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20.聖女と聖獣

聖獣、という言葉はその場の全員をざわめかせた。


知る人のみぞ知る。だがほとんどがその存在を神話のものとしか思っておらず、誰もが現実に存在していると思ったことがない。…いや、なかった。


だって、今まさに目の前にいるのだ。さっきまで恐ろしい猛獣だと思っていた狼はその大きさを変えた。有り得ないその光景がアスレイの推測を物語るのだ。




_____ルティー、僕の声はルティーにしか聞こえないんだ。



「え、」



「ルティー、どうしたの?」



セヌアの心配そうな声にルティシアはどう答えたらいいか戸惑った。



「え、っと……お兄様達はルークの声、聞こえないですよね…?」


「声…?何も聞こえないけど…」


「人の言葉が話せるのか?」



アスレイの問いかけに、ルティシアは小さく頷いた。ルティシアがルークと言葉を交わせる事実は現場に再び動揺を走らせる。



「ルークの声は、私にしか聞こえないと言っています。えっと……ルティーに代わりに代弁してもらうので、外で話すことじゃないから場所を移したい……と言っています。」


「…そう、なのか。そうか、ルティーがまさか…」



アスレイは少し考え込み、深く頷いた。

曇りない透き通った蒼い瞳は、ルティシアと同じだと、ルークは思わず力を抜いた。






************




はるか昔、聖女と呼ばれる女性がいた。


聖女は人間たちにより引き起こされた戦で燃えた木々、荒れ果てた土地、息を引き取った動物たちを癒し、聖なる光を地上へ降り注げた。


その神のような力に誰もが崇み、称えた。戦が繰り返される時代の中、聖女の存在はまるで女神であった。

しかし紛争はそれでも絶えなかった。戦が起きる度、聖女は癒し、世界が傷つく度、聖女はその力を使いに使った。


人間は愚かだった。聖女を我が手中に入れば、不死の軍隊を作れる。死んでも癒され、傷つけられても復活する。どうしたら戦に勝てるのか、どうしたら全てを支配できるのか。人間達には、戦をやめるという選択肢がそもそも無かったのだ。むしろ、心優しき聖女を利用とさえまでした。


そんな人間の企みに気づいてしまった聖女は絶望した。



《もう、救うことは出来ないのでしょうか…》



聖女は信仰する女神に問いかけた。どれだけ救っても、どれだけ癒しても、彼らは理解してくれなかった。戦をやめて欲しい、平和な世界を築いてほしいという願いは、届くことは決してなかった。


1粒の涙がぽつり、と零れると、それは地面に吸い込まれ、大きな光の池となった。



《…これは…》



光の池から現れたそれらに、聖女は思わず目を疑った。




金色の獅子、銀色の龍、蒼色の虎、そして黒色の狼。




《あなた達は一体…》




_______我らは聖獣。神の命により聖女、そなたの助けになるべくこの地に降りた。



獅子は伝えた。



《聖獣…様……まさか、女神様が……私の声を……》




震えながら泣き崩れる聖女。その心は、確かに救われていた。



_______そなたの声はしかと届いておる。穢れなき魂よ、少し休むといい。



龍はその翼を広げ、安らぎを与えた。



_______後は我々が引き継ごう。人類はまだ、愚かに滅ぶべき存在ではない。



虎は牙を剥き、遠くから響き渡る銃声に耳を傾けた。



_______よく、頑張ったね。



狼はそっと聖女に寄り添った。




聖獣が地上に降りたことにより、戦争はぱたりと消えた。

否、戦争が出来なくなったのだ。


その凛々しく、神々しい姿を目にした瞬間、刃を向ける考えすらなかった国。

それでもなお、欲に眩み銃剣を構える国には、聖獣による罰が下された。


世界に響き渡っていた紛争の轟音は消え、静寂な世界に戻りつつあったのだ。




《聖獣様…本当にありがとうございます…っ》




______祈りは届く。これからも、それは変わらぬ。




聖獣はそれを最後の一言として残し、現世から飛び立った。


聖獣を司るといわれた初代聖女はこうして誕生したのだ。








***********




______これが、僕と聖女の出会い。




「…生まれ変わる聖女の魂に寄り添い、見守り…そして今、僕はルティーの所にきた…………え?」




代弁しながら雲行きが怪しくなり、ルティシアは思わずルークの方を見た。

それはこの場にいる全員も同じくだ。
















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