3-4 Les couleur, Itoda, Yofu-shi, Tokyo
昨日もいきなりやめぐらのことを聞かれたのを思い出して、しえるは芽緒がアイルみたいだと思った。
「歩玖もいるなら話早いね。パンダも配信見てたみたいだからすぐ来るって」
「……お疲れ~。もういるよ」
芽緒と一飛によると、やめぐらはさっきまでの配信で、ラストイレイザーを誰かが手に入れたことや、アイテムの詳細を明らかにした。しえると歩玖がアーカイブで確認すると、たしかに攻撃力「THE END」のあの画面があった。やめぐら本人が使用したときの映像もある。
「引退しといてなんだよっていうのはわかる。でも俺、やっぱりこのゲームが好きだったって気づいたよ。インはしないけど、お前らが何作るかとか気になるし、動画とかは見るわ。……は? よくね別に。俺の勝手だろ」
やめぐらの声は、歩玖が晶で聞いたときよりだいぶ落ち着いている感じがした。大量のコメントへのやりとりも親しげで、アバターも表情が柔らかい。歩玖は調べものをしているうちに知ったのだが、アバターや声が美少女風でも本人が大学生男子なのは有名な話だった。
動画の雰囲気はまあまあゆるかったが、芽緒は深刻そうだ。
「なんでもないみたいに装ってるけど、この時間にやるのは明らかに運営への挑戦でしょ。やっぱ、EODはまだ好きでも運営のことは許してないんだ」
しえるが歩玖への説明を兼ねた返事をする。
「そっか、六時から運営の生配信だもんね。コメントとかSNS荒れそ~」
一飛も芽緒と同じように気にしていた。
「運営が、復讐目的ってのを誹謗中傷として扱って、やめぐらをBANしたりラストイレイザーもなかったことにしたりとかって可能性はなくはないよね。でもそれって環境が荒れるってことだからやめぐらの思惑どおりだし。えーと、俺たちはどっちに味方したらいいのかな?」
芽緒はそういう争いはまっぴらだった。
「やめてよ、うちらどっちでもないから。……でもずっと配信見せられてたせいで、なんかやめぐらの気持ちわかっちゃうんだよなぁ。まんまとハメられたわ。てっきりバニラになってると思ってたから、久しぶりにかわいい【やめぐらちゃん】見れて喜んじゃったし」
「俺も俺も。あのアバター解体してないってことはポエジー余ったってことだよね。やばいわ」
そうこう言っているうちに運営の生配信が始まったので、それぞれ自分の画面で見る。
「どうも~! こんばんはー!」
配信向きな元気の良い女性アシスタントのあいさつに、若い男性と年配の男性が続く。
「はい、こんばんは。ディレクターの江良です」
「みなさんこんばんは。プロデューサーの八戸です」
コメント欄には早くもやめぐらについてのことがたくさん書かれている。過激な内容は表示されないにしても、運営への批判や擁護などの荒れようが目立つ。芽緒はやめぐらがうまく事を運んだと思った。
「あいつ、こういう悪知恵をゲーム以外にも生かしたらいいんじゃないかな。就活とか」
配信の内容は主に八月のイベントについてだった。これまでの情報では、前半も後半も都内で行われるということ以外は秘密だったが、アシスタントによれば今日は前半の会場が明かされるという。ふかしイモのダンジョンの新情報にしえるはわくわくした。
「じゃあ八戸さん! 発表の方をお願いします!」
「いくよ~。前半のダンジョンの場所は……ここです! ばばん!」
八戸がもったいぶって出したのは、現宿駅の写真だった。
「なんと、現宿駅がまるごとダンジョンになってしまいます! そして、ダンジョンの名前がこちら!」
現宿駅の写真が、だんだんと洞窟の入り口の険しい岩肌に変わっていく。そこに、「ケイヴトゥジエンド」というダンジョンの名前が現れた。江良が説明を加える。
