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彼女の誕生日

タイトルに副題つけました。

主題と若干合わないのですが、気に入っているのでそこは変えずです。


「リル、起きな」

「むうん…。もうすこし…」

「いいのか? 今日はお祝いだぞ」

「おいわい…? …おいわい!」


 大好きな低い声と肩を揺する優しい手に、リルの意識は一気に覚醒し、がばりと体を起こした。

 ベッドに座っていた父親は、乱れたリルの髪を梳き、笑顔を浮かべる。


「六歳のお誕生日おめでとう、リル」

「おとうさぁん!」


 満面の笑みを浮かべて飛びついてくるリルを、カイルは力強く抱き止めた。

 



 今日はリルの六歳の誕生日だ。

 二十日以上前から、第三騎士団寮では大々的にリルの誕生日を祝う計画が立てられていた。

 だが、全員が寮に揃うことは仕事の特性上有り得ない。そのため、午前の部と午後の部に分けてお祝いをすることが決定した。

 途中にリルを含む子どもたちのお昼寝休憩を挟み、朝から晩まで豪華な料理とプレゼントでひたすらリルを愛でるのである。

 ちなみに料理は、メアリの提案によりビュッフェ形式となった。

 足りなくなった料理は、都度メアリやユージーン、一部の騎士団員の中でも人並に料理が出来る者たちで補充する。


 つまり、今日の第三騎士団寮は非常に浮かれていた。


「リルちゃん、おめでとう!」

「ありがと!」

「リルちゃん、俺達からのプレゼントだぞ。開けてみてくれ」

「うわあ、かわいいおにんぎょう! うれしい!」

「リルちゃん、今日はリルちゃんの好きなもの沢山作ったんだよ。どうだい?」

「おいひいぃ!」

「リルちゃん、キティね、リルちゃんのえをかいたの。はい!」

「わあぁ、かわいい! うれしい、ありがとキティ!」

「りっちゃ、おーえと!」

「ふふ、セインもありがと。ぎゅーってしよ!」


 娘のコミュ力すごい。

 本当に嬉しそうにも見えるし、実際嬉しいのだろうが、一人ひとりに丁寧にお礼を言い、プレゼントを喜んで見せるリルに成長を感じる。

 今は以前より滑舌が良くなったキティと、少しずつ意味のある言葉を発するようになったセインと一緒に、朝食に舌鼓を打っている。

 その周囲には沢山のプレゼント。

 アルフォンスと団長に、リルの誕生祝いの相談をしたことが、こんな大掛かりになるとは思っていなかったが、娘が幸せそうなので良しとする。

 ちなみに、リルが今着ている水色のワンピースはカイルからのプレゼントだ。

 起きてすぐ渡したら、顔を真っ赤にして抱きついてきて、「きょうはこれきる!」と言ったリルはとんでもなく可愛かった。


 団長のバーナードからは宝石箱のようなオルゴール。

 アルフォンスからはシリーズ物の絵本3冊。

 メアリとユージーンからは子ども用のエプロンと三角巾。

 セーラからは手作りの焼き菓子の詰め合わせ。


 リルはその全てに目を輝かせていた。


 夜勤組が帰宅し、日勤組が出ていき、夜勤組からまた盛大に祝われて。

 食べて飲んで、沢山笑って。

 昼前にはしゃぎ疲れてお昼寝タイムである。


 談話室にブランケットを敷き、子どもたち三人で日当たりの良い場所に並んで寝かせている間に、午前の部でもらった大量のプレゼントを一度部屋に仕舞いに行く。

 手伝ってくれたアルフォンスは、思わずといったように抱えたプレゼントを見て笑顔を浮かべる。


「リルちゃん、大はしゃぎだったな」

「ああ。救貧院では月ごとにまとめて祝っていたらしくて、自分が主役になることはなかったみたいだし」

「なるほどなぁ」

「…ここに連れてきて良かった」

「お、そりゃ良かった!」


 アルフォンスも心なしか嬉しそうだ。


「俺も第三で良かったー! もう結婚しなくてもリルちゃんいるからいいや!」

「おい、それどういう意味だ。リルはやらんぞ」


 娘のことになると、カイルの心は狭いのである。



 リルたちが目を覚まし、空が夕焼けに染まる頃。


「邪魔をする。誕生日と聞いて来てやったぞ」

「え…、クィブラー?」


 ラッピングされた赤い袋を持ってやってきたのは、言わずと知れたカイルと仲の悪い第一騎士団のブリーズ・クィブラーである。

 どうやら第一と第三の団長同士でこの誕生日パーティーの話をしていたのを小耳に挟み、わざわざ訪ねてきたようだ。

 カイルとアルフォンスは、ああこいつもリルに完全に絆されたな、と思ったが、クィブラーがリルと知り合った事を知らない団員たちは非常に警戒している。

