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負けヒロイン爆誕☆

 とりあえずそのまま学院に登校しようとしたら、目の前でバタンと重厚な扉が閉じられた。え? と驚くのも束の間、学院の警備らしき二名に両脇を抱えられて門の外へほっぽり出される。なんでも、王太子に無礼を働いたとかで入学を取り消されたとかなんとか。ケイシー様、仕事早すぎません?

 そんなこんなで学院に登校できなくなり、回れ右して登校初日に不登校ーーではなく退学になったサティ。

 これからどうするかなんてことも直ぐには考えられず、今は堤防に三角座りしてぼーっと海を眺めている。


「国外逃亡するとか? いや、何から逃亡するんだよ。追放されてすらないし」


 なんて独り言を呟きながら、またぼーっと海を眺める。


「海外留学するとか? いや、うちの家くっそ貧乏じゃん。そんなお金ないし」


 なんて独り言を呟きながら、またぼーっとするの繰り返し。


 そもそもあの学院に登校できない時点でこの国では人生が詰む。

 ムーンストーン王国では当然ながら貴族が幅を利かせており、貴族からすると庶民は意地汚い奴隷以外の何物でもない。つまり、貴族だけが入学できるドレスティア魔法学院にきちんと通ってきちんと卒業し、その証(卒業証書的なもの)を手に入れなければ、ろくな職にも着けないのである。

 もちろん通うことのできない庶民は貴族からすると虫ケラ以下同然なので、道を塞いだとか突然いちゃもんを付けられてその場で切り殺されたりなんかもする。


 よくよく考えるとクソゲーだな。


 なんて、前世では寝食を惜しむほどハマっていたくせに、とんだ手のひら返しである。

 それもまぁ、ゲームの世界では庶民なんて一切出てこないキラキラきゃっきゃっうふふのハッピーお花畑ラブコメだったので、仕方ないとも言えなくもない。


 今思えばなんでこんなクソゲーにハマってたんだろ。


 それもまぁ、前世では男っ気がまったくなくアラサーになっても結婚どころか出会いすらない社畜の残念喪女が、イケメンたちを手玉にとって逆ハーレムを作り上げニヤニヤ出来たからであるが、すでに詰んだので冷静(?)にゲームの批評が出来るようになったからと言えなくもない。


「このまま家に帰ったらお父様にシバかれるのかしら? 勘当されて貧民街にほっぽりだされて、その辺の浮浪者に犯されて捨てられて死ぬのかしら?」


 お嬢様口調で自分の行く末を言葉に出してみると、なかなかどうして未来は真っ暗だった。


「私もケイシーに生まれたかった」


 彼の悪役令嬢ことケイシー・フォン・ベル様は、悪役令嬢という役所ではあるが、四大公爵のベル家の生まれで誕生前から王子との婚約が決まっていた。

 悪役令嬢って生まれがチートなんだよな。それで前世の知識まで持って生まれていたら、そりゃ誰も敵わねーよ。悪役令嬢に転生してる時点で、人生勝ち組だろ。


 え、だったら、私のことは放っておいてくれても良かったんじゃない???


 なんて考えるサティ。

 あのケイシー様は、ヒロインを性悪だと勝手に決めつけて(※実際、逆ハーレムを目指していたのでケイシーの予想は合っている)、私の明るい未来をぶっ潰したのだ。

 もし私が誰とも関わろうとせず、普通に学院に通う勤勉な生徒だったらどうするつもりだったのだろう。(※普通に通えば何も起こらない)

 ケイシーが独断でシナリオを変えたせいで、こんなに無害なヒロインである自分が途方に暮れるなんて、彼女はこうなった責任を取るべきなんじゃないの!?

 しかも、ちゃっかり王子とはラブラブとか言いやがって!!


「きぃいい! あんの泥棒猫め!」


 怒りのすべてがケイシーに向けられたところで、サティは三文役者のような奇声をあげた。

 考えていることは自分本意に他ならないが、彼女は落ちぶれた貧乏男爵の妾腹の娘で、実の母親とは五歳の時に死別し、男爵家では義理の母親やその娘に蔑まれ、ようやく学院に通えると思ったら痛烈な洗礼にあい、そしてまだ十五歳の本人にはなんの力もなく、誰かの庇護がないと簡単に死んでしまうのだ。


 それは、とても怖かった。


「ケイシーは、こうなった後のことを考えていたのかな……」


 自分を貶めた張本人ではあるが、助けてほしいと懇願したら前世のよしみでなんとか助けてくれたりしないだろうか。しないだろうな。

 先ほどの邂逅を思い返しても、ケイシーが自分を助けてくれるとは露ほどにも思えなかった。マジで詰んだ。


「ああああ。太陽が少しずつ傾いていくうううう」


 家に帰りたくない。でも帰らないと夕飯も寝床もない。いや、帰ってもすぐに追い出されるかもしれない。なんでやねん。もうほんと、なんでやねん。

 まったく生産的な考えが思いつくこともなく、傾いていく太陽を憎々しげに見つめていたサティ。

 そんな彼女の耳に、前世で慣れ親しんだ声がするりと入り込んだ。


「おいお前、そんなところで何してるんだ?」

「……! え、あ、っ、あなたは、セオドア・フォン・リヒテン様……!?」

「お、なんだ? 俺のこと知ってんのか?」


 攻略対象キターーーーー!!!!!!

