彼女たちは集う1
「では、今月の定例女子会を始めます」
「じょしかい!」
「じょちかい!」
ここは第三騎士団寮談話室。
月に一度の女子会が開催される場所である。
ちなみに、非番の騎士たちも普通にその場にいるので、女子会の内容は筒抜けだ。
「そして本日は、初参加の方がいらっしゃいます」
セーラの言葉に、全員の視線が一人に集まる。注目を浴びた女性は、動じた様子もなく片手を頬に当てほんわかと微笑んだ。
「肉屋のエマでーす。配達に来たんですが、メアリさんに誘われたので参加しまーす」
エマの一言に拍手が起こる。そう、特別ゲストは肉屋のエマである。
離縁して実家の肉屋に戻り、息子を育てているシングルマザーだ。
ちなみに、息子のクインも荷物持ちとして一緒に来ていたのだが、女子会に参加するかと言われて心底嫌そうな顔で断り、今は談話室の隅っこでセインの遊び相手を務めている。
「誘っておいて何だけど、店は大丈夫なのかい、エマ」
「大丈夫ですよう。この時間はそれほど混みませんし、父一人でも十分店番は務まりますからー」
心配げなメアリの言葉にも、変わらずほんわかと返答をするエマはとても可愛らしい。
十歳の生意気な息子が入るとは到底思えない若々しさだ。
「エマさんがさんかしてくれて、リルうれしい!」
「キ、キティもうれちい!」
屈託のないリルの笑顔と、リルの影響で少しずつ人見知りがましになってきたキティの歓迎の言葉に、にこにことするエマ。
エマの返事に安心したようにお菓子を並べ始めるメアリと、無表情でお茶を注ぐセーラ。
一部、ん? と思わないでもないが、むさくるしい騎士たちから見れば癒やしの空間である。
そして、女子会の様子に眦を下げる騎士たちを据わった目で睨みつける母限定で心配性のクインと、めったに遊んでもらえないお兄ちゃんと遊べて満足そうに積み木を重ねるセイン。
談話室は今日も平和である。
「さて、今日は何と言ってもセーラだね。あれからどうなんだい?」
「ええ。この前デートに行きました」
「あら、まあまあ!」
「デート!」
「きゃー!」
安定の無表情でデートに行ったことを公表するセーラと、はしゃぐ女子たち。
騎士たちは「デート!? 誰と! いつの間に!」と全員が心の中で叫んだ。
「どこに行ったの?」
「八百屋と鮮魚店、エマさんのお肉屋さんにも」
「まあ…、じゃあもしかしてあの時のあの方?」
「そうです、あの時のあの方を私は今口説いています」
待て待て待て、と騎士たちは叫ぶ(あくまで心のなかで)。
それデートじゃなくて買い出しじゃね? 買い出しってことはこの寮の関係者じゃね? そしてあの方って誰。口説いてるのセーラの方かよ。
だが誰一人口には出さない。神聖な女子会に、参加を認められていない男子が口を挟んではいけないのである。挟んだが最後、ものすごく冷たい視線を浴びるのだから。
「セーラおねえちゃんすごい! ねえねえ、ミャクアリなの?」
「ミャキュアリ?」
リルちゃん、どうして脈アリなんて言葉を知ってるの。そして舌足らずなキティ、可愛いなおい。
だが騎士たちの疑問には誰も答えない。なぜなら心のなかで叫んでるだけだから。
「そうですね。胃袋はかなり掴めていると思いますが、なかなか手強いのです。ですが、重い荷物をすべて軽々と持ってくださった時の腕の筋肉とかたまらなかったです」
「あんたもブレないね」
「まあ、手強いのね。だけど肉屋で見た時の雰囲気、とても良かったわよー」
「えっ、そう思われますか」
微かにセーラの表情が動く。驚いたような、期待するような表情だ。
「ええ。私の勘では遠からず靡くと思うわー。だって絶対に意識してるもの」
「へえ、意外と好感触じゃないか。ちなみに、具体的にどんな感じだったんだい?」
「そうねえ、何というか、真剣に豚肉ブロックを吟味している時のセーラちゃんを見守る視線に甘さがあったり」
「「きゃー!」」
「セーラちゃんが鹿肉のレシピをうちの父から真剣に教えてもらってる時、明らかにあの方の好みを意識してるような献立を聞いて、嬉しそうになる表情を必死で我慢してたり」
「「ひゃー!」」
「店を出る時、さりげなくエスコートしたり、店内にいた男性客がセーラちゃん見てた時、牽制するみたいに殺気を送ってたり」
「「ミャクアリだー!!」」
異様に盛り上がる女子会。
セーラの顔がほんのり桃色に色づいており、大変珍し可愛い。
そしていちいち反応するリルとキティ。本当に意味を理解しているのだろうか。女の子ってすごい。
「いける…、いけるよセーラ! もうひと押しだよ頑張んな!」
「はいメアリさん。絶対に落としてみせます。そしてあの胸筋に埋もれてみせます」
「まあまあ、良いわねえ、若いわねえ!」
「セーラおねえちゃん、がんばってー!」
「キティもおうえんすゆ!」
クッキーをサクサク頬張り、紅茶を飲みつつはしゃぐ女子たち。
騎士たちは絶対に次の女子会も見学すると決めた。
だって気になる、あの方の正体。
そして正体が分かったらぶっ飛ばす。
セーラは第三騎士団寮の高嶺の花なのだから。
ちなみに後日、セーラと買い出しに行った騎士が誰かを突き止めたこの時の一人により、我らが団長がセーラの恋のお相手であることが判明し、全員が血の涙を流したのは言うまでもない。
立場も実力も筋肉も、全然勝てない相手だった。