 そんな周りの雰囲気をよそに、クィブラーはテーブルに付いていたリルの前にプレゼントをドンと置いた。


「祝いだ。受け取るがいい」

「無駄に偉そうだな」


 眉根を寄せてそう言ったアルフォンスにも、クィブラーは動じない。

 リルは、赤い袋を興味深そうに物色している。


「なんだかずっしりしてるね」

「ああ。かなり重いぞ。お前は持ち上げるな。アズーロ、開けてやれ」


 どこか自慢げに、偉そうにそう指示してくるクィブラーに若干のイラつきは覚えるが、リルの前で喧嘩をするわけにもいかない。

 リルの隣に座り、恐る恐るリボンを解き。…全員が言葉を失った。


「極上の霜降り肉だ。贔屓の店で良いものがあった」


 至極満足そうに頷く男に、全員が可哀想なものを見る目を向ける。

 と言うか贔屓にしている肉屋がある子爵家次男とは。

 何にしろ、六歳の女の子の誕生日プレゼントに霜降りはない。

 貴族ってもっとセンスがいいはずでは。

 貴族出身の団長バーナードに視線で助けを求めると、凶悪な形相で震えていた。

 

(あっ、笑うの堪えてる)


 バーナードの笑いの沸点は低い。

 思い切り笑いたいのだろうが、直属の部下ならともかく他団の団員が真面目に選んだプレゼントを笑い飛ばすわけにもいかんと必死で我慢していてあの表情になったのだろう。


 そして、そんなセンスの欠片もないプレゼントをもらったリルの反応は。


「うわぁ…、うわぁああ! すごい! こんなおおきいおにくはじめてみた! おとうさん! すごいねぇ!」


 驚くほどの食いつきである。

 大きな黒目を輝かせて振り返ってきた娘に、さすがのカイルも驚いた。


「おお…、大きいな。でもリル、そんな肉好きだったか?」


 ハンバーグやベーコンなどは好んで食べる子だが、さすがに生の塊肉にこれほどの反応を示すとは思わなかった。


「えっとね、これだけあったら、おとうさんとみんなといっしょにたべられるよ!」


 えっ、可愛い。


 全員がそう思った。

 リルは、体力勝負の仕事である騎士団員たちが肉を好むことをよく知っているのだ。

 自分より皆の事を考えるリルは、本当に天使じゃなかろうか。


「おにいちゃん、ありがとう!」

「ふん。しっかり食べて大きくなるが良い」


 偉そうな返事だが、少し耳が赤くなっている。

 何だこいつ割と良い奴じゃん、と第三騎士団員たちは少しだけ考えを改めた。




 この後用事があるからとブリーズ・クィブラーが帰った後、入れ替わるようにやってきたのはヘリオス・ロベインだ。

 先日、父が世話になった礼にと訪ねてきた彼は、あれから時々顔を出す。

 カイルとも、少しずつ気安い関係になりつつある。


「リル嬢。誕生日おめでとう」

「ありがとー!」


 にっこにこのリルの頭を優しく撫でると、懐から小さな緑色の箱を取り出した。


「お祝いのプレゼントだ。気に入るといいが」

「なんだろ。…うわぁ、きれい」


 先程の塊肉とは違い、しみじみと発された言葉は感動しているような響きを帯びている。

 カイルもプレゼントに目をやると、箱の中には小ぶりの羽根ペンが納められていた。

 白の中に筋のように入っている金茶色は、まるでリルとカイルの髪色のようだった。


「字の練習をしているんだろう? 宰相閣下に勧められた文具店で子どもの手にも馴染むと勧められてね」

「うれしい…。うれしい! ありがとう!」

「ありがとうございます、ヘリオス様」


 カイルもリルを抱き寄せながら頭を下げる。

 ヘリオスは照れたような笑顔を浮かべた。



 夜も食べて飲んで、笑ってはしゃいで。

 リルにとっては夢のような時間で、幸せな気持ちのまま、父親の腕の中で眠りについた。




「リルちゃん可愛かったなー」

「リルちゃんを愛でるキティとセインもめっちゃ可愛かったぞ。二人の誕生日もこれからやろう」

「それにしても、俺のプレゼント喜んでたわー」

「何言ってやがる、俺のほうが反応よかったね」

「こらこらお前たち、私の贈り物のほうが嬉しかったに決まっているだろう」

「は?」

「あん?」

「やんのかコラ」


 談話室で宴の片付けをしていた団員たちがその後大喧嘩に発展し、メアリとバーナードにしこたま怒られた事を、リルは知らない。



ブリーズがプレゼントを買ったのはもちろんあの肉屋です。

同じ貴族でもブリーズとヘリオスのセンスの違いを感じていただけると嬉しいです笑

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