街歩き その2
「実光のおっさん!春を連れてきたぜ!」
「おお、孝介来てくれたか。姫だけだとろくに来やしねえからな。」
「ぜ、前回はちょっと忘れてただけじゃない!」
「ちょっとの定義を覆す勢いだったけどな…。」
「春にマメな管理をさせるのが間違ってんだよ。おっさん、手入れが終わるまで完成品を見ててもいいか?」
「おう、勝手に見とけ。」
そういうと春の模擬刀を持っておっさんは早々に鍛冶場へ戻ってゆく。
俺たちは気兼ねなく完成品を見ていくことにした。
「春、これ良さそうじゃないか?」
「孝介には合ってないかもね。あんたならこう持つから、刀の比重と合ってない。」
「なるほど。こっちは?」
「なんて目利きしてんのよ…孝介ならこっちの方が絶対…」
こう言うときの春の目は確かで、あれこれ質問しているだけで面白い。
どれくらいの時間そうしていただろうか。気づけば後ろに実光のおっさんが立っていた。
「勝手に見て良いとは言ったが、いちゃついてて良いとは言ってねえぞ?」
「はぁ!?そんなんじゃ…。」
「春に剣を選んでてもらっただけですよ。春の目利きはよく知ってるでしょう?」
「はっきり否定されるのもムカつくんだけど。」
「実際違うだろ!?」
春がこれでもかというほど睨みつけてくる。
自分で否定してたくせに、女心は難しい。
「言われたそばからいちゃついてんじゃねえよ…。とにかくほら、手入れしといたぞ。」
「ありがとう。さすがね?」
「そう言うなら次もちゃんと持って来いよ?」
「ぜ、善処するわ…。」
期待出来なさそうな素振りに俺と実光のおっさんはため息をついたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「それで?刀の手入れをしてそれで終わり?」
「んー、特に何も決めてなかったが…。せっかくだし市でも見ていくか。」
「良いんじゃない?」
俺たちはそのまま街を歩き、中心地にある市をさまよう。
雑多で、とりわけ何が有名と言うわけでもないが品数だけは豊富だ。
物珍しい品もそれなりに並んでおり、見ているだけで楽しい。
「春、見ろよ。からくり箱だってよ。」
「からくり箱?」
「決まった手順で操作していかないと開かない小物箱だ。」
「…なんの意味があるの?」
「他人に見られたくないものとか、重要なものをしまう。」
「あんたにそんなものある…?」
「…そのうち出来るかもしれないだろ!」
いぶかしげに俺を見る春の視線を気づかないフリするために俺はその箱を手に取る。
「最初はどこから触るんだ…?」
箱の表面はつるっとしており、どこにも取っかかりはない。
「これ、説明書はないの?」
「質流れの品物で、元からそれ単品でしかなかった。誰も開け方がわからねえから、開けれたら持って帰って良いぜ?」
「ほほう。良い度胸だ。」
俺は絶対開けてやると決意して箱に挑んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁ、人を外出に誘っておいて自分は見つけた小物箱に熱中するのどうかと思うけど。」
「すまねえ…」
あれからずっとからくり箱に挑戦していたのだが、最初の一手すら掴めず苦戦していた。
するとただ待たされていた春が「買ってあげるから帰ってやりなさい。」とポンと買って手渡してくれたのだ。
「絶対開けてみせるからな…。」
「期待してないで待ってるわ。」
春はため息を吐くと、サクサク歩いていく。
置いて行かれないように自分も急いでそれを追いかけた。