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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
23/42

4-3 Aruku’s Room, Sakaikarasuyama, Setagaya-ku, Tokyo

 バーベキュー場のボスは【バーベキューゴーレム】と【網奉行】の二体一組だ。パーティ全員が揃う時間は限られているので、歩玖たちはそれぞれできるだけ少ないカウントで倒すための攻略法を探して、チャットに書き込んで情報を交換することにした。


 二体は、炎をまとった大きな人形のような姿と、食材を乗せた網を持っている左右の手だけの姿をしている。ボスは二体でいるときと、それぞれ片方が倒されたときの三パターンで行動が変わる仕組みになっていた。


 まず、二体の状態では、奉行が野菜や肉などでゴーレムの防御力を強化しながら戦う。次に、奉行が先に倒されると、ゴーレムは怒りに燃えて攻撃力が馬鹿力になる。ゴーレムを先に倒すパターンだと、奉行は自分で料理を食べて体力を大幅に回復してくる。


 最初は歩玖も、誰が何を考えてこんなボスを作ったのだろうと思っていたが、何度も戦っているうちにどうでもよくなってきた。通学路の敵たちを名前も見ずになぎ倒しているという芽緒の気持ちが少しわかった。


 テストプレイでは、パーティ全員のキャラクターを一人で操作できる。歩玖は何度も挑戦するが、なかなか良い方法が見つからない。ルールでさえまだ基本を覚えたばかりなので、攻略法どころかパーティの個々の能力を把握するのにもかなり苦労していた。


 しえるはそのあたりを歩玖に上手に説明する自信があったが、あえてそうしなかった。歩玖は日曜日、こんな風に言われていた。


「あるくんも、みんなと同じように一人で考えてみない?」


 てっきり、戦略が決まったら聞いてそのとおりやるものだと思っていた歩玖は不安になった。


「でも僕、ゲームのことあんまりよくわからないですし……」


「大丈夫! 私たちも最初はそうだったよ。それに、習うより慣れろっていうじゃん? 自分でやってみたほうが早く覚えられるし、身につくと思うんだ。どう?」


「……わかりました。やってみます」


「うん。探しもの、見つかるといいね。お互い楽しも!」


 そうは言っても歩玖はなんだかんだでみんな教えてくれるだろうと思っていた。だが、期待は裏切られてしまった。この件は芽緒も一飛もしえるに任せることにしたようで、知らないとまずいこと以外はほとんど教えてもらえず、歩玖は一人、チャットの呪文を解読し続けた。


 歩玖は初めは困っていたものの、調べたりいろいろ試したりしてわかっていくうちに楽しくなってきた。大変さもあるが、やめぐらの「試練」なしでラストイレイザーを手に入れてしまったぶん、この試練を乗り越えようと思えるようになった。


 しかし、三日もするとさすがに行き詰ってしまった。ちょうど夜、芽緒の勉強の合間にみんなでボイスチャットができたので、歩玖は相談することにした。


「みなさんのやり方を参考にしながら、網奉行を先に倒してるんですけど、ときどき全滅しちゃうことがあるんですよね……」


 芽緒も身に覚えがあるようだった。


「わかる。あのクソゴーレム、奉行いないと火力高すぎ。バーベキューっていうより生ゴミ焼却所」


 一飛はプレイスキルはあってもどうしてもヒーラー目線になってしまうようだ。


「うちは全滅はないけど慎重になりすぎちゃうときある。カウント縮めるにはもっと詰めないとかな」


 しえるは得意な戦術でそれなりに攻略できていたが、家ではEPLの乗りがいまひとつなので確信がつかめないでいた。


「でも、奉行ちゃんを先に倒さないとゴーレムくんが硬くなりすぎて、芽緒ちゃんの攻撃が通らないんだよね。あるくんの攻撃はどっちにも大ダメージなんだけど……。奉行ちゃんのほうを残してもバトルが長引いちゃうだけだし」


 四人とも意見が一致しているのは、ラストイレイザーの異常な強さが逆に災いして、奉行を早く倒しすぎるとゴーレムの火力が上がり、パーティが耐え切れなくなる、ということだった。せっかく自分にもとりえができたのに、まさかこんなことになるとは歩玖も思わなかった。


「湯布院アイル、あの候補全部こういうのだってわかってて出してきたわけじゃないよね?」


 芽緒が言うように、アイルに有利で配信映えするボスばかりだったのかもしれないが、条件が同じなら向こうも苦労するはずだ、としえるは思った。アイルの攻撃バフや防御バフがあっても、攻撃や防御を専門でやっている芽緒やしえるのようなメンバーはいないはずだからだ。


「あるくん、みんなの役割を生かしてみて。そしたら、うちのパーティの良さをきっと出せると思う」


 歩玖がしえるからもらったアドバイスは、結局このあまり具体性のない一言だけだった。でも、しえるのことだから何か考えがあるのだろうと思い、それ以上は聞かなかった。歩玖も「探求者」としてのレベルを自分で上げてみたい。


 次の日、歩玖はまたしえるのアルバイト終わりに合わせて庸布に行って、芽緒の塾と一飛の仕事の都合がつき次第、みんなで集まる予定になっていた。それで今は宿題と攻略を進めておいて、わからないところを後で聞くことにした。


