心はずっと
ちょうど二年前に来たサンタクロースが置いていったプレゼントを大切にしている。
080から始まる十一桁が木琴を奏でている。
「もうすぐ着くから、あとちょっとだけ待って」
ガサガサ音を立てて、走ってるのかな。息遣いもちょっと荒っぽい。
「はいは〜い。ゆっくりでもいいから気をつけてね〜」
本当に私のこと好きなんだから。は言わずに電話を終えた。どこか懐かしいなぁと感じた、二年前の今日を思い出すような感じ。あの時は、私が酔っ払った勢いで電話してあれこれ色々話したんだっけ。それにしてもあいつはクソだった!
なんて思い出しているとチャイムが鳴った。
はーい!急いでインターホンに駆け寄る。
「今開けるね〜」
ドアを開けて、ほっぺたを少し赤くして息を切らしている彼を迎えた。
「ほんとに走って来たの?」
私は驚きとおかしさを合わせて笑った。
「少しでも早く会いたかったし、その方が長く一緒に居れるじゃん」
「まぁ、そうだけどさぁ〜」
思わず得意げな顔をして目を逸らしてしまった。
「なに照れてんの?」
彼は小馬鹿にしながらも少し満足げだ。そういうところも好きだけど・・・。
「何飲む〜?コーヒー?」
「うん、コーヒー!」
彼がバッグを置いて、キッチンにやって来た。
二人で並んで、ガスコンロでヤカンが炙られてお湯が沸騰するのを待っている。彼を見つめてみる。ほっぺたまだ赤いなぁ、それでも良い顔してるなぁ。
んん!?!?!??!
不意にキスされてしまった。
「急にしないでよぉ」
心の準備とかあるじゃん。
「なんかしたくなってさ」
なんて彼はニコニコしてる。
「よくキスしたくなるような顔してるし、それにそのちょっと赤くなってるところも可愛くて、隣にいてくれてよかったなぁって」
顔が熱くなっていくのがわかる。ヤカンがキューっと音を立てている。
「砂糖とミルクいつも通りで大丈夫?」
「うん、いつも通りで!」
彼がコーヒーを作るのも当たり前になってきた。
こんなありふれたことが愛おしくて、ずっと続けば良いって思ってしまう。
「先座ってて」
彼に促されて、椅子に腰掛けた。足をプラプラしているとコーヒーが出来上がったのか足音が近いてくる。
彼がコーヒーを机に二つ並べて置いた。
そのまま後ろから腕を回された。無意識で回された腕に手を置いていた。
「結婚しよう」
耳元で発された訳も分からない言葉が頭の中を反芻していた。
結婚しよう?そんな言葉どこで覚えてきたんですか?嬉しさと喜びで心臓が口から飛び出そう。なんか言わなきゃ。
「うゅぉん」
「ふふなにそれ」
彼は私の首元に顔をうずくめて笑いを押し殺そうとしているが全部漏れてしまっている。
「答えは勿論、はいですぅ。急に言われたから訳わかんなくなっただけですぅ」
「そんなに怒らなくてもいいじゃん?」
「大事なプロポーズの答えが意味わかんない言葉じゃ嫌じゃない?」
「まぁ確かに。言われてみればそうだ」
彼は腕を解いて、私の横にしゃがんで、私より少し低い目線で少し緩んだ顔をしている。
「改めて、僕と結婚してください」
「はい、喜んで!」
私達はぎゅっと息が詰まるくらい抱き合った。
それから私達は笑いながら幸せなクリスマスを過ごした。
彼が先にお風呂に入って出て来た。
「空いたよ〜」
「は〜い」
私は脱衣所に入る。
彼の匂いがしている。
よく彼が部屋に遊びに来た時の頃を思い出した。
彼が部屋から帰った後、彼の匂いの残るクッションに顔をうずくめたり、身体から彼の匂いがしていて、匂いがなくなってしまうのが名残惜しくて、お風呂に入るまで時間が掛かったり。
もうそんなことはなくなるのか。嬉しいような寂しいような。
そんなことを思いながら、お風呂に入った。
上がる時も彼の匂いがしていて幸せだなぁと感じた。
「長かったね」
「う〜ん、まぁちょっとね」
私は彼に抱きついた。
「どうしたの?」
「ううん、君で良かったなぁ。幸せだなぁって。」ありがとう。
「こちらこそ。これからもよろしくね」
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
時計の針は頂上を過ぎていた。
「そろそろ寝よっか」
「うん、電気消すね〜」
サンタクロースと新聞配達が忙しくしている頃私達は眠りについた。
翌朝、目を覚ますと隣で寝ていた彼の姿はなく、パンの焼けた良い匂いとコーヒーの匂いがしていた。
「おはよう」
彼がドアから半身を乗り出して、満面の笑みでこちらを見ている。
私の左手の薬指には、朝日受けてキラリと輝く指輪がはめられていた。