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10. 事故と事件と出会い

この日、事件が起こった。


まだハイハイをしていた頃から、ルークのおねだりによって初めたかくれんぼという遊びは、今でも時たまに付き合わされている。


時間は、誰にもバレない深夜零時を少し過ぎた頃。


いつも通り皇宮が寝静まり、ルークはわくわくしながらルティシアにワープを使おうとした。



_______じゃあ行くねぇ〜!!!



この遊びにもとっくに慣れているルティシアは、大体の所には飛ばされた。もう6歳にもなったし、庭までならいいよと範囲を広げる許可をした時のルークの喜び具合といったら、思わず笑いが零れてしまう。


ルークがワープさせようとした時だった。




__ガチャ



「え」



_______あ、




消えるその瞬間ルティシアの目に入ったのは、驚きに満ちたエドリックの顔だった。


なんでこんな時間にと思ったが、時は既に遅し。ルークも慌ててワープを止めようとしたが手遅れだった。飛ばされるルティシアに手を伸ばすエドリック。


目の前で消えてしまった妹に、エドリックは数秒固まれば、はっと顔を青ざめた。




「ルティー!!!」



誰にも姿が見えないルークは珍しく焦った。それはワープのかくれんぼを見られたからではない。


ワープを止めた方がいいだろうと慌ててしまったせいで、ワープ先に支障が生じ、本来なら皇宮の中と庭だけに範囲を決めていたのに、間違えて街にまで範囲が広がってしまった。


遊び好きのルークにもさすがにこの事態は少しまずいのはわかっている。こんな真夜中にもし外へルティシアがワープされてしまえば、何があるかわからない。


人を呼びに行くエドリックを視界の端に捉え、ルークは過去最高速でルティシアを探しに向かった。




************



「あれ、ここは一体…」



ガタンゴトンと揺れる狭い箱の中。目を開けたルティシアはあまりの居心地の悪さに顔色を悪くした。

しかし狭くて暗い故、一体ここがどこなのかわからない。


だが、嫌な予感だけはした。

もしかして、ルークがワープ先を間違えてしまったのかしら。そう思わずにはいられなかった。



「だ、れ?」




気づかなかった。同じ空間に他の人がいたことに。

目を凝らせば、ルティシアは思わず目を疑った。



「あなた、怪我が…!」



恐らくルティシアより3つほど年上の少年だろう。手を縛られ、所々擦り傷もある。

ここはいうまでもなく馬車の中。そして綺麗な身なりをした少年がここにいるということは、ルティシアは点と点が線になると1度冷静になってみた。



「しー。大丈夫ですよ。私がかならずお助けするので。」



少年は目を丸くした。少し俯けば、ゆっくりと頷くと僅かに耳が赤くなっていた。ルティシアはそれに気づかず、とりあえず彼を縛る紐を解いた。


もう一度彼をよく見ると、エドリック達と並ぶほどの美少年であった。真っ黒の髪の毛を1つに結い上げ、翡翠色の美しい瞳は大きく、まるで人形のように整った顔立ちに少し見とれたルティシアだった。



「(いえ、今はこんな場合ではないです。早く状況把握をしなければ…)」



これは誘拐に間違いない。ワープ先を間違われたのは非常に不安だったが、おかけで誘拐事件を見つけたのはむしろラッキーだと思った。



「あの、解けてくれてありがとう。それで、君は一体…?」



少年からしたら、突如目の前に現れた小さな少女だ。助けてくれたにしても、正体がわからないとやはり不安なものである。


しかし、ルティシアからしたら、こんな真夜中に皇女が抜け出しているという噂が出てしまったら大変なことになると思い、一先ずは身分を隠した方が得策だと考えた。



「(この方は恐らく貴族でしょう。私の御披露目パーティーでいずれバレるし、その時までの嘘です。)」



ルティシアは小さくドレスの裾を掴んで、頭を下げた。



「申し遅れました。ルティともうします。実は事故で偶ここにワープさせられてしまい、もし宜しければ今の状況を教えていただけないでしょうか…?」


「ルティ…」



小さくルティの名前を呟く少年は、ルティシアの微笑みにまたもや耳を赤くした。



「じゃあ君も大変だったんだね。改めて助けてくれてありがとう。僕はルカージュ・スチュワード。ルカでいいよ。」


「ルカ様…もしかしてスチュワード公爵家でしょうか?」


「そうだよ。情けない話に、家のものに裏切りがいて、寝床を襲われたんだ。こんな時間だし、僕が誘拐されたなんて誰も気づいてないと思うけど…」


「そうなのですね……あの、お怪我のほうは」


「ん、擦り傷だから平気だよ。優しいね、ありがとう。」



生憎家族以外の異性とほとんど交流がないゆえ、兄達以外の美少年には耐性が0なルティシアは顔を赤くした。



「いまは一刻も早くここから抜け出せなければいけません。この馬車もどこまで走るのか…」


「多分隣国のアルゼン王国だと思う。さっき会話していたのが聞こえたんだ。」



その国の名前を聞くや否や、ルティシアは強ばった顔をした。

そんなルティシアの違和感に、ルカージュは心配そうな顔で覗いた。



「大丈夫、油断している就寝時と違って、今なら君も一緒に助けて逃げられるよ。これでも公爵家だからね。」



他国に誘拐されることが怖くなったと思ったルカージュは安心させるべくルティシアの頭をそっと撫でた。


びくっと震えるルティシアだが、その優しい声と温もりに、少し力が抜けた。



「心強いです。絶対に、にげきりましょうね。」



今はそんな不安がっている場合じゃない。ルティシアは1人じゃなくてよかったと安堵しながら、優しく手を握ってくれるルカージュにも安心を覚えた。






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