彼女のともだち2
「こんにちは! リルは、リル・アズーロっていうの!」
リルはいつも元気だ。
目の前にいる年下の少女に、耳が痛くなるほどの大きな声で挨拶をするくらいには。
余談だが、リルはカイルと出会ってから、必ずフルネームで挨拶をする。今までなかったファミリーネームが出来たことが、とても嬉しいらしい。
かわいい。
キティはリルの声の大きさに面食らっているようだ。目をぱちぱちさせている。だが、スカートを握りしめてもじもじしているだけで挨拶を返す様子はない。
先に動いたのは1歳のセインだった。
「あーう!」
父親の足を離し、覚束ない、それはもう今にも転びそうな不安定さで、しかしセイン本人は意気揚々とリルに近づいた。
リルはキティからセインに視線を移し、セインが差し伸べているもみじのような両手の平を、何の躊躇いもなく握った。
「こんにちは! あんよがじょうずね!」
「うぃーう」
「セインっていうのね。リルよ、よろしく!」
「だーう」
何やら会話が成立している。
カイルには絶対に無理だ。うちの娘の対子どもスキルすごい。
「あなたはキティっていうんでしょ? リルは5さいよ。キティはいくつ?」
不安そうにリルを見つめ続けていたキティは、積極的な弟に背中を押されたのか、そっとか細い声で答える。
「み、みっちゅ…」
「みっつなのね! ね、ね、おにんぎょうあそびはすき? おままごとは? リルはどっちもすきよ!」
「………………………キティも、どっちも、しゅき…」
カイルはいつの間にか息を止めていたらしい。謎の緊張感に、大きく息を吐いた。
リルはキティの返事がいたくお気に召したようで、さらに声が大きくなった。
「ほんとう!? いっしょね! リルね、きのうからここがおうちになったから、いっしょにあそぼ!」
左手はセインの手を握ったまま、キティに右手を差し出したリルに、キティは恐る恐る手を伸ばす。
その手を逃がさないとばかりにぎゅっと握って、フィリップとカテリーナを見上げた。
「おじちゃん、おばちゃん、キティとセインといっしょにあそんでいい?」
「もちろんよ!」
「仲良くしてやってくれな」
「うん!」
大人にも人見知りしないリルは、自分より小さなキティとセインの手をしっかり握り、二人の両親に元気良く返事をした。
「リル、談話室のビリヤード台の下におもちゃ箱があるから、好きに使っていいよ。ただし、使い終わったら片付けること」
「はぁーい! ありがとう、メアリおばちゃん!」
とても良い返事をメアリに返し、リルは二人を引っ張って先ほどの談話室に戻っていく。もう父親には目もくれない。
…さびしい。
だが、明日からは仕事でここを空けるので、これはきっと良いことだ。
そんなことを考えていると、感嘆したようなカテリーナの声がした。
「はあー。しっかりしてるねー。びっくりしたよ」
「な。ていうか、カイル君に娘がいたことにまずびっくりだわ」
「ええ、まあ…。これからリルが世話になります」
カイルが頭を下げると三人ともいやいやいやと手を振った。
「あれ見たら、むしろ面倒見てもらうのうちの子らだわ」
「年下慣れしてるよね。赤ちゃんの扱いも上手だし」
「少なくともカイルよりは上手だね」
「反論できないですね…」
これまで、カイルもここに住んでいるのでキティとセインとは何度も顔を合わせている。が、一切子ども慣れしておらず、他の団員ほど子どもが好きでもなかったカイルは、ほとんど関わらなかったのである。
まさか自分が、いきなり父親になるとはさすがに思っていなかった。
まして、我が子がこんなにかわいいものだということも、全く想定外だった。