暗雲
翌日、いつも通り俺たちは対峙しあう。
「隙ありっ!」
「隙だらけなのはお前だ。」
「あだっ」
我ながら渾身の打ち込みを軽く避けたかと思うと、手加減してくれたのだろう、顔に軽く打ち込まれる。
「また勝てなかった…」
「もう終わり?」
「ちょっと休憩にしようぜ。」
何せ朝からずっとこれだ。
さすがに疲れた。
「いい?そもそも孝介は自分主体に相手を計りすぎなのよ。すっぽりそのままあんたの実力の相手なんてまず居ないんだから、まずは相手を観察する。」
「観察するとは?」
「立ち方、剣の持ち方、表情。実力ってのは一挙手一投足に出るものよ。」
「なるほど。」
「さっきの隙も孝介にとっては隙かもしれないけど、私にとってはそうじゃない。」
「でも、それが解ったとしてどうしたらいいんだ?」
「待つのよ、ひたすら。耐えて耐えて耐えて、あの手この手で隙を生む。自分より格上の相手の致命の隙は一瞬。でも、それこそが格上に対する戦い方ね。」
「格下には?」
「隙が出来たら全力をたたき込む。基本は一緒。時短になるわ。」
「そのために相手の実力を計って、その実力なりの隙を見つけれるようになれと。」
「そういうことね。」
春は今日はこうして合間合間にしっかり色々教えてくれる。
以前は根性とかそう言うことしか言わなかったので、彼女なりに歩み寄ってくれているのかもしれない。
「そろそろ父上たちは川上家についたころかな?」
「それくらいだろうな。」
「私のせいだから、申し訳ないわね…」
殿と父上は共に川上家に向かっている。
密接に関わってきたお隣さんの提案を断るということもあり、直接断って謝った方が良いと判断したようだ。
こういった時のフットワークの軽さ、腰の低さこそ海山家が残ってきた理由かもしれない。
しかし、春は自分のせいで謝罪させることになったと少し悔いているようだ。
「まぁ、帰ってきたら存分に親孝行するといいさ。」
「…そうね。」
「さてと、じゃあもう一戦やりますかぁ!」
「見てなさい、ぼっこぼこにしてやるわ!」
このときの俺たちは、親孝行が二度と出来なくなるなど、思いもしなかった。