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ホロ暮らし  作者: 御影 夕介
10/42

2-3 Les couleur, Itoda, Yofu-shi, Tokyo

「ねー、この人たち誰?」


 しえるにまとわりつきながら、きゃいきゃい言ってテーブルに戻ってきたアイルは、歩玖と芽緒を見るなりしえるに尋ねた。


 アイルがさっきよりスッキリしている理由もだが、芽緒はアイルの態度が気になった。こっちからすればそっちが誰だよ、と言いたくなる。


「うちのパーティのみんなだよ。芽緒ちゃんとあるくん。今日紫音ちゃんはいないけど、リモートでもう一人、えっと……酒田さん」


 アイルがグラスを外しているのでパンダと酒田で迷ったしえるの気持ちはわかる一飛だが、どっちにしても緊張していた。


「ど、どうも」


「ふーん」


 一飛と一緒に歩玖と芽緒もあいさつしたが、アイルは興味がなさそうだった。アイルはまたしえるに抱き着く。


「しえる、なんでうちのパーティ入ってくれないの~?」


 しえるはいつもそう聞かれるたび、同じ返事をしている。


「今のパーティが好きだもん」


「やだ! アイルのほうが好きになって!」


「あはは……」


 しえるは、いっそう強く体を密着させてくるアイルと目を合わせたら言うことを聞いてあげてしまいそうな気がして、困った笑顔をパーティに向けた。


「ねー、ダディからもしえるにお願いして!」


 ダディは「うーん、そうだね」とこくこくうなずくだけだった。芽緒は娘のわがままを注意しない父親にも、誘惑されてちょっと心が揺らいでいるしえるにも腹が立ってきた。自分でも嫌なやり方だと思いながら話題を変える。


「えぐ、なんかおすすめある?」


 しえるは芽緒にアイコンタクトし、ゆるやかにアイルを引きはがしながらダディに言う。


「フルーツ系のなら、晩ごはん前でも大丈夫かな~と思いま……」


「からあげがいい!」


 しえるの語尾はアイルにかき消されてしまった。


「アイルちゃん、からあげはないよ⁉」


「じゃあミルクセーキ! ミルク多め!」


 「じゃ行こっか」と言ってカウンターに向かうしえるとアイルに、ダディもついていった。「すげー、普段からこうなんだ」と言って喜ぶ一飛と、隠してはいるがどう見ても不機嫌な芽緒のあいだで、歩玖はなんと言ったらいいかわからなかった。


 アイルはミルクセーキを一口含むと、急に思い出したように言った。


「忘れてた! やめぐらカリバー見つけたのってしえる⁉」


 あまりに突然だったので、しえるはアイスコーヒーを吹き出しそうになった。


「え~っと……」


 しえるはちらっと歩玖を見る。昨日のチャットでは、できるならラストイレイザーのことは秘密にしておいたほうがいいと話し合っていた。しかし話している最中、すでにほかのプレイヤーたちはやめぐらカリバーの入手者が現れたことをニュースで知り、話題にし始めていた。


 ニュースになったのは、歩玖たちよりほんの一足遅く晶公園に辿り着いたプレイヤーが、晶くんの撃破ランキング一位の異常なダメージログを見たからだった。「あるく」の名前は知られてしまったはずだが、拡散はさすがにマナー違反なのでされていない。


 パーティの方針は歩玖の意向に任せることになって、歩玖はいろいろ説明を受けた。歩玖としては、今でもランキングを見ればわかることだし、いずれイベントでラストイレイザーを使えば明らかになるので、身バレする覚悟はすでにできていた。


「あの、僕です」


「うそ⁉」


 アイルは口の周りについた白いひげを拭くのも忘れて、歩玖の隣に座ってきた。


「……こんな、あの線路歩いてた映画の子みたいなのが⁉」


 歩玖は誰のことかよくわからなかったが、アイルのほうがよほど子役っぽいと思った。


 アイルにせがまれ、歩玖はラストイレイザーのデータを見せる。「THE END」へのリアクションはしえるたちと同じだったが、晶くん戦のリプレイについてはだいぶ違った。


「なにこれなにこれずるい! こんなのチートだよー!」


 アイルにわめきたてられて歩玖が困っていると、しえるが「あるくんはずるくないよ」とかばってくれた。しえるに叱られたと思ったらしいアイルはすねていたが、すぐに何かを思いついたようで、歩玖の肩に腕をまわす。


