表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
17/42

3-2 Kazuto’s Room, Hannichimachi, Yamagata-shi,Yamagata

 今日の仕事も最後の一キーを打ち終わって、一飛は椅子で体を伸ばした。


「あー、もう無理……!」


 アパートの壁は薄いので声を押し殺す。普通に話すレベルでも隣にはわかるらしく、さすがに内容までは聞こえないにしても、なるべく音を出さないようにするのが習慣になっていた。


 ほとんど外に出ないこともあって、一飛は隣の住人がどんな人かは知らない。ただ、けっこう神経質らしいというのだけはわかっている。一年くらい前、パーティとの話で盛り上がっていると、壁から叩くような「ドン!」という音がしたのだ。


 一飛は怖さと申し訳なさから、ゲームやボイスチャットの音声をヘッドセットに替えたり、話すときもなるべく小声にするようになった。壁ドンは一度きりだったがトラウマになってしまったので、もしまた同じようなことがあれば引っ越しも辞さない覚悟だ。


 一飛は何かあると、まず逃げることを考えてしまう。今の仕事も、新卒で入った会社から逃げて見つけたし、ゲームも基本的に現実逃避でやっている自覚がある。ヒーラーは性に合っているのが主ではあるが、つきあいが面倒になったらすぐパーティを抜けられるのも考えのうちだ。


 今のパーティに入ったのも、もともとは決まったパーティに入らず傭兵のように遊んでいたときにたまたま組んで、そのまま長いこと続いているという状況だった。女子受けを狙ってパンダをしているつもりはなかったのだが、見た目を気に入られたらしい。


 本心を言えば、一飛もかわいい女子たちのパーティにいられるのはかなりうれしかった。でも、未成年が二人もいたので気を遣わなければいけなかったし、今もそうだが変な気を起こさないように自分を制するのは非常に大変だった。


 最初は三人とも一飛にかまわずガールズトークをしていて、とてもしんどい時期があった。プライベートな話題に入るのを避けていたら、芽緒に「仲間意識が足りない」ときつく言われた事件があった。芽緒は反省して一飛も少しは歩み寄り、三人も自重するようになってくれた。


 一飛はちょうどいい距離感を保つのにけっこう苦労した。向こうがこちらに好意を持つことはあり得ないとしても、自分が好きになってしまう可能性は十分にある。というより、好きにならないのがおかしいと言えるくらい彼女たちは魅力的に見えた。


 だから、そもそも外に出て人に会いたくないのもあるとはいえ、一飛はパーティにリアルでは会うつもりがない。やめぐらカリバー探しで近くに来たときも理由をつけて断った。画面でもなるべく実物でなくアバターを表示したり、本名は呼ばないようにしたりと努力している。


 そこまでするならパーティを抜ければいいだろ、と一飛は自分でも思うが、やはり居心地が良かったし、一飛なみに強くて時間の融通が利くヒーラーはそうはいない。そのうえ、三人にだいぶ情が移ってしまっている。


 状況が変わってきたのは、紫音の婚約と芽緒の受験だった。ひとまずエアリアルプリズム挑戦を目途にいったん解散という流れになって、一飛は肩の荷が下りたと思う一方、寂しくもあった。できるかは別として、「仲間」に悔いがないよう最善を尽くしたいと思ってはいる。


 そして、歩玖の加入は一飛にとっても、大きな変化だった。


 歩玖がラストイレイザーを使いこなせるようになれば、エアリアルプリズムに行ける可能性は高い。また、パーティに男子が増えたのは心強かった。


 しかし、そう都合の良い面ばかり考えていても良いのだろうか、と一飛は思う。


 紫音が一飛よりひとつ年上だったのでなんとなくバランスが取れていたが、今は自分以外十代、最年少は十二歳となってしまっている。これには一飛も戸惑いを隠せない。万一のことがあった場合、自分にもなにがしかの責任があるような気がした。


 歩玖の両親の心配はよくわかる。しえるや芽緒の親だってそうだろう。一飛は、自分みたいなタイプの人間は青少年に悪影響ではないか、という恐れがあった。昨日、歩玖と顔を合わせたとき、それを改めて実感した。


 いろいろ考えていると気が滅入ってしまう。本来ならそんなときは「ゲームでもするか」となるのだが、今はゲームにも逃げ場がない。まさに八方ふさがりだった。


「あ、もう来た」


 トラックのブレーキ、ドアや荷下ろし、階段を上がる音は全部聞こえる。一番大きい音はチャイムで、その後は順番が逆になった。一飛は配達員と顔を合わせて疲れたくないので、流れが去ってから受け取りに行く。そんなことはパーティに言っても仕方のないことだった。


「さて、と。ちょっと気分転換しますか」


 今の仕事になってから外に出なくなったので、一飛は食材を頼むようになった。意外にも料理が楽しくなり、ゲーム以外での良い趣味になっている。箱を回収して冷蔵庫を開けると、異常に気づいた。


「え……。あれ?」


 冷蔵庫の中がいつもより冷たくない。牛乳パックやベーコンの包装ビニールの感触が明らかにおかしかった。冷蔵室だけでなく、庫内のほかの部分も同じだった。検索して配線から内部まで調べたが、どうやら故障らしい。


「これ……。やばくね……?」


 冷蔵庫壊れた。一飛はしばらく呆然とそのフレーズを心の中で繰り返した後、今ある食材の始末や、外食や冷蔵庫の買い替えを考え始めたが、すぐに頭がフリーズした。何をするにしても人に会わなくてはならない。それはどうしても嫌だった。


 いったい自分の社会性はどうなってしまうのか、一飛は不安になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