 「みんなの役割を生かす」と言われても、それは歩玖もある程度やっているような気がする。ゲーム用語やセオリーも調べたし、自分と芽緒はアタッカー、しえるはタンク、一飛はヒーラーという役割は理解しているつもりだった。


 何か見落としがあるのかと考えて、歩玖はそれぞれのキャラクターの詳細を見直す。


 歩玖はほかのアーツは使わず、とにかく少ないカウントの攻撃を繰り返すのが一番効率が良い。効果量の少ないほかのアーツも作ったが、カウントの無駄だったので採用はやめた。


 芽緒は極限まで尖ったアタッカーで、多少の自己バフと防御デバフ以外は攻撃アーツしか持っていない。奉行にはいつでも攻撃が通るが、ゴーレムが硬いときはダメージが減る。また、打たれ弱いのでしえるにかばってもらうか回避が成功しないとあっという間に倒れてしまう。


 しえるは自分に攻撃を引きつけて味方を守る。EPLのことを考えると、本人が好きなアーツを使ってもらうのが最善だ。しえるは攻撃を受けるたびに防御力が上がるアーツを好んで使う。長期戦向きのアーツなので今回は使い方が難しく、受けすぎて倒れないよう要注意だった。


 一飛は全体をよく見て、しえるが倒れないようにしながらもみんなを回復する必要がある。誰か一人でも倒れてしまうと、蘇生の手間が入ってしまうのでかなり戦況が厳しくなる。ゴーレムが怒っていると、しえる以外は一撃で即死か瀕死なのでタイミングが重要だ。


 歩玖は改めて、このパーティは役割分担がはっきりしているのがわかった。


 プレイ歴が長く資産が多い一飛は一応ほかの役割もこなせるが、しえると芽緒はすべてのポエジーや経験値を今の役割に注いでいた。今回は参加できない紫音もデバフに特化していながら、三人とかみ合うアーツを優先的に作っているのが見てとれた。


 こういうスタイルになったのも、遊び相手がずっと変わらないという前提があってこそだったのだろう。歩玖はパーティの信頼関係が数字に表れているような気がして、自分もみんなのために役割を果たしたいと思った。


 対して、そんな友情パワーのパーティも時に苦戦する二体のボスはやはり強い。二体の関係性は歩玖にはよくわからないが、奉行を倒されて怒るからにはゴーレムにとって大切な存在なのかもしれない。だとすると奉行だけ残ったときのやけ食いはストレス発散だろう。


 考えると倒しづらくなるので、歩玖は背景ではなくボスの強さの秘密を調べることした。解説サイトに基づいて考えると、今回のようなボスも広い意味では晶くんのような「ギミック系」に含まれるらしい。


 ボスを強くすればするほど作るのに大量のポエジーが必要なのだが、弱点を設定すると要求ポエジーを減らせたり、そのぶんほかの能力を伸ばすことができるので、大なり小なりギミックを入れるのがうまく作るコツなのだという。


 ゴーレムと奉行はそれぞれ高い火力と防御バフを持っているが、引き換えに行動のバリエーションが少ないうえ、一方が倒されると極端な行動しかできなくなる。それが彼らの強さであり、弱さでもあるというわけだった。


 役割がはっきりしていると強いのは味方も敵も同じ。歩玖は自分の役割を全うしていて、やる気もある。でもうまくいかない。


「何が駄目なんだろう……」


 歩玖はお手上げだった。なんだか前の自分に戻ってしまったような無力さを感じた。できることもやりたいこともわからず、何かを探そうという発想もなかった、つい先週の自分に。でも、ここであきらめたくはない。歩玖はしえるのように、戦って乗り越えると約束したのだ。


 気分を変えようと歩玖がリビングへ行くと、母がちょうど素麺をゆでたところだった。歩玖が難しい顔をして食べているので、そんなに考え込んでいるのは珍しいと言われたが、以前の自分はそんなに何も考えてなさそうだったのかと思うと歩玖はますます考えてしまった。


 テレビでは甲子園の予選が流れていて、この試合に勝ったほうが東京代表とのことだった。歩玖は野球のことはよく知らないが、未だ女子選手が出場していないのは知っている。もし、しえるが野球のことだけを考える性格だったら、この試合に出ていただろうか。


 そう思うと興味がわいてきたので、歩玖は食べ終わっても母と一緒に試合を見続けた。勝負は接戦で、歩玖はしえると同じ左利きのピッチャーのいるほうを応援することにした。彼は投球や守備はすごいが、打撃はそうでもないらしく、そんなところも似ている気がしてきた。


 最終回まで同点で、歩玖は母に、点が入ればサヨナラ勝ちができると教えられた。ここぞというとき、彼に打順が回ってくる。緊張の場面で彼が狙ったのは、犠打だった。プレーを実況が締めくくる。


「決めました! 甲子園初進出!」


 しえるのような選手が活躍して、歩玖はチームと何のつながりもないのに喜んでしまった。それに、自分も彼のようにチームの役に立てたら、と思う。


「……あ」


 その瞬間、歩玖は最初にしえると出会ったときのような、不思議な気持ちになった。でも今なら言葉にできそうだ。ガラス窓を開けて真夏の熱気に触れたときのように、見えはしなくても、存在を感じられる。


 探してたのはきっとこれだ。


 僕は、誰かの役に立てるようになりたかったんだ。


 それが僕の「夢」だ!

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