街歩き
「姫!今日もやりましょう!」
「はぁ、孝介か。」
翌日、俺はやるべきことを済ませると真っ直ぐ春の元へ向かった。
今日こそ勝つと決意して向かったものの、春は俺を見るなりため息をつく。
「どうしましたか、うかない顔をして。」
「何も。ただごめんなさいね、今日は気分じゃないの。」
春はあっち行けと言わんばかりに手を振る。
三度の飯より戦いが好きな女がどうしたことだろう。
「…さてはお前、昨日のこと気にしてるな?」
「はぁ!?何言ってんのあんた。」
「…よし!出掛けるぞ!春!」
「急に話し方が昔に戻ったと思ったら何を藪から棒に…ちょっと!引っ張らないでよ!」
俺は春の手を取り、駆け出す。
たまには身分差のなかった昔に戻るのも良いと思ったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
春を連れ、城下町に繰り出す。
交通量が多いため活気があり、とても良い町だ。
「どこに連れて行くのよ?」
「考えごとをするときはまずは飯だ飯!腹が減ってたらろくな思考にならねえ!」
俺は目に入った行きつけの串焼きの屋台に向かってゆく。
「おっちゃん、串焼きを四本!こっちの美人も食べるから張り切って焼いて!」
「おう、任せとけ!」
手つきがいつもより機敏になったおっちゃんから串焼きを四本受け取ると、そのうちの二本を春に差し出す。
「ほら、奢りだ。食え。」
「あんたねぇ…女の子捕まえてやることが屋台の串焼き肉を食えって…」
「そうは言うけど、春は肉大好きじゃねえか。」
「うっ…。そうだけど…。」
言葉に詰まった春は、誤魔化すように串焼き肉を口にする。
「何これ!?うっっまいわね!」
「そうだろ?ここのおっちゃん、串焼き作ることだけにかけては上手いんだ。女口説くのは下手だけど。」
「うるせえよ!」
おっちゃんが投げつけてきた串をキャッチする。
こんなことで投げつけてくるんじゃない。
「はぐっ…もぐもぐ…ごくん…」
「いや…本当に凄いペースで食べるな、春…」
そこそこ食べ応えのある串二本がみるみるうちに無くなっていく。
これは二本じゃ足りなさそうだな。
「おっちゃん、美人が物足りなさそうにしてるけど?」
「知るか、買え。」
「だから口説くの下手なんだよ。」
「出禁にしてやろうか?」
しぶしぶ追加で二本購入し差し出す。
それも目を見張るような速度で食べてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、次はどこに行こうっての?」
「実光のおっさんの所だよ。」
実光のおっさん。この城下町で一番の刀鍛冶だ。
俺も春も使っている刀はすべて実光のおっさん製だ。
「はぁ…。女の子連れて刀鍛冶の所に行く奴がどこにいんのよ。」
「でも、春の普段使いの模擬刀、そろそろ手入れのタイミングだろ?」
「…確かに、そうね。」
「さてはお前忘れてたな?また実光のおっさんにキレられんぞ?」
実光のおっさんは一度打った刀に関する手入れは手厚い。
定期的に持ってきて手入れさせるよう厳命されるのだ。
ちゃんと持ってきて手入れを依頼する分にはただの親切なおっさんなのだが…
春がしばらく持ってくるのを忘れた時の剣幕は忘れられない。
「今腰に差してるのはいつもの模擬刀だろ?手入れ出しに行って終わるまで刀見てようぜ?」
「仕方ないわね。」
そうと決まれば話は早い。
実光のおっさんの元へと向かった。