日アイルちゃん一人?」
「うん。ダディは仕事。ほかの人はバーチャル。早くいこいこ!」
アイルはしえるの手をぐいぐい引いて、間野公園のほうへ行こうとする。歩玖には出かけるのに必須のナビを、アイルもグラスで見ているようだった。アイルによると、ダディも来るはずだったが退職準備の関係で急な予定が入ったらしい。芽緒は腕組みをしてついていく。
「あー、車じゃなくて電車だからこんなに元気なのか……。けっこうかかったんじゃない?」
「え? でも二時間だよ?」
なにげなく声をかけてみたら普通に返事してくれたので、芽緒は「案外素直なとこあるじゃん……」と思って少しときめいてしまった。しかし、これから戦う相手なのだから気を許すわけにはいかない。
「二時間ならそんなにでもないですね」
「そうそう、全然近い!」
旅行慣れしている歩玖やアイルと、自分たちでは感覚が違うと二人は思った。芽緒に至っては塾も学校も歩いて十分ちょっとなので、晶や庸布でも遠い部類だった。今日はやめぐらの試練以来の遠出のような気がしている。
配信は六時からの予定だ。この時間でもかなり日差しがある。しかも間野公園は河原なのでなおのこと蒸し暑い。バーベキュー場に着いてすぐ、アイルとしえるは「広~い!」と言って走り回ってはしゃいだが、すぐに汗だくになってしまい、やめておけばよかったと思った。
しえるは準備のためにドローンをパンダにした。一飛はアイルに「何このまぶしいパンダ、かわいー!」と言われた後、パーティに「ゆぶゆぶなんで一人なのかな?」と聞いていて、話題が遅れてしまっていた。
「ねーねー、みんながあいさつしたいって」
アイルが大きめのリュックからドローンを三機出して飛ばすと、歩玖たちにアイルの仲間のアバターが見えるようになった。三体とも配信者らしくかなり作りこまれている。
弓矢を持った和服の女性がお辞儀をし、スーツ姿の爽やかなお兄さんが両手を振り、クールな不良っぽい少年が会釈をした。
「はじめまして。かがみゆです。よろしくお願いします」
「冷歌です。よろしくね~」
「……ハルキ。お願いします」
歩玖は普段配信を見ないほうなので、「濃い」と思った。しえると芽緒は慣れている感じで、配信ファンの一飛は感激していた。
「しえる、もう始まってもいい?」
アイルの確認で、しえるはパーティと目を合わせ、うなずく。この戦いで、ラストイレイザーがチート呼ばわりされなくなれば、みんなでイベントをもっと楽しめるだろう。
「みんなー! アイルだよー!」
お決まりのフレーズで配信はスタートした。アイルが手慣れた様子で視聴者に今日のテーマを伝えたり、ものすごい量のコメントからちょうどいいのを選んで受け答えしたりしているので、歩玖は自分と一つしか違わないのにすごい、と思った。
「で、そのえぐ子のパーティがこっち!」
一回り大きい配信用のドローンがパーティのほうを向くと、コメントの量がいっそう激しくなった。「やめぐらカリバー⁉」「これがやめぐらカリバーに選ばれし者……」「あるくやべえ!」という声に、こんなに反応があるとは思っていなかった歩玖は驚く。
「あっ……⁉」
歩玖は、そういえばアバターが庸布のときの謎の剣士のままだったと気づいて恥ずかしくなった。片手で頭を抱えると「あるく様どうした」「アンニュイあるく様」「復讐は首が痛くなるよな」などと変なキャラ付けをされてしまった。
「あるくん、大丈夫? すごい注目されてるね」
全員のディスプレイに流れているコメントを見て、しえるが声をかける。こちらのパーティの生身の姿と声は配信に乗らないので、緊張を和らげたいのもあってそれぞれ話し始めた。
「大丈夫です。でもやっぱりこのアバター、自分だと思えないんですよね……」
「でもすごい人気じゃん。あたしとえぐのセンスわかる人多くて良かった。文字チャット送れるみたいだからウサ耳アピールしてみようかな」
「なんか、@さん意外と乗り気だな……」
出演者の紹介が終わって、アイルは公園のバーベキュー用スペースを指さす。
「これと戦って、カウントが少ないほうが勝ちね!」
数個並ぶバーベキュー台には、燃え盛る巨大な体のバーベキューゴーレムと、食材を網に乗せた、大きな右手と左手だけの存在である網奉行がミックスアップされている。
「なんか、バーチャルよりMRのほうがでかくない? 迫力あるな……」
歩玖も、十メートルはありそうなゴーレムの顔を見上げる芽緒と同じように感じた。存在感があるので、こんなモンスターが本当に暴れたら大変だろうなという気持ちになる。
「じゃあ、最初はアイルたちから!」
ラストイレイザーで視聴者を引っ張るため、順番は事前に決められていた。歩玖たちは、一時間くらいの尺を取りたいので、アイルたちが倒す平均である約200カウントで十五分というのを目安にEPLや感想などでつないでほしいと言われている。もはや仕事だった。
「みんな、いくよー!」
バトル開始と同時に、アイルのパーティは全員EPLで光り始めた。アイルのアバターは、歩玖がCMで見たのとほとんど同じだ。ただ、前は背中に小さな翼がついていなかった気がするので、若干の変更はあるのかもしれない。
「【からあげのうた】!」
アイルはEPL用に、ボーカル用のワイヤレスマイクをミックスアップしている。リアルで握っているマイクは配信用にもなるし一石二鳥だった。そして、味方の攻撃力を上げるアーツ「からあげのうた」を使うと、効果の時間中、ゲーム画面ではマイクがフライドチキンになる。
