15.帰る場所
皇宮の警備はより一層強くなった。
ルカージュとともに兵に保護され無事戻ってきたルティシアの目に映ったのは、泣きじゃくって自分を強く抱き締めた家族だった。
これでもかと言うほど強い力だが、その体は震えていて、小さく感じた。家族の涙につられ、ルティシアも気づいたら頬に涙が流れた。
事態も落ち着き、もうすぐ夜も更ける時間で疲れ果てたルティシアはそのまま泣き疲れ眠りについた。
皇后と、そして護衛とともに部屋に戻ったあと、残ったのは皇帝とエドリック、そして保護されたルカージュだった。
「宮廷魔導師にルティーの部屋も含め、皇宮全体を調べてもらって問題は無いことは確認した。だが念の為、暫くルティーにはエドリックの部屋にいてもらう。」
「畏まりました。ルティーは必ず守ります。」
「ああ、頼もしいよ。それと、ルカージュも、無事で何よりだ。」
「…今回の件は我が家における裏切り者による事件です。皇女殿下にまで危険な目を合わせてしまって、本当に申し訳ございません。」
深く頭を下げるルカージュに、皇帝は声をかけた。
「ふむ…さっき少し事情を聞いたが、ルティシアが突然目の前に現れたというのは間違いないな。」
「はい。魔法陣を見たのは一瞬でしたが、転移魔法で間違いありません。」
「つまり、ルティシアがかかった転移魔法は転移先を無作為に設定された…あるいは誰かがこの事件を事前に知っていて転移先を馬車の上に設定したか…」
「だとしたら矛盾点がございます。誘拐が目的であれば、拘束もせずにルティーを転移させるのはおかしいです。」
「ああ。…考えることは山ほどあるな。…とりあえずルカージュよ。ルティシアが無傷で帰ってこれたのは君のおかげだ。そして話を聞く限り、その裏切り者を操る黒幕がいるのだろうが、こちらでも捜索する人員を出そう。」
皇帝の言葉にルカージュは慌てた。そもそも自分たちの家で起こってしまった不始末。そこに皇女殿下も巻き込まれ、スチュワード家は被害者とはいえ管理不届きの責任を被るのは当たり前。
皇族の手を煩わせるなどとんでもない。
「ルカ。君の言いたいことはわかるよ。
ただ、今回のルティーの転移のこともあるし、どちらにしろ僕達も動かなければいけない。同じことが起こらないよう、最善を尽くすのは皇族としての務め。そう思わないかい?」
それに、と続くエドリック。
「僕の大切な友人を誘拐しようとした不届き者を見逃す訳にはいかないしね。」
お茶目にウィンクをするエドリック。そこには、皇太子ではなく、ただの友人としてのエドリックがいた。
ルカージュはクスッと笑うと、再び頭を下げた。
「仰せのままに。」
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「ルティー、おはよう!!」
「セヌアお兄様…?」
翌日、セヌアはルティシアのもとへ駆けつけた。朝目が覚めて、昨日の出来事があまりにもショックで、いち早くルティシアの姿を確認したく駆けてきたとのこと。
「暫く兄上の部屋で過ごすんだよね?確かに兄上は強いからルティーは絶対安全だけど……」
「セヌアお兄様…」
「ううぅ…ずるい!ずるいよー!僕もルティーと寝たい!同じ部屋がよかったー!!」
早朝から騒がしいこの空間だが、可愛らしい兄妹愛に侍女達は優しく見守った。
「はっ、違う!それよりルティーはもう大丈夫なの!?絶対怖かっただろうに、強がったり我慢したらダメだからね?ちゃんと寝れた?」
ちゃんと寝れたかクマを確認したりあわあわして焦るセヌアに、ルティシアはぎゅっとその手を握った。
「せ、セヌアお兄様…!」
「!」
「私は、大丈夫です。お母様が隣で寝てくれたおかげでとてもぐっすり寝れました。我慢もしてないです。…セヌアお兄様、心配してくれてありがとうございます。」
どうにか心配性の兄を宥めそう伝えると、セヌアはようやくほっとし、今度はルティシアをぎゅっと抱きしめた。
「よかった、ごめんね何も出来なくて…大丈夫。絶対、僕と兄上でルティーを守るからね。」
よしよし、と抱きしめながら頭を撫でてくれるセヌアに、ルティシアは思わず頬が緩み、涙腺も少し緩んだ。
昨日の帰りでもそうだったが、彼らは自分のことを大切…いや、愛してくれている。そう、痛いほど伝わる。ついついその温もりに身を任せたくて、目をつぶりたくなる。
人間は怖い。貴族はもう懲り懲り。その気持ちは変わらない。ただ、彼らに対し、自分も"愛"という気持ちを抱いてしまったことから、もう目を背けられないのかもしれない。
小さな両腕を、大好きな兄の背中に回し、大きな温もりに包まれる。
(大好きです……)
もう少し、時間がゆっくり動いてくれたら。
もう少し、彼らとの日々が1秒でも長く続けられたら。
(前世の記憶なんて持たずに、彼らのもとに生まれてこれば…)
__私は、彼らとずっと一緒にいられたのでしょうか。
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