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街歩き その3

その後も俺たちは特にゆく宛もなく市を見て回った。


「ん、このお面…?」

「どうした、春?」

「孝介つけてみなさいよ。」

「お、おい、春!」

「ぷっ…あっははははは、似合ってるわ!ずっとそれをつけてたら?」

「絶対ろくでもない見た目だろ、これ!」



「見ろよこれ、金剛力士像(こんごうりきしぞう)じゃねえか。カッコいいなあ。買おうかな。」

「あんたよりデカい仏像とかどこに置くのよ…」

「そりゃ自分の部屋だろ。」

「自分の部屋に自分よりデカい仏像置く奴、ヤバいと思うわよ…。」



「父上、実はりんご飴が好きなのよ。」

「殿が?あの見た目で?」

「不敬で打ち首になりたい?」

「いや、でもそうだろ!?」

「まぁ、そうだけど…。とりあえず、一本買って帰ってやりますか。」



「春、見ろよ、南無八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ…」

「もういい。」

「はい。」

「というかなんでここの市はちらほら巨大仏像が並んでるのよ…」



そうやって他愛のない話をしながら市を歩く。

平和とは、幸せとはこういった形なのだろうか。

少しそんなことを思う。


「あっ…」

「どうした?」

「…いや、何もないわ。」

「今見てたのはこれか?」

「ちょっと!」


春の視線の先から予測してそれを手に取る。

可愛らしい木彫りのウサギの根付けだ。


「可愛いな。欲しいのか?」

「可愛すぎて、私には似合わないわ。」

「これ下さい。」

「あいよ。」

「待ちなさいよ!」

「さっきのからくり箱の礼だよ、ほら。」


自分は金を払いウサギの根付けを春に差し出す。

欲しいんだから素直に買えばいい。


「だから似合わないって…」

「似合うも何もねえだろ。春が可愛いって思ったんだから好きにつけりゃいいんだよ。」

「でも…。」

「それに、俺は似合うと思うぜ?春も可愛いし、ウサギって春にぴょんぴょん飛び回るもんだろ。名前にもよく合ってる。」

「ん…。あ、ありがと。」

「どういたしまして。」


欲しかった根付けが手に入って嬉しいのだろう、とても大事そうに握り締める。

春が余韻に浸り終わるのを待ってまた俺たちは歩き始めた。



◆ ◇ ◆ ◇


夕方。

街を散策し終えた俺たちは天上川(てんじょうがわ)のほとりに居た。

天上川とは、海山城が背にしている地方でも有数の大きな川だ。

川幅は見事なもので、景観は素晴らしい。

この街の住民は外れにあるこの川に慣れ親しんでいる。


「1日が終わるなー…。」

「ねぇ、結局何だったのよ?」

「何が?」

「私を連れて街を歩いた理由。急に連れてこられてびっくりしたんだけど。」


理由、理由か。

何と言ったものか。


「あー…いや、春が悩んでたみたいだから。気晴らしになればと思って。」

「それだけ?」

「それだけ。でも、楽しかったろ?」

「まぁ、そうね。それは認める。」


俺も楽しかった。

またこうして街を歩きたいものだ。


「なぁ、春。」

「何よ?」

「俺はお前が好きだ。」

「なっ…!急に…!」

「でも、今すぐ結婚してくれとは言わない。」

「えっ…。」

「春の自分より強い男と結婚したいって気持ちを尊重したいから。だから、絶対春より強くなる。」

「はぁ…。期待してないけど…。」

「はは、そうだろうな。でも、春を誰にもやりたくないから。死に物狂いで努力する。約束するよ。」

「…まぁ、良いわ。それくらいで許してあげる。」

「許していただき光栄に存じます。」


俺はニヤリとして慇懃無礼に礼をする。

照れくさくなって、少し茶化すように。


「後、何よ最近のあの態度。ずっとムカついてたんだけど。」

「臣下なんだから、線引きは必要だろ?」

「二人の時は要らないわよ。ムカつく。」

「解った。まぁ、適当にな。」


俺は川に向かって水切りの要領で石を投げる。


「1、2、3、4…5!見ろ、五回跳ねたぞ!」

「やるわね、負けないわよ?」

「おいやめろ、お前がやったら…!」


大ざっぱで不器用な春が武力99パワーで川に石を投げた結果、大規模な水柱が出来て、水浸しになって俺たちは帰ったのだった。

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