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初テイムの作戦会議3

 本音を言うと、承諾してもらえると思わなかった。マリウスは自分を嫌っていると思っていたし、適当な理由を付けて断られるか父母に告げ口されるかもしれないとも思っていた。将来的に敵対するだけあって、この頃からアリスに対する当たりは強かった。

「行先はどこへ?」

「《東の森》です」

「それなら、行先については嘘を吐かない方がいいな。あそこであれば遊んでくると言っても言い訳が立つ。ラインズを連れて行こう。アリス嬢は、ラインズに乗りたいと俺に頼んだとでも言っておくのがいい」

 嘘を吐くときは真実を混ぜて話すとバレにくいとは誰が言ったのだったか。前世でもどこかで聞いたような台詞をマリウスが言うのでアリスは少し可笑しかった。

 ラインズという猿に似た大きな魔獣は、胴が虎で尻尾が蛇だ。アリスは知らなかったがそれは鵺の特徴に酷似していた。これがまた走るのが速い。鞍をつけていれば賢いのでまず振り落とされることはない。

 アリスはこれに乗って走る爽快感が好きで、度々マリウスに借りていた。

「ラインズがいれば、いざ何かあったときに3人を乗せて逃げられるし丁度いいだろう」

「《東の森》は大して強い魔獣もいませんから大丈夫でしょう。村の子どもたちの遊び場になっているくらいですから」

 ロイがそう言うので、アリスは然りと頷く。

「用心するに越したことないよ。大事なアリス嬢に万が一怪我でもさせたら大変だ」

「あら、心配してくれるのですか?」

「もちろん」

 マリウスは微笑む。「アリス嬢は俺の大切な幼馴染だからね。騎士(ナイト)としての役割をしっかりと果たすよ」

「まあ……」

 空々しい台詞をよくもまあ言えるものだと感心する。貴族の男性は皆、イタリア人のようにすらすらと口説き文句を嘯くのだから用心ならない。アリスから見れば、小学生の男の子が一生懸命言葉を尽くしているようにしか見えずに少し可愛らしく映る。

「ありがとうございます、マリウス様。頼りにしております」

 息子が昔、父親がいなくともオレがママを守るよと言っていたことを思い出してほほえましく感じる。アリスがそう返事をするとマリウスは満更でもなさそうな顔をする。ロイはズズッと前に出て、「それではまた、日取りは後日お知らせ致しますので」とやや性急にミラージュを解除した。

 ふぅ、と小さく溜息をつく。先程まで座っていた椅子に腰かけると、一度書斎を出て行ったロイがすぐに戻ってきて温かいお茶の準備を始めた。

 カチャカチャという陶器が当たる音を聞きながら、大きな窓から空を眺めて待つ。

 この間、ロイが茶器を鳴らす音を注意されていたことを思い出して、思わず笑みが零れた。

「いかがなさいましたか?」

「ふふ、前にエドワーズにロイが叱られていたことを思い出して、微笑ましく思ったの。あなたってとってもしっかりしているけれど、器用ではないわよね。私、あなたのそういうところが好きなの」

「御冗談を。わたくしはいずれ貴女の第一の側近となるべく訓練を積んでいる身です。それなのに不器用ではわたくしのような者を雇ってくださっている旦那様にも、お嬢様へも顔向けができません。せめてこの手がこのように犬に近い手でなければよかったのに」

「そうかしら。ふかふかで、肉球は柔らかくて、良いところしかないわ」

 ロイの手を取ると、よく手入れされた毛並みと黒い爪を労わるように撫でた。頬が恥ずかしそうに赤く染まる年若い侍従はよく尽くしてくれている。感謝しているのだ。

「あなたは私のためにいつだって動いてくれるわ。今だって、マリウス様との話し合いで気疲れした私のためにお茶を淹れてくれる。あなたが器用でないなら、私があなたの苦手なところを補いましょう。これからもずっと一緒にいてね、ロイ」

「当然です。わたくしは貴女のために生き、あなたが死ねというのなら死にます」

「死んじゃ駄目よ。そんなこと、言っちゃだめ」

 アリスが悲しそうな顔をすると、ロイは慌てて弁解する。

「それくらいの心構えということです。あなたが死んではいけないと言うのなら、わたくしに死という選択肢は永久にございません」

「それならいいわ」

 誓いを立てる様はさながら小さな騎士のように見える。この先の決まっている未来のことを思って、アリスは少しだけ胸が痛んだ。

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