序章-4 すべての始まり
「ご乗船お疲れ様でした。本船は湾内に入港しました。あと5分程度で到着いたします。」
結局、二等客室に戻って雑魚寝をしていた私は、女性の明るいアナウンスとともに目を覚ました。窓から外を見回すと、太陽の照り返しとともに島の様子がはっきりと見える。いよいよ上陸だ。前に来たのは中学二年生の頃だろうか。
まもなく到着するところで、船内BGMに久しぶりに聴く島の民謡が流れ始めた。三味線と竹笛のハーモニーとともに良く伸びる歌声が船内にこだまする。島出身の母なら、これを聞くだけで実家に帰ってきたんだなと感傷に浸るだろう。
民謡というものは、その地域を先祖代々見守ってきた人々によって作られたものだろう。つまり、それには住人の生き方、考え方をはじめ、長年の地域色が濃縮されているのではないか。今流れている民謡も、聞くだけでなんとなく島の雰囲気は伝わるだろう。伝統を重んじる国民性では、民謡のような継承物を今後も維持しつつ発展していくことが大切何だろうと思う。
そんな持論を展開していると、船着き場に接続され、数時間の船旅は終幕した。さあ、上陸しようじゃないか。
夕日になりかけた日差しが乗客を薄赤に染める。太陽はもうすぐ海に沈み込みそうだ。今日は始発列車に飛び乗ってから長い長い旅だった。まるで永遠の時間を過ごしてきたような感覚さえ覚える。そんな不思議な旅もあと少しだ。
島内を回るバスが乗客を待っていた。私たちは駆け寄り、高いステップをリズムよく登り乗車する。最寄り駅を伝え、運賃を支払った私は、乗降口に1番近い椅子に座った。
夕日が差し込む窓からは、まだ青々としている稲穂たちが広大に並んでいる田んぼ見えた。あと1ヵ月もすれば、この田園は金色に輝き、特別な季節色が映っているだろう。私は1度も見たことないけど、母は帰る度いつも懐かしむように言っていた。
最寄りの停留所についた私は、農協で食料を調達した。沈みゆく太陽と帰路を急ぐ私は、どちらが先にゴールするのだろうか。私は跑足から駆け足へと変えて、実家までの砂利道を進んでいくのであった。
辺りはすっかり暗くなり、私の暗順応しかけていた目でも道がわからなくなる。田舎の田んぼ道じゃ街灯はあてにならない。
しかし、だんだんと記憶が蘇ってきた。この岐路を右に曲がれば、私たちの集落が見えるだろう。
田んぼの横を走る川のせせらぎを頼りに、ついに実家に到着した。旅程通りなら、十分明るいうちに到着したはずなのだが、買い物やトイレなど、予定していない用事が途中からいくつも増えていたことに気づく。次はもう少し余裕を持ったプランを立てるべきだな。
家に上がり、誰もいない広々とした玄関で挨拶をする。明かりをつけると、視界が一気に眩しくなり、昔よりも殺風景な廊下が広がっていた。玄関は空けておくと涼しいそよ風が入るけど、しっかり閉めておこう。閉め忘れると部屋中虫だらけになってしまう。
まずは床の間に歩んでいき、ご先祖様にお辞儀をする。今はもう仏壇に蝋燭や線香は使っておらず、その形をしたLED照明が置かれていた。仏具が原因で火事になることもしばしば聞いていたので、デジタルへの移行はどの世代も是非受け入れてほしいと思った。
さて、親族への挨拶はこれくらいにして、夕食を済ませてしまおう。幸い、電気水道は通っており、電子レンジやIHコンロも設置してある。今日はもう弁当を買ってしまったが、明日からはこの器具と庭に自生している植物を使って何か自炊でもしてみよう。
明日の自炊メニューを考えながら弁当を食べ終えた私は、シャワーを浴びてそそくさと寝室に向かってしまったのだった。
翌朝、目覚めた私は鞄の中からいろいろなものを取り出しているときに、1枚の紙切れの存在を思い出した。そうだ、私はこの紙切れの謎を明かすために、急いでこの地へやってきたのだ。
眠い目をこすりつつ、その紙切れと再び向かい合う。窓を開けると、確かにこの地図と同じ位置関係の場所がこの庭であることが確認できた。寝起きの体が覚醒したところで、私は納屋からスコップを取り出し、早速その在処となる庭へと向かった。
このバツ印はどんな意図で何が隠されているのだろうか。たとえ何も掘り出されなかったとしても、ここまで来たことに後悔はないだろう。私は期待とともに夢中でこの地点を掘り進めた。
夏の朝、そろそろ高校野球が始まる時間だろうか、もうすでに辺りは暑く、野良仕事には厳しい時間になってきたな。だいぶ掘り進めたから、1度休憩に行こうとしたその時、茶色くなったスコップが何かと当たる音を発した。
私はその対象を避けるようにして掘り進め、ついにその埋設物が姿を見せた。それは、かなり頑丈に作ったと思われる球体だった。この見た目でこの頑丈さ、あまり記憶がないけれど、もしかしてあの有名な時空を超える手紙だろうか。
この金属でできた重い球体を穴の外へと取り出して、360度観察する。見たことはあるような気がするが、埋めた記憶は相変わらず引き出されることがなかった。私の机の上に地図が出てきたと言う事は、他人のタイムカプセルということも無いだろう。重くて、外からは何が入っているか見当もつかない。
大事な思い出が詰まっているであろうこの物体に開封する旨を伝え、私は解体をした。
金属の球体の内部には、木製の箱が鎮座していた。良質な素材なんだろう、地下に何年とも分からず埋まっていたのに、まるで完成したばかりのような輝きを放っている。その木箱にはまるでつなぎ目が見当たらぜない、寄木細工の美しいカラクリ箱だ。
カラクリ箱は実家にいくつもあったのだが、この箱はかなりの強者であることが分かる。かなり複雑な仕掛けに、汗が止まらなくなる。家の中に入り、古びた扇風機を回して作業を再開した。
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古びた扇風機は首が右側に回らないらしく、ガクンガクンと一定のリズムで音を立てていた。
そんな扇風機を横目に、カラクリ箱は遂に制覇された。こんなに夢中になって作業している妹、久しぶりに見たかもしれない。そして、箱の内部を取り出した彼女は、扇風機が限界を迎えて異音とともに暴れ始めたことにも気づかず、夢中に手紙に手を伸ばした時__
私は彼女と久しぶりの再開を果たす。