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7. 兄と温もり

「ルティシア様、おはようございます。」


全開にされたカーテンから差し込む陽の光に目が覚める。目を開けると、赤毛が真っ先に視界に入りました。


琥珀色の瞳と目が合えば、安心する微笑みを向けられます。やはり、彼女が専属侍女でよかったと度々思います。



『おはようございます、アンナ。今日もいい天気ですね。』


「雲ひとつない晴れ渡る日でございます。」


『今日は大きな予定はありますか?』


「本日は授業がないため、午後4時頃にドレスのデザイナーがいらっしゃいます。それ以外は特にございません。」


『わかりました。ではそれまで図書館で本をよんでもいいですか?』


「かしこまりました。」



バルシア帝国第一皇女として生まれてから6年が経ちました。あっという間ですね。幼かったセヌア様も10歳、そしてエドリック様も12歳です。


年々美しさが磨かれていくお二人は本当に素敵です。私といえば、皇妃様にそっくりのようです。それが原因か、エドリック様達は私を沢山可愛がってくれております。


本日もアンナの器用な手先により、私の髪の毛はまるで魔法のように可愛くアレンジされました。アンナは満足そうに顔を赤らめていて、鏡越しに目が合うのでニコッと笑いながら感謝の言葉を伝えると、なぜか心臓を抑えます。


前に病気かと思い、焦って聞きましたが、どうやら全く病気ではなく、むしろ健康の証と言われました。どうやら嘘では無さそうなので、それ以上は詮索しませんが、急に心臓を抑えられるのはまだ少し焦ります。


着替えも終わり、朝食に向かおうとしたら扉のノック音が響きました。基本毎朝この時間訪れるのは、あの方達しかいません。


扉を開けば、金色の髪の毛が視界に入りました。



「おはよう、ルティー。夜はいい夢を見れたかい?」


「おはようルティー!今日もかわいいね!」



お2人に交互に頬に口付けしてもらい、私も挨拶としてお2人にしました。最初は慣れなくて羞恥心もありましたが、今ではすっかり慣れました。


エドリック様とセヌア様。今世の私、ルティシアの兄であり帝国の皇子達。



『おはようございます、エドリックお兄様、セヌアお兄様。毎朝お迎えありがとうございます。』


「ルティーに会いたくてしているんだ。気にしないで」


「ほら、手繋いでいこう?今日のデザートはルティーの好きなプリンらしいよ!」


『ありがとうございます。プリンはたのしみです。』



この命に生まれてから6年経ちます。お2人にどうしても、と涙目でお願いされて、現在はお兄様と呼ばせていただいています。


最初に話せるようになった頃、おふたりをエドリック様、セヌア様と呼んだ際は、呼吸が止まったように固まっていました。それほどにショックを受けると思わず、だいぶ焦りました。


本当であれば、私はなるべく彼らとの交流をこれ以上深めたくなかった…というの本音です。6年経った今でも、前世の裏切りは呪いの鎖のように私の心臓を縛り付けます。そして、それは時々、息苦しいほどに締め付けてきます。


「お前は幸せになれはい」「信じることを後悔する」

「裏切られる前に切ろ」


私が彼らと、"家族"として過ごす度に、それらの言葉が悪魔の囁きのように耳元で聞こえます。


誰にも相談できない。誰にも打ち明けられない。私は、いつかは彼らのもとを去りたい。この呪いの鎖から解放されたいと…



「そういえば今日はルティーのドレスデザイナーが来るんだよね?」


『あ、はい。午後4時頃です。』


「丁度空いてるから、僕も一緒にいていいかな?」


「あ、だったら僕も」


「セヌアは今日歴史の授業が入ってるでしょ?」


「うっ…」



どうやらセヌアお兄様よりもエドリックお兄様の方が1枚上です。しかし、なぜエドリックお兄様は一緒に居たいのでしょうか…?


そう疑問に思っていたら、まるで私の心を見透かしたように青い瞳がこっちを見ては優しく微笑んだ。



「大切な姫の初の社交界デビュードレス、そりゃあ兄として気になっても仕方がないでしょう?」



そう、今日のドレスは2ヶ月後の社交界デビューに向けて作られるもの。社交界デビューといっても、本当の社交界デビューは12歳。

6歳の私が2ヶ月後に出る会は、バルシア帝国第一皇女として、貴族たち、そして国民達の前に姿を現すものです。6年間、私は皇宮の外に出たことはありません。つまり、皇女の披露目ということです。


本当はドレスも身分も全部捨てた人生を生きたかったのですが、こればかりは仕方ありません。優しい皇妃様達に恥をかかせるわけにはいかないので、歩き方から仕草、口調やマナー全てを当日までに叩き込むことを決意したのは2年前の事。


幸い、前世の記憶が残っているおかげで普通の子供よりも吸収が早く、帝国一に厳しいと言われているマナー講師からもお褒めの言葉をいただけました。


その時の皇妃様達のはしゃぎ具合は、割と印象的でしたね。前世では、できて当たり前とされていたことを、彼らは私のことをまるで世界を救った勇者並に褒めてくれます。

それがあまりにも不慣れで、くすぐったいのは、今でもそう。



(この方達は、やっぱり前世のあの人たちとは違う……っいえ。婚約者である彼も最初は優しかった。人は変わるのを、貴女はよく知っているはずです、ルティシア。)



しかし、せめて今この両手に繋がれている温もりだけは、嘘ではないと…そう、思いたいのです。






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