「アイルちゃんのEPLかわいいな~。ていうかお腹すいてきた……」
EPL推しのしえるは、アイルのアバターと本体に同時に見惚れていた。芽緒と一飛は相手側の戦略に注目している。
「初手、弓道女のターンだったけどスキップしたよね」
「弓矢だしデバフにダメージついてるんじゃない? バフもらってから打ちたいんだと思うよ」
「1カウント無駄になっても、ってことは、やっぱその軸で来たか」
芽緒は、いくらプレイヤーのレベルが高くても、個性の強い配信者同士が協力するには限界があると予測していた。思ったとおり、アイルのバフのおかげで三人は自分の慣れたスタイルを崩さなくて済む、というのが強みらしいが、譲り合えないことは逆に弱みにもなる。
「そんなやり方で、仲間のこと知り尽くしてるうちらに勝てると思ってんのかな?」
「……@さんって、バトルになると性格変わるっていうか、本性出るよね」
歩玖は今まではこんな会話を聞いてもさっぱりだったが、今はだいぶ理解できるようになっていた。
「【何見てんだコラ】……⁉」
ハルキは威嚇するようなセリフでアーツを発動した。EPL中はアーツを音声入力するのが効果的なのを利用し、アーツをセリフのような名前にしている。「何見てんだコラ」によって、ゴーレムと奉行の攻撃を引きつけるつもりだ。
「ヴォ~!」
ゴーレムは汽笛のように低くうなって、ハルキにこぶしを振り下ろす。まだ防御バフがないので、体力が三分の一ほど持っていかれた。
「ジュー……」
直後に奉行がゴーレムに肉を乗せて、防御力をアップさせた。肉や野菜など何が乗るかは完全にランダムだ。しえると芽緒は「お肉いいなぁ! 私ならタマネギから置くけど」「いや、あんなとこ何乗せても一瞬で灰になるから。あの網何の意味があるの?」と言っている。
「ハルキ、今助けるよ! 【マーメイド・ウェイヴ】!」
冷歌はアーツ名だけでなく、自身のポーズを認識させて回復のアーツを発動させている。彼の人魚のような優雅な身のこなしは、歩玖から見ても「これは回復しそうだ」と思えた。現に、EPLの難度が高いせいか回復量もそれなりに多かった。
「チ……。誰が頼んだ」
「逆に、頼まれたらやってあげないけどね」
ハルキと冷歌のやり取りは演技なのか本気なのかわからないが、視聴者には人気があるようだった。しえると芽緒もイケメン同士の関係性に惹かれなくはない。でも二人の好みとは少し違ったので、後で見ると言っていた紫音なら喜びそうだと思う。
「行きます……【氷柱揺らし】!」
かがみゆの射った矢はゴーレムと奉行の頭上に逸れていって、外れたかに見えた。しかし、いきなり出現した氷柱が奉行に突き刺さり、ダメージと防御力ダウンのデバフを与えた。一飛はパーティに、本名が「ゆみ」なことや、実際の弓をミックスアップしていると解説した。
「アイルさんのパーティ、すごいですね……」
歩玖はしえるのEPLしか見たことがなかったので、いろいろな人が自分の個性や特技を生かしたEPLを使っているので尊敬した。それで、アイルがしえるを自分のパーティに入れたがるのももっともだと思った。
「ホントすごい! 私にはできないなー、あんなの」
芽緒はしえるが謙遜しているのか冗談で言っているのかわからなかった。
「いやいや、えぐはこれよりすごいことやってるんだよ⁉ 安定して二割出せるの世界レベルだから!」
しえるが「またまた~」と言っているのが芽緒にははがゆかった。たしかに、運営からして競争を推奨していない上に基準が明確でないので、EPLは比較が難しい。ほぼ最高で二割も補正があるとはいえ、大多数のライトなプレイヤーには恩恵が少ないのも一因だった。
「まあ現状、EPLは配信のためにあると言っても過言じゃないからね」
「あー、そういう結論に行っちゃうんだ……」
芽緒は、今度は一飛が仲間っぽくフォローしてくれなかったのが不満だった。
その後、アイルたちは攻撃バフを主体として、奉行を集中攻撃して倒した。
「……グオォォォン!」
予定どおりゴーレムを怒らすと、アイルは防御バフである【おんせんのうた】に切り替えて、マイクを瓶の牛乳にした。ハルキは厳しくなった攻撃をしのぎつつ、【やってみろよオイ】や【テメェふざけんな】で回避やカウンターも織り交ぜる。
土台を固めた上に、かがみゆは矢を落とし打って間欠泉を呼び起こす【吹上げ瀑布】で攻撃デバフを与えたり、月に打ち上げる【月涙雨】で敵の消費カウント数を増やしたりした。冷歌は回復の傍ら【ドリームファウンテン】【海円舞】の激しいポーズで強力な攻撃も加えていく。
歩玖は、レンズで見ているとド派手なファンタジーなのに、実物ではアイルとドローンがバーベキュー台に向かって何か言っているだけなので妙な感じがした。それに、バーチャルの三人は誰も見ていない家であれをやっているのだ。改めてEPL使いのメンタルは強いと思う。
「勝ったー!」
アイルたちにとどめを刺されたゴーレムは仰向けに倒れて、バトルが終了した。
「196カウントか……200切ってきたね。さすがに危なげない立ち回りだったか」
芽緒は結果を確認した。練習ではこちらも平均は同じくらいで、最高記録は189だった。たしかに200を大幅に超えてしまうこともあったが、それは大きなミスがあったときだ。
「みんな、ありがと~!」
アイルは祝福のコメントに返事をしたり、パーティとお互いに活躍を称えたりしている。
「次はえぐ子たちの番ね!」
「うん! みんな、準備いい⁉」
歩玖と芽緒と一飛は「はい!」「オッケ」「いつでも」としえるに返した。




