彼女たちは集う2
「そういうエマはどうなんだい」
「まあ、私?」
メアリの言葉にキョトンと首を傾げるエマ。
心当たりがないようだが、騎士たちは部屋の隅にいるクインから殺気が発せられるのを感じた。
「最近、エマさんによく会いに来る騎士がいると聞きました」
そしてセーラから発せられた衝撃の事実。
誰だその騎士。ていうか女性たちの情報網が怖い。
街で女の子口説いたらたちまち知れ渡りそう。
「ああ、あの方かしら? 恋祭りの日に助けていただいたのだけど、あれから何かと気にかけて下さるの。でもそういうのじゃないわよー」
「エマがそうでも相手はどうだろうね。だって貴族家出身の騎士だろう? わざわざ肉屋に通うなんてその気がないとねぇ」
「私もそう思います。第一騎士団は通常街の巡回もないですし、そもそも自身で塊肉を何度も買いに来ることのない立場の方でしょう」
相手の所属や身元も、何なら買った肉の種類までだだ漏れのようだ。
どうなってるの情報網。
「えー! きしさまとイイカンジなの? いいなあ!」
「あら、リルちゃんは騎士様がお好きなの」
「うん! おとうさんみたいなきしさまとけっこんするの!」
「まあまあ、ここなら選り取り見取りね。カイルさんが許すかどうか…ですけど」
頬を赤らめるリルは可愛いが今はエマのお相手が気になる。
お願いだから話を逸らさないで欲しいと談話室の男達は思った。
「エマさんはその騎士にそういった感情はないのですか」
セーラが話を戻してくれた。全員がよくやった!と心の中で叫んだ。
エマは可愛らしく首を傾げる。
「素敵な方だとは思うけれども、好いた惚れたはもう勘弁ねー」
「あんたまだ若いのに、もったいないねえ」
「うふふ、いいんですよう。クインがいれば」
部屋の隅の殺気が消えた。騎士たちが視線をやると、皆から背を向けているクインの耳が真っ赤になっている。
何だこいつ可愛いな、と全員が思った。
「その騎士から何かそれっぽいこと言われたりもらったりしてないのかい?」
「うーん特には…。時々お菓子を持ってきてくれるけれど、ご家族でどうぞって言われましたし」
「もらってるじゃないか!」
「でもそのお菓子、いちいちクインの好きなものなんですよ。私宛じゃないですよう」
それはクインを懐柔してエマへの信頼を勝ち取ろうとしているのでは?と子どもたち以外の皆が思ったが、同じ部屋にクインがいるので声には出せない。
だがこの予想が合っていれば、きっとその騎士は本気だ。
「…じゃあクインとも仲がいいのかい、その騎士」
「仲良くねーよ!」
談話室の隅にいたクインが勢いよく振り返って声を上げた。
女子会不可侵の掟を破ったクインだが、さすがに当事者なので誰も責められない。
「あら、いつも仲良くお喋りしてるじゃない」
「してない! 馴れ馴れしくすんなっていつも言ってるんだからな!」
「でも貰ったお菓子、いつも皆で食べてるじゃない」
「そ、それは、食べ物を粗末にしちゃいけないって母さんもじいちゃんも言うからだろ!」
「時々一緒に裏庭で遊んでるし」
「喧嘩してんだよ!」
「でも騎士様、クインはなかなか筋がいいっておっしゃってたわよー」
なるほど。
騎士がお菓子を持っていくたびに受け取りつつも突っかかり、喧嘩を売るが騎士は稽古をつけている感覚でクインの成長を喜んでいる、と。
あれ、意外と悪くないんじゃない?
クインは多感なお年頃だが、素直になれないなりに、無意識に騎士を見極めようとしているように感じられるし、騎士もクインを可愛がっている気がする。
これはクインが認めたら、案外上手くいくのでは?
だが、今ここでそれを口に出したら、クインはますます頑なになりそうだ。
何となく全員が、顔も知らぬ貴族家の騎士を応援し始めている。
「クインおにいちゃん、きしさまとなかよしなのね!」
「きしさまかっこいいねー!」
「かこいー!」
リル、キティ、セインが空気を読まずにぶっ込んだ。
即否定するかと思われたクインだが、自分より小さな子に怒鳴るような子ではない。
顔を真っ赤にして、口をはくはくさせている。
「っ別に、仲良くないし…」
「クインおにいちゃん、なかよしはいいことなのよ!」
「そうよー、クインに新しいお友達ができたの、お母さんもおじいちゃんもすごく嬉しいんだから」
「ぐ…っ」
にこにことそう言ってのけるエマはやはり強い。
素直になれないクインは呻き、真っ赤な頬を膨らませてそっぽを向いた。
肉屋のエマと謎の騎士は上手くいくのか。
次回の女子会にも、ますます目が離せなくなるのであった。




