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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
14/42

2-7 Duole West, Itoda, Yofu-shi, Tokyo

 芽緒の心配も空しく、ウサギはタマゴから怪しげな光を浴びせられ、ちょっとやばい感じの眼でこちらに振り返って叫んだ。


「うわー! モンスターだ!」


 ウサギは懐中時計をぶんぶん振り回して臨戦態勢をとった。しえるは自分とパーティを見比べる。


「え、それ私たちのこと? たしかに物騒な物持ってるけど……」


 歩玖は、ウサギからモンスター呼ばわりされるくらいならアバターにもう少し注文をつけておけばよかったと後悔した。芽緒は別のことを後悔している。


「ウサギと戦うなら先言っといてよ……。倒せば正気に戻るパターンであってほしい!」


 例によって順番が最初の芽緒は、ウサギを攻撃しなくて済む方法を探る。するとウサギ以外もターゲットとして選べることがわかった。


「ドアとタマゴも殴れるみたい。えぐ、どうする?」


「タマゴくんが悪いっぽいから、倒せばウサギちゃんを解放できるかも」


「オッケ。あのタマゴ、エッグタルトにしてあげる!」


 芽緒が火属性のアーツでタマゴを攻撃すると、それなりのダメージが出た。ウサギはかなり素早いらしく、次に行動して芽緒をキックした。


「危な! かばってもらう前だから避けれてよかった……。ウサギの脚力はヤバいから」


 ほかの全員が行動した後、ドアの順番となった。ドアが開くと、廊下で戦った映画のキャラクターがまた出てきて攻撃した。一飛が感想を言う。


「リサイクルかな。良い省ポエしてくるじゃん」


 芽緒が「言ってる場合?」と不安になるのももっともで、敵の火力は高めだった。しえるの体力はすでに半分近くに減っていて、このままでは一飛の回復が追いつかないかもしれない。


「ふへへへへへへへへ……」


 タマゴは自分の番には笑うだけだった。しかも笑う行動はアーツらしく、カウントをかなり消費している。再び順番が回ってきた芽緒は違和感を覚えた。


「ヘンな笑い方……。今の意味わかんないの何? 狙っても意味ないってことかな」


 一飛は何かを思い出したらしい。


「あ、原作だとこいつ壁から落ちるんじゃなかったっけ。ていうかこれネタバレになる?」


 その件は英語の授業で知っていたしえるが答える。


「大丈夫! 芽緒ちゃん、ドアを先に倒そ!」


「わかった。って言っても削り切れるかな。自己バフかけるのが先か?」


 道中の敵とは違ってボスの体力は高いので、さすがのラストイレイザーでも一撃では倒せない。その超火力で良いペースで行けそうではあるが、しえるはいつもかばえるわけではない。打たれ弱い二人のどちらかが倒されてしまったら立て直せなくなりそうだった。


「うーん、どうしよっか……」


 もうひと工夫必要そうだ、と考えていたしえるは、ふと広場の注意書きが目に入った。


「……あ! ここゲームエリアだ! EPL使えるよ!」


「そうなんだ。じゃあ、あとはえぐに任せる!」


 芽緒がカウントを多めに消費してドアを攻撃すると、ウサギがしえるに懐中時計を投げつける。時計はどこかへ行ってしまったが、ウサギのポケットからはまた新しい時計が出てきた。


「ゲームあるある出たな……。えぐ、お願い!」


 ゲームエリアではジェスチャー操作ができるが、EPLは人や物との距離が十分でないと解禁されない。廊下のエリアからはゲーム内でも人物は実物が見えているので、しえるはよく確認して距離を取る。


「うん! みんなもうちょっと離れて!」


 歩玖は、ゲーム的には守ってもらうはずなのに離れるというのが微妙に納得いかない気がしたが、割り切って考えることにした。


 W館側の広場には子供用のちょっとした遊具やしゃれたベンチなどがある。しえるは、ここがイベントスペースとして使われているのを見たこともあった。広さは十分あるものの、周りの目が気にならないと言えば嘘になる。


「EPL、ミックスアップ!」


 別に音声入力から始める必要はないが、しえる的にはここで吹っ切れてしまうのがコツだった。熱が冷めないうちにかくはん器を取り出し、今回は右手で掲げる。


「【ムランゲ・ブークリエ】!」


 しえるのアバターは、EPLの特徴的な光に縁取られた。かくはん器でもある盾が姿を変え、人が隠れられるほどの大きなメレンゲになった。


「私がみんなを守るよ!」


 しえるは良い感じに気分が乗っていた。これならいつもどおり、EPLの効果でダメージを二割ほど軽減できるはずなので、順調に勝てるだろう。そう思っていると、目の前を横切る主婦と目が合った。


「あ」


 しえるの嫌な予感は的中した。


「お、お疲れさまで~す……」


 しえるが、かくはん器を持っていないほうの手を振ってあいさつすると、向こうも感情が読めない笑顔で振り返した。芽緒はスルーされると余計恥ずかしいだろうと思って尋ねる。


「……誰?」


「パートの中野さん……」


 しえるは、どこから見られていたのかと思うと恥ずかしくなってしまい、もう中野さんを見ることはできず、買い物袋から出たネギしか見送れなかった。


「ゴメン、やばいかも!」


 歩玖はしえるが慌てながらそう言った意味がわからなかったが、しえるが敵に攻撃されたときにわかった。しえるがメレンゲ(かくはん器)で受けたダメージは、EPL使用前より増えてしまっている。


「え~っと、あるくんもわかったと思うんだけど、EPLって諸刃の剣なんだよね……。ネガティブな気持ちだとちゃんとAIにバレちゃって、むしろ弱くなっちゃうこともあるんだ。ゴメンね」


