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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
20/42

3-5 ???, ???, ???, ???

3-5 Genjuku Station, Genjuku, Genjuku-ku, Tokyo




「ねー、なんか今日人少なくない⁉」


 アイルがコメントを見ると、運営の配信の直後なのでほかの配信者とかぶっているからとか、ラストイレイザーの持ち主に会ったというネタが新鮮でなくなったからとか、それでもいるのが真のファンとかさまざま書かれていた。


「せっかく現宿来たのに……。これじゃただ車酔いしただけじゃん!」


 ダディの発案で、ダンジョンの場所が発表になったらすぐに現地で配信できるよう車でスタンバイしていた。しかし同じことを考えていた配信者がけっこういて、ただでさえ混んでいる駅前はどこも人でいっぱいだ。


「しょうがないよアイル、今日はこれくらいにしよう」


 ダディがカメラで撮りながら話すので、配信はさながらホームビデオという雰囲気になる。アイルが嫌がって駄々をこね始めるとますますそんな感じになった。


 ダディはもちろん、それを狙って配信している。親子感がよく出せたり、アイルの魅力を引き出したりできるシチュエーションを常に考えていた。本人が嫌がらない限りは必ずアイルの車酔いの様子を映すのも、わりと人気があるというのを踏まえてのことだ。


 他人や妻子には悟られないようにしているが、ダディはかなりの野心家で、アイルと一緒に配信の超有名人になりたいと考えていた。今は公務員の傍らだが、最近ではすでに、退職してアイルを専属でマネジメントするための準備が整いつつある。


 野望や復讐という点で、ダディはやめぐらに親近感があった。ダディは家庭の事情で、能力が高いという自負があるのに無難な進路を選ばざるを得なかった。配信で有名になりたいのは、アイルには自由を与えたい、周囲に力を知らしめたいという思いからだった。


 なので、ダディもアイルのためだけでなく、ラストイレイザーを手に入れたかった。


「そういえば、しえるちゃんたちも配信見たかな?」


 運転しながらダディが聞くと、そろそろ元気がなくなり始めた助手席のアイルは少しだけ息を吹き返す。


「しえるのとこ通る⁉」


「庸府も四王子も逆方向だよ」


「なんだ~……。じゃ、からあげ買って帰ろ。それか温泉寄ろ」


 アイルはしえるとからあげ以外に温泉も好きだった。本名は由布なのに湯布院という名前にしたのも、まだゲームではなく子育て配信をしていたときに、旅行先の湯布院温泉をアイルが気に入ったからだ。


「マミィが待ってるから温泉はちょっとな。頑張ったから、からあげは買って行こうか。お土産にもなるし」


「わーい……」


 うれしいはずでも、アイルは態度に出すのが難しくなってきた。外がもう暗いからか酔いが回るのが早い。


「それにしても、ラストイレイザーはチートじゃないかってコメントけっこうあったね、みんなやめぐらがどれだけ強かったか知らないから言ってるんだろうけど」


「そう! みんなしえるがうらやましいからって、チートとか言うのは絶対ひどい!」


 歩玖がラストイレイザーを持っていると知っている人はいないはずだが、アイルは配信を見ながら、まるでしえるが悪く言われているようで悔しかった。あと、昨日は自分からチートと言いだしたのはもう忘れていた。


 酔いと苛立ちで最悪に気持ち悪くなってきたアイルは、何か楽しいことを考えるようにした。例えば、しえるにパーティに入ってもらって一緒に遊ぶ。エアリアルプリズムに行くのに必要なら歩玖がいてもいい。二人にアイルのバフが加われば無敵だ。一位だって夢じゃない。


「……あ! そうだ! ダディ、良いこと思いついた!」


 ダディはアイルのアイディアを聞いて、やはり自分の子だと思って喜んだ。




「ママ?」


 しえるがひかりの部屋をノックすると、「今行くー」と返事があった。最近ひかりの仕事が忙しそうなので、しえるは心配していた。


「パパ、ママもうすぐだって」


 毎週末、勇哉は七瀬家みんなで家族の時間を取っている。しえるが高校に入ってからは、救急医としていつも病院にいるので、どうしてもコミュニケーションが限られてしまうからだった。やはり声だけよりも、画面で顔を合わせられるグラスやレンズを使いたい。


「あ、来た来た。ママ、仕事忙しいんだって? たしかにちょっとやせたかな」


 端末にミックスアップされている、画面の勇哉は笑ってから言った。


「え? うそ。けっこう食べてるけど……」


 しえるは二人のやりとりを見て、パーティと一緒にいるのも楽しいが、家族で過ごすこの時間も大好きだと思った。


「パパ、ママね、仕事中スナック菓子ばっかり食べてるんだよ。栄養偏ってるんじゃない?」


「えー、ちゃんと計算してるよ。栄養バランスいいと太りにくくなるからそれだと思う」


「それはちょっと無理があるんじゃ……。ママ、自分では気づいてないかもしれないけど、仕事のこと言えないからストレスたまってるんだろうね。オレ来月一回帰れることになったから、みんなでどっか遊びに行こう」


「うーん……。そうなのかな」


 ひかりが認めなくても、二人は仕事の疲れをとってほしいと思っていた。気を紛らわしてほしいので、しえるは最近の旅行で楽しかった場所のことなどを話した。勇哉も仕事のに合わせてレンズを新しくしたので、バーチャルでしえるのおすすめにいろいろ行ってみるという。


「じゃ、またね~」


 しえるとひかりが手を振ると、画面の勇哉は端末になってしまった。ひかりも仕事に戻ったので、しえるは少し寂しくなる。


 勇哉は救急医の仕事を熱意と使命感を持ってやっている。小さい頃からの夢だったので、昔から体力があるほうとはいえ、いくら疲れても力がわいてくるのだとしえるは聞いている。今は家族で離れているが、しえるが卒業したら家が職場の近くになる予定だ。