 神は我をお見捨てにはなりませなんだか!!!!!


 5人の攻略対象のうち、一番ヤンチャでよく授業をサボるが運動神経抜群で武に長け、父親は王宮にて騎士団長を勤める侯爵家の三男坊、セオドア・フォン・リヒテン!!

 幼少期は女の子のように愛らしい見た目で、皆からはテディと呼ばれ可愛がられ、それがコンプレックスとなり漢の中の漢を目指して武道を極めてきた実は甘いもの好きの気の良いヤンチャ坊主!!

 もはやサティには彼が救世主にしか見えなかった。

 この機を逃したら自分は死ぬ! とすら思った。


「ああああの、あの、なんで此処に!?」

「なんでって……ここから見る海が好きだからだけど。あ、お前その制服! ドレスティア学院の生徒か?」

「ははははい! そうです! そうなんです!」

「ってことは、お前もサボりか~? 純粋そうなお嬢様に見える割には悪い奴だな!」


 ひぃいいいい! めっちゃフランク~~! なんか超良い奴な気がする!

 正直、攻略対象の5人の中では一番タイプじゃなかったけど、そんなことはどうでもいい! 君に決めた!

 ここにモ○スターボールがあれば即投げてるぜ! なんてアホみたいなことを精神年齢40歳オーバーのババアは考えつつ、それと同時にセオドアルートのゲームのシナリオを思い出そうと頭を捻った。

 この場所でセオドアとのイベントなんてなかったはず! ってことは、これはイレギュラー。

 このイレギュラー退学イベント、絶対にものにしてみせる!!


「え~そんなことないですぅ! サティは真面目な子なんですぅ! 今日はちょっと特別っていうかぁ……ふふっ。セオドア様も入学式サボったんですかぁ? お揃いですねっ! きゃっ!」


 効果音にすると、きゅるんっ!みたいな音が出そうな程、猫を被りまくるサティ、基、中身は40歳オーバーのババア。

 上目遣いで、さらに目蓋をぱちぱちと瞬かせ、両腕を胸の前に持ってきて小さな手を握り締め、こてんと首を傾げる姿は正に愛くるしい小動物そのもの。名付けて、ヒロインきゃわたんビーム☆


「うわ……」


 うわ?


「俺、お前みたいな女が一番嫌いなんだよ」


 は?


「お前、クソうざい女だな。二度とその(ツラ)見せんな」


 侮蔑の表情を浮かべ、背を向けて去っていく救世主。やがてその背は見えなくなり、辺りはいつの間にか陽が落ちて暗闇に包まれた。


「な、な、なんでじゃああああああ!!!!!」


 うおおおおおおお!!!!なんでじゃああああああ!!!!!


 その場に四つん這いになり、地面を叩き付ける痛々しい女こと元祖ヒロイン。

 彼女はよくやった。本当によく頑張った。なぜなら彼女の仕草や喋り方はゲーム内のセオドアルートのヒロインを完コピしていたからである。

 これで好感度が上がらないセオドアの方が本来はおかしいのである。

 そう、異常なのだ。サティはヒロインとしてヒロインらしくヒロインたる行動を取った。

 それなのに、なぜか攻略対象に嫌われる。あまつさえ「クソつまらない」とか「消えろ」とか「クソうざい」とか「二度とその(ツラ)見せんな」とか言われた。


 え、待って、神様。私が一体何をした?

 退学になったくせにそれを隠した罰ですか?


 意味のわからない現象を神様に問うてみても当然答えを得られるはずがない。

 その代わりと言わんばかりに、空が何やら怪しい雰囲気にみちみちているのに気が付いた。

 あれ……これはもしや……雨雲ですか?


 心の中で問いかけたそのとき、ピシャァアンッ! と空が割れるような大きな音が鳴り響いたかと思えば大地に向かって稲妻が走る。


「雷雨でしたかぁああ!!!!」


 ヤケクソとばかりに泣き叫びながら、サティは防波堤から慌てて走り出し街のある内陸部へヒィヒィ言いながら向かう。

 途中、雨が降ってきてびしょ濡れになりながら男爵家に帰ってきた彼女を待っていたのは、決して開くことのない大きな玄関扉だった。


ヒロインではなく、ウザイン爆誕。

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