「そうなんですね……。でも、大丈夫です」


 失敗して意気消沈しているしえるが、やはり歩玖には意外だった。EPLの光も弱くなっていてなおさら弱々しく見えてしまう。


 芽緒は歩玖ほど心配してはいないらしい。


「だからあたしみたいに、安定性とか時速重視でEPLは使わない人も多いってわけ。でも、えぐが強いのはゲームの中だけじゃないからね」


 しえるは二人とパンダにうなずく。


「ありがと。ちょっと立て直してみる」


 しえるはかくはん器を両手で持って深呼吸した。歩玖には勇敢そうな騎士がメレンゲを構えているように見えるので変な感じがした。リアルのしえるのほうがまだまともに見えるかもしれない。


 しばらくして、しえるに強い光の輪郭が戻ってくる。


「……行ってみよっか!」


 しえるの気持ちとともに、パーティの態勢も整った。歩玖と芽緒が攻撃、しえると一飛が防御というサイクルがうまく回り、ドアを倒すことができた。


「ふへへへへへへへへ……」


 ドアがなくなって落ちてきたタマゴは、不気味に笑いながらどこかへ転がっていく。これでバトルは終了した。


「どういうメンタルで作ったのかね、あれ」


 一飛はエディットしたプレイヤーが心配だったが、芽緒はウサギが心配になる。


「ウサギどうなるのかな?」


 ウサギは無事、我に返ったようだった。


「なんか映画みたいな夢を見てた気がするなぁ……。そうだ、映画を見なくちゃ!」


 ウサギは別のドアからアメリカのコミックみたいに勢いよく入って、すぐに出てきた。今ので映画を観終わったことになっているようで、いつ手に入れたのかポップコーンを片手に満足した様子で帰っていく。


「やっぱり、映画は映画館で観るのが一番だね!」


 ウサギのこの一言が、ダンジョンのエンディングだった。


「いや、何そのオチ? そういうセリフはなんかほかの映画で聞いたような……。まあ、ウサギが良いんならそれでいいけど」


「@さんはウサギには甘いんだよなぁ……」


 芽緒は一飛に訂正を入れた。


「えぐにも甘いよ。ねー?」


 しえるも芽緒に「ねー」と返し、二人は笑った。つられたわけでなく、歩玖も笑顔になる。


「ありがとうございました。ダンジョン、楽しかったです」


「ホント? よかったー!」


 しえるは、歩玖が心からそう言ってくれたとわかってうれしかった。


「やっぱり、ゲームはみんなで遊んで楽しいのが一番だよね!」


 「なんか、今のウサギみたいな言い方」と芽緒が言った後、パーティはあれこれダンジョンの感想を言い合った。ラストイレイザーの絶大な威力が話題になる中で、しえるが歩玖に尋ねる。


「でもさ、こういうゲームってやっぱり、ちょっとずつ強くなる楽しみもあるよね。最初から最強っていうのは、あるくん的にはどう?」


 ゲームをあまりやったことがないので、歩玖は聞かれていることの意味がよくわからなかったが、はっきりしていることもあった。


「僕、今まで得意なことってなくて、何もできないと思ってたんです。でも今日は、なんて言うか、僕にもできることがあるんだって思って……。みなさんと遊ぶのが楽しかったのもありますけど、だから楽しかったんだと思います」


 歩玖が年のわりにしっかりしているので、三人は感心した。芽緒は「マジで湯布院アイルより年下?」と確かめてしまった。


「そうなんだ。あるくんはそういうのが楽しいって思うんだね。どんなことが楽しいかって、私とか、芽緒ちゃんとかパンダちゃんもみんな違うじゃん? でも、いろんな人がいろんな楽しさを見つけられるのが、このゲームの良いところだと思うんだ」


 しえるは赤くなりだした東の空に小さなエアリアルプリズムを見つけ、目を細めた。


「私がこのゲームとか、ふかしイモさんが大好きなのは、そういう感じでいろんなことを教えてもらったからなの。だから、もっと挑戦して、もっと知りたいって思う」


 歩玖は今回自分も体験した、ゲームから教わるという発想に興味をひかれた。


「ふかしイモさんのダンジョンって、そんなに面白いんですか?」


 意外にも、三人は即答はしなかった。最初に一飛が答える。


「まー、遊びやすいから万人受けするのは間違いないけど、どうしても好みはあるからね」


「あたしはちょっと物足りないって思うこともあるよ。尖ってるみたいな面白さはないし。それに、えぐは苦手なアレと絶対戦わなきゃいけないでしょ?」


 「ア、アレね……」としえるの笑顔が少しひきつる。


「ふかしイモさん、なぜかタコとかイカとか、さっきのミミズみたいなぐにょぐにょを必ず敵として出してくるんだよね……。でも、私はアレを乗り越えてこそ強くなれる! って思ってるから」


 アレが毎回となるとそれは大変そうだ、と思う歩玖に、しえるは続ける。


「で、遊んでると、ちょうど苦しいな、ってとこにヒントがあったり、これをこうすればいいのか! って考えたり見つけたりするのを楽しめる作りになってるんだよね。あと、なんか温かみというか、ダンジョン作るのがホントに好きなんだな、っていうのが伝わってくるの」


 芽緒と一飛はなんとなくわかるようだったが、そう大まかに言われても歩玖には想像がつかなかった。


「なんか、挑戦するのがちょっと楽しみになってきました」


「うん。あるくんも楽しめたらいいな。イベントまであと三週間くらいだから、それまでに経験値も必要だし、いろんなダンジョンに挑戦してみよう!」


「はい!」


 自分に何ができるのか教えてくれたしえるや仲間たちに、歩玖は感謝していた。


 しえるがゲームから教わったようなことを、自分ももっと探してみたい。


 それが今、歩玖がやりたいことだった。

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