「ねー、アイルのパーティに入ろうよ」


「えっ⁉」


 歩玖は思いもよらないことを言われたのと、アイルの顔が近いのとでかなり動揺してしまった。


「やめぐらカリバーあればみんなめっちゃ配信見てくれるよ! 顔けっこうかわいいし絶対人気出ると思うなー……」


 見かねたしえるが口をはさんだ。


「アイルちゃん、EPLがやめぐらカリバーになっただけで、私の時と同じこと言ってない?」


 図星だったのか、アイルは話題をすり替えようとしているらしい。


「しえるはなんで嫌なの⁉」


 さっきも言ったんだけどな、と思いながらも、しえるはより詳しく説明する。


「アイルちゃんのパーティに入るってことは、顔出しで配信するってことだからね」


 歩玖は紫音から配信について言われた時も無理だと思ったが、そういう話ならアイルのパーティに入るのはなおさらだった。しかしやはり、もし最初にアイルに会っていて、今みたいに言われたらやっていたかもしれないと思うと自分が怖かった。


「なんでなんでなんでなんでぇ~!」


 アイルはしえるの説明に納得せずに駄々をこねている。芽緒がアイルに注意しそうなのを見て取ったしえるは、アイルの機嫌をとってうまくあしらうことにした。


「でも、うちのパーティってバフが薄いから、アイルちゃんみたいなすごいバッファーがいたら助かるだろうなぁ~」


 アイルの目が輝く。


「ね? そうでしょ⁉ しえるは絶対、アイルと一緒に遊んだほうが楽しいよ!」


「アイルちゃんと遊ぶのも楽しいけど、ほかの人と遊ぶのも楽しいよ」


「もー……! しえる強すぎ~!」


 口ではしえるに勝てないと思ったのか、褒められたので多少満足したのか、どちらにしてもアイルは静かになった。


 しえるの機転のおかげで冷静になれた芽緒は、しえるを改めて見直した。でも、少し引っかかるところがあった。芽緒も、当然しえるは自分と遊んでいるほうが楽しいに決まっていると思っていたのだ。


 芽緒がぼんやり考えごとをしながらエクレアの最後の一切れを片づけると、アイルは歩玖に標的を変えた。


「何年⁉」


「ろ、六年です」


 アイルは勝ち誇った顔で言う。


「勝った! アイル中一!」


「ええ……?」


 そう自信満々に言われると、歩玖は謎の敗北感に襲われてきた。しえるの「ホントにアイルちゃんは負けず嫌いだなぁ」という説明がなければ、理解が追いつかなかったかもしれない。


「アイル、そろそろ時間だよ」


 配信の予定があるらしく、ダディが連れ出そうとするが、アイルは「やだやだ」「ここでやる」と言って歩こうとしなかった。仕方がないのでしえるとダディで「夕食からあげにする!」と説得しながら車まで引きずり、歩玖も紙カップに移しかえたミルクセーキを運んだ。


「アイルのパーティにいなかったからエアリアルプリズム行けなかった、ってなったら後悔するから……!」


 徐々に遠ざかる車の窓からのアイルの叫びを、しえると歩玖は手を振りながら見送った。


 テーブルに戻った二人に、芽緒は言わずにはいられなかった。


「よそんちのこと言うの失礼なのはわかってるけど、あれは親も親だわ」


 しばらく発言の機会がなかった一飛は、それほど芽緒に同調していなかった。


「それ配信でいつも言われてるやつ。俺は好きだけどね、ダディ。娘のほうが稼いでるとことか含めて」


 店内はにぎやかだが、アイルがいなくなるとみんな寂しくなったように感じて、しばらく「なんだかんだ言ってかわいかった」「生で見るとやっぱり違う」「紫音にも見せてあげたかった」「からあげ食べたくなってきた」などと話していた。


 話が一段落したところでしえるが切り出す。


「じゃ、そろそろ行く?」


 歓迎会の後半は、近所のダンジョンに入って、歩玖がゲームに慣れるためのレクチャーを行うという予定だった。歩玖が立ち上がろうとするのを芽緒がとどめる。


「待って。先に歩玖のキャラ、ちょっといじっていい?」


「あ、はい」


 歩玖は少し予習してきたものの、まだまだわからないことだらけだった。ベテランの芽緒に操作を任せ、装備を整えてもらえば安心できる。芽緒は少しのあいだ難しい顔で手を動かした後、「……どう?」としえるに感想を求めた。


「んー、いいけど私はこっちかな」


「さすがえぐ。わかってるわー」


 一飛が心配したように言う。


「お二人さん、ほどほどにね」


 芽緒としえるに何をされているかわからないまま、歩玖はただ待つしかなかった。

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