 数年前、ひかりが今の仕事を始めるとき、勇哉は内容が気がかりだったが、ひかりがずっとやりたかったことだと聞いて、応援することにした。しえるは、父も母も同じ思いで仕事をしているのにひかりだけ疲れているのは、体力のほかにも違うところがあるからだと思う。


 しえるは、できることならひかりの話を聞きたかった。自分が野球でそうだったように、好きなことをやっていると、それが好きであるほど、楽しいこともあればつらいこともあるものだ。しえるや勇哉は家族に話を聞いてもらって支えてもらえるが、ひかりはそうはできない。


 せめて自分が楽しんでいるところを見て気分を味わってほしいと思って、しえるはひかりにゲームの話をするが、ひかりはあまり興味がなさそうに見える。何か一緒に楽しめるものを探しているのだが、「新しい夢」と同じくなかなか見つからない。


 EODは、アイルのように家族で楽しんでいるプレイヤーも多い。しえるはアイルとダディに会うたび、うちもこうだったら最高なんだけど、と思う。でも、やりたいことというのは家族だって違うのが当たり前だ。


 だけど、もし……。


 そこまでで、しえるは自分の考えを止めた。今こそ自分と戦うときだ。つい、夢を見すぎてしまうのが自分の悪い癖だ。失敗は乗り越えると決めた。現実離れしたことを願ってもつらいだけだ。とはいえ、願いは完全には消えてくれない。しえるは思う。


 「願う力」なんて、ないほうが楽なのかな……。




 日曜日、しえるは昨日歩玖の勉強のことをすっかり放り出してゲームの話しかしていなかったのを反省して、今日は先に宿題にとりかかってもらうことにした。店が忙しかったのでちょっと眠いが、コーヒーをブラックにして耐える。


 しえるの見たところ、歩玖は勉強ができなくはなさそうだった。両親が気にしているのは、歩玖は教わればできるが、自分で答えを導き出すのが苦手ということのようだ。しえるも、歩玖の回答を確認しているうちだんだんわかってきた。


 得意とか苦手とかいう話ならしえるのほうが問題で、好きな科目と嫌いな科目の差が激しい。歩玖が算数の問題を解いているあいだ、自分も苦手な数学の宿題をやっていて、幸い歩玖から質問されなかったが、されたら説明するのに準備がいりそうだった。


「……よし、なんとか終わったね、あるくん!」


「はい、ありがとうございます」


 六時からパーティの会議ということになっているので、忙しかったがなんとか今日の分を終わらせることができた。歩玖は早めに勉強を始められるよう、芽緒に倣ってエクレアに決めておいてよかったと思った。


 芽緒と一飛がルームに入ると、しえるは昨夜チャットに書き込んだことへの意見を求める。


「じゃあ今度の土曜日、アイルちゃんのパーティと配信で戦うってことでいいかな?」


 二人は「いいんじゃない」「異議なし」と賛成で、しえると歩玖も同じだった。


 しかし、正直を言うとしえるはあまり乗り気ではない。アイルの目的は、まだ一度もゲーム配信をしたことがないしえるを配信に慣れさせて、パーティに引き入れやすくすることだとわかっていたからだ。かわいく見えてずる賢いのもしえるにはお見通しだった。


 それでも芽緒と一飛が賛成しているのは、ちゃんとメリットを考えてのことだ。しえるはパーティの目的をはっきりさせるため、その点をまとめてみた。


「ラストイレイザーをたくさんの人に見てもらえば、詳しい人にはチートじゃないってわかるし、私たちはやめぐらさんとは関係ないってことを伝えられるよね。それに、あるくんは本番の練習にもなる、ってことで」


 しえるは、アイルがそこまで見越しているとは思えないのでダディも協力しているのではないかと考えた。相手に回すと厄介なタイプだが、二人のことは好きだ。複雑な事情をゲームに持ち込んでしまうとしても、仲良く楽しくやれるだろう。


「ちょっと悩みどころもあるけど、戦ってみよっか!」


「うん! 現宿の叩き台にちょうどいいね」


 芽緒も言いはしないが、アイルが生意気なので一泡吹かせたいというのがあった。


「あと三人、誰が来るのかな。楽しみだわ」


 一飛としても、アイルがパーティを組むのはいつも配信者同士なので、配信好きとしては貴重な機会だ。


「僕も、頑張りたいと思います」


 いつになく歩玖がはっきりと意思表示するので、三人は少し驚いた。しえるも、そういえば歩玖のために説明をしなくてもよくなっているのに気づいた。成長がうれしいのもあるが、気をつけておきたいこともあった。


「頑張るのも大事だけど、ゲームなんだし、私はあるくんに楽しんでほしいな」


「え……。そうですか。すみません」


 芽緒は「いや、謝んなくても大丈夫だけど」とつっこみを入れる。その場にいたら背中でも軽く叩いたかもしれない。


 歩玖は、気を遣ってもらっているのがわかったし、しえるが「ゲームはみんなで遊んで楽しいのが一番」と言っていたのを思い出した。歩玖もそのとおりだと思って、自分がどうやったらあのときよりもっと楽しくなれるのかを探すことにした。


「わかりました。楽しんでみます!」


 できることや、やりたいことを見つけて、歩玖はこの数日だけで自分が変わってきているのを感じていた。


 レンズで変えなくても、自分が変わることで、見える景色が変わっていく。


 もしかすると、これが「夢を現実にする力」なのかもしれない、と歩玖は思った。

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