8. エドリックの願い
バルシア帝国、第一皇子。それが、僕の身分。
いずれ皇帝の座を継ぐ皇太子になる身として、物心ついた頃から皇帝学について学び始めた。僕は多分、人より少し吸収が早かった。期待される分、プレッシャーもあったけど、いずれ父上のような立派な皇帝になるためだと思ったら、案外乗り越えられた。
そんな僕には2歳下の弟がいる。名前はセヌア。少しやんちゃだけど、素直で愛嬌がある。セヌアは勉強は少し苦手だけど、武術の方は僕より得意としていて、自慢で可愛い弟なのは間違いない。
そして、僕が6歳、セヌアが4歳になると、僕たちに妹ができた。
ルティシア・フィネ・イルネール
「エド、セヌア。貴方達の妹よ。ふふ、可愛らしいでしょう?」
「…妹…」
母上の腕に抱かれていたそれは、まるで雲のように白くて柔らかい肌と、雪のような銀色の髪の毛。青い瞳は僕とセヌアと同じで、父上ともお揃いの色だった。
セヌアも僕と同じく、生まれてきた妹に釘付けだった。
「うわぁ、かわいい…!!ぼく、おにいちゃんになるの?」
「ふふ、そうよセヌア。今日からお兄ちゃんだから、沢山この子のことを可愛がってね?」
「わぁあ!うん!ぼくかわいがる!!お兄ちゃんだもん!」
大はしゃぎはしないけど、僕もセヌアと同じ気持ちだった。こんなに小さくてか弱い存在は、僕たちが沢山愛してあげなきゃと、この子は僕たちが守らなきゃと強く思った。
ルティシアは普通の赤ちゃんに比べたら大人しめで、あまり泣かないって母上が心配していた。ルティシアを毎日見ているけど、たまに物思いにふけている表情をしているのは、きっと気の所為じゃないと思う。
「ねえ、ルティー。君が抱えている悩みは、いつか僕たちに教えてくれるのかな」
ルティーが生まれてから6年経っても、それは変わらなかった。
セヌアの隣で美味しそうにご飯を食べる姿が愛おしい。日に日に可愛くなっていく妹を見て、少し焦ってしまう。兄の贔屓目を除いても、天界から降りてきた天使にしか見えない。
君の可愛さを表現するためのただの言い回しも、いずれ本当になってしまわないかと不安になる。
それくらい、ルティーはたまに、消えてなくなるのではないかと錯覚してしまうほど、儚い雰囲気を纏う。
ようやく言葉が話せて、お兄ちゃんと呼んでもらえると思いきや、僕たちのことを様付け。赤ちゃんの頃から、どこか線引きをされた気がした。あれは勘違いじゃないんだと知って、ショックと同時に、自分の無力さに腹が立った。
ルティーはほぼ確実で【持っている人】。そして同時に、ルティーは何か深いものを抱えている。でも、ルティーが頼りたいと思える人に、僕はなれていない。
『ごちそうさまでした。』
「ちゃんと食べれて偉いねルティー!この後は何するの?」
『デザイナーさんがいらっしゃるまでは、図書館で本をよみたいとおもっています。』
ルティーは、6歳とは思えない精練されたカーテシーをすると、朝食の場を退出した。
セヌアは好き嫌いが少し激しいせいで、野菜が残しているのがバレて、母上に小言を言われている。そんな光景を前にしながら、僕はルティーのことについて考えた。
『持っている人』の印があらわれるのは7歳頃。それまでは、本人にそのことについて問わないと家族で話して決めた。だから、それまでは、何も知らないお兄ちゃんでいるつもり。
「兄上、今日は食べるのが遅いね…?」
「エドリック、どうした。体調が悪いのか?」
はっとした時には、もう僕以外のみんなは完食していた。母上に至っては、いつの間にか退出していて居ない。
「いえ、少し考え事をしていただけです。ルティーのドレスデザインがどのような仕上がりになるかが楽しみで」
「ふっ、そうか。ついこの間生まれてきたばかりかと思えば……早いな。」
「いいなぁ兄上。僕だって授業がなかったら一緒に行きたかったー」
感慨深そうにする父上と、可愛く頬を膨らますセヌア。
ねえルティー。可愛い可愛い僕たちの姫。君がたとえ前世の記憶を持っているとしても、ルティーはルティーだよ。ルティシア・フィネ・イルネールとして生まれてきた時点で、君は僕たちの、帝国の宝物。
いつか君の抱えるものを共に背負わせてくれる日が来るのを願うよ。そのための努力を絶対惜しまないから。
ずっと父上のような皇帝になりたいと頑張ってきたけど、もうひとつ、頑張りたいと思いたい理由ができた。
可愛い可愛いルティー。
もうひとつは、前世という君の顔を曇らせる何かから君を守りたい。たとえ何があっても、僕は必ずルティーの味方だから。
頂点という身分に立ち、誰にも負けない強さを手にした暁に僕が願うはただひとつ…___
セリフ少なめで読みずらかったら申し訳ございません…
いずれ皇帝の座を継ぐ身として、弟妹よりも厳しくされて生きてきたエドリックは、政治絡みの醜い人間たちも沢山見てきたため、賢いだけでなく、人の感情を見抜けるというちょっとした得意技を身につけました。
そんなエドリックはルティシアが赤ん坊の頃から違和感があるといち早く察知し、いずれ自分達を頼ってもらいたいという願いを抱える心情を書いてみました。
ルティシアが目の前から消えてしまうのではないかという直感は、ルティシアがこの高貴な身分から逃げたいという気持ちを無意識に察したエドリックの勘が鋭い一面がわかるかなと思います!
所々過去の設定をいじってしまって混乱させている部分もあるかもしれません…泣
・前世持ちの人の痣▷▶▷ 5歳→7歳
に変更しました。
ゆるゆる更新ですが、今後ともよろしくお願いいたします。