9. 帝国一のデザイナー 参上
「まぁー!なんて可愛らしいのでしょうか!あぁ、純白も素敵ですがここは敢えて深緑……いえ、瞳の色に合わせて鮮やかな青でも!!」
時計の針は午後4時30分を指している。予定通り訪れてきたデザイナーの名はジュディー・ハイザー。優秀なデザイナー人材をどんどん排出している名門校【ルフィム学院】を卒業し、そのピカイチの才能やデザインスキルは帝国一と言っても過言でない。
優秀な人材ほど、少々変わっている人が多いと聞くが、どうやらジュディーも例外ではなかったようだった。
午後4時に訪れてまず1言目は、ルティシアの可愛さに感激する声。そして挨拶もままならないまま、彼女にアイディアが降ってきたのか、瞬時出したペンと髪にどんどんドレスのデザインを描いていく。
無礼だ!と指摘しようとした使用人達も引くほどの集中力に、ルティシアも唖然としていた。隣にいたエドリックは何故か動揺する素振りもなく、ルティシアを抱っこし菓子を餌付けした。
『エドリックお兄様、その、びっくりしていないのですね…?』
「そうだね。彼女には何度もお世話になっているから、この光景には慣れていたけど。最初はびっくりしちゃうよね」
『そう、なのですね?』
どうやらこれが通常運転のようで、自然にエドリックの膝の上に乗せられたルティシアは口の前に持ってこられるクッキーをもぐもぐと口にした。
兄に甘やかされるのもだいぶ慣れてきている。というより、断れば悲しい顔をされてしまうからされるがままになるしかない。
嫌ではないけど、絆を深めれば深めるほど、いざ離れる時の寂しさはきっと大きいはず…
_______ねえルティー!どのドレスきるのぉー???
ルティシアの周りをうろうろ飛び回るルーク。気ままな気分屋さんが今日もきてくれたと、少しばかり微笑ましく思う。
『(まだ決まってないですよ。何着か候補があるらしいのですが)』
_______へぇ〜!!うーん、どれも可愛いねぇ〜ルティーならどれも似合うよぉ!!
『(ふふ、ありがとうございます。)』
ルークは満足そうに周りをぴょんぴょん飛び跳ねた。時々ドレスの方へ飛んでいっては、置かれてあるドレスの候補のデザイン画を眺める。(目はないけど多分眺めてる)
ルティシアはふと思った。前世でクリスティーナとして過ごしていた頃は、こういう暮らしは想像もできなかった。
ドレスはいつだってあの子の分だけ。ルティシアは常にあの子のお下がりか中古のもの。こんな風に家族に囲まれて暮らすこともなければ、屋敷にくるデザイナーからメイド達ですら彼女のことを空気のように扱っていた。あの頃のことを思い出せば、ルティシアの心臓に絡む鎖がぎゅっと締め付ける。
辛い思い出はまるで呪いだ。そう、ルティシアは思わざるを得なかった。
(転生してもなお、過去の記憶は私を苦しませるのですね…)
なぜ記憶を持ったまま生まれてきたのでしょうか。きっと、何も知らずにこの世に生まれていたら、幸せを噛み締めて生きてこれたのでしょう。
思わず目を伏せてしまったルティシアは、次の瞬間大きな声が響き渡り、びくっと大きく震えた。
「お待たせしました!!!こちらが最後の候補となります!!さあ、どうぞお選びくださいませ!!!」
幸い兄が優しく抱きしめてくれていたおかげで、膝の上から落ちることはなかったルティシア。目の前にはおよそ30ほどの候補デザインの紙が広がる。
先程の苦しい気持ちを拭い払うように、デザイン画だけでも十分素敵でキラキラした華麗なドレスばかりだった。果たして、こんな素敵なドレスを着こなせるのだろうか。そう思っていたのが思わず声に出てしまったようで、「ルティー?」と耳元から優しい声が聞こえた。
「ルティーは可愛いよ。神様に攫われていかれないか心配になるほど可愛いのに、君に似合わないドレスなんて存在しないさ。僕のお姫様、ゆっくり選んでいこう?」
「あらあらまあまあ!!なんて素敵な…うふふ、殿下の言う通りむしろ皇女殿下様の美しさに似合うドレスが限られるくらいです!!」
『そ、そんな…』
やはりルティシアに対して、この方達は少々なんといいますか……甘い、のでしょうか?
_______ええー!それはぁ、ルティーが愛されているからでしよぉ〜???まあ僕も〜、ルティーのこと大好きだけどねぇ!!
エドリックたちの言葉と、ルークのとどめのことばにルティシアは顔を赤くした。やっと家族の愛情というものに少し慣れてきたと思ったが、どうやらまだまだのようだった。
小さく頷けば、周りはそれでよしと微笑ましい視線を送ってくれる。
1年先まで予約が入っているデザイナーだ。あまり時間をとらせてはいけないと、ルティシアは改めて真剣にドレス選びに取り組んだ。エドリックも一緒になって見ているが、真剣に選ぶルティシアが可愛くてドレスよりもこっちを見てしまいがち。シスコンはここでも健在のようだ。
体感は1時間だろうか。実際は五分くらいだった。本当にどのドレスも素敵で非常に悩ましがったが、ルティシアはそのうちの1枚を手にした。
『これで、お願いいたします。』
獲物を定めるようなギラギラした目で、ジュディーはニヤッと笑った。
更新が遅くなりました…。
書きながら物語を考えているのですが、展開を広げていくのはやはり難しいですね…笑
そういえば数日前はハッピーバレンタインでしたね。皆様は素敵なバレンタインをお過ごしできましたか?
せっかくなのでバレンタイン編みたいな番外編も書こうと思います。
これからもよろしくお願いいたします。