「まあ、駅の中全体がダンジョンになる、というのが売りです。NRと私鉄各社とのコラボという形で、八月中は駅がEOD仕様になります。駅ダンジョン自体はみなさん目新しくないとは思うんですが、現宿駅規模は一応世界初です。治安の良い日本ならでは、という感じですね」
アシスタントとしえるのリアクションはほとんど同じだった。
「いやー! すごーい! 楽しみ~!」
配信が終わるまで、しえるの頭の中はダンジョンのことでいっぱいだった。ふかしイモはいったいどんなキャラクターや仕掛けを用意しているんだろう? パーティのみんなとのどんな冒険が待っているのか? そう考えると、解散の寂しさもどこかへ飛んでいってしまう。
「……なんか、現宿のインパクトありすぎたせいか、後半やめぐら関係のコメント少なかったよね」
結局やめぐら派目線で配信を見ていた芽緒は、自分たちとやめぐらに関係がありそうな情報を整理し始めた。
お知らせコーナーのような部分でさりげなく扱われていたのは、ゲームの特性上、極端なアイテムを作れるのは問題ないこと、プレイヤーによる環境の変化は想定内で、むしろシステムの根幹であること、エアリアルプリズムのような特例は運営上必要であることなどだった。
一飛は運営の対応を見て冷静になった気がした。
「やめぐらのおかげで俺も当事者みたいな感じしてたけど、たかだかいちプレイヤーのことで大企業がムキになるわけないか。これくらい言わせただけでもよくやったほうじゃないの」
芽緒は公平な見方になかなか戻れないでいた。
「でもさ、もうちょっとこう、やってる側に寄り添ってくれてもよくない?」
しえるもだんだん落ち着いてきて、歩玖が戸惑っているのを助ける。
「あのね、やめぐらさんが運営を嫌いになっちゃったきっかけっていうのが、実はエアリアルプリズムなんだ」
ゲームが始まってからずっと、ダンジョンを作る上では運営もプレイヤーもゲーム内の同じルールに従うことになっていたのだが、去年、八戸がプロデューサーに就任してから路線が変わって、運営はプレイヤーには絶対真似できない特別なダンジョンを作るようになった。
「エアリアルプリズムみたいに空中を飛ばしたり、虹を出したりするとんでもないオブジェクトは運営にしか作れないから、やめぐらさんは、不公平だ! って怒っちゃったの。そりゃ、みんないろんなもの作りたいのになんで自分たちだけ……って思うのはしょうがないかもね」
「ああ……。そういうことだったんですね」
歩玖は、やめぐらから最初に言われたことの意味がやっとわかった。やめぐらがラストイレイザーをくれたのはありがたいし、願いが叶わないのはかわいそうだが、復讐は歩玖には関係ないように思えた。
「そうは言っても、ゲーム会社も商売だからね。夢も見させるけど、現実も見てほしいって感じだと思うよ」
芽緒は一飛の言い方がドライすぎるように感じて反論したくなったが、先にしえるが話しだした。
「でもこれで、ラストイレイザーを使ってても大丈夫そうってわかったね。あるくんには活躍してもらうよ!」
「あ、はい……。でもなんか、あれって本当に大変なものだったんですね……」
影響力の大きさを目の当たりにした歩玖が不安になるのも無理はない、としえるは思った。昨日、イベント当日にラストイレイザーを使うと、ほかのプレイヤーの妬みを買うかもしれないと話してはいたが、実感が強くなった今、改めて歩玖の気持ちを聞いたほうが良さそうだ。
「あるくん、たしかに大変かも」
しえるは、歩玖のことを信じているが、無理強いはしたくない。エアリアルプリズムに行くために歩玖につらい思いをさせるくらいなら、ゲームなんてやらないほうがましだった。
「大丈夫です。僕も、戦ってみたいです」
「……そっか。ありがと!」
歩玖はしえるのおかげで、少しずつ強くなれているような気がした。




