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彼女とメガネのおにいさん2


「いやあ、こんな短いスパンで二回も王都に行けるなんて」


 そんな浮かれた声を上げたのは、ヘリオスの向かいに座る若い侍従、アーヴィンだ。

 彼は普段、ヘリオスの義父の側で仕事を勉強しているが、行く行くはヘリオスの側近とする意向のようで、今回の王都行きに同行することとなった。

 器用で優秀だが、大変明るくお喋りなので、黙々と仕事をするタイプのヘリオスとは、あまり合わないのではと感じている。

 義父に言ったこともあったが、異なる性質だからこそ互いに無いものを補えると返された。


 ヘリオスとアーヴィンがいるのは、王都に向かう伯爵家の馬車の中だ。

 これからしばらく、王都にある伯爵家のタウンハウスで暮らし、日中は城にて仕事をすることとなる。

 貴族の馬車らしく揺れの少ないふかふかの座席の上で、アーヴィンは目を輝かせていた。


「花の祭礼の時は、あんまり王都見物出来なかったんですよね。旦那様と最終日出掛けましたが、人がすごくて買い物終わった途端に旦那様が帰るって言い出すから」


 よくもまあ聞いてもいないことをぺらぺらと話し続けることが出来るものだな、と考えた後、何かが引っ掛かる。

 花の祭礼、六日目までは義父の様子は普通だった。

 上の空になったのは、最終日だった。


「……義父上と町に出たのは、お前だったか」

「ええ、そうですよ。いつもは奥様とお出掛けされますが、奥様はほら、ヘリオス様の身支度にお忙しかったので、このアーヴィンが一緒でしたよ。恋祭り当日に、恋人のいない私がね!」


 私かわいそうアピールをしてきたが、そこはどうでもいい。

 さらっと流して、ヘリオスは気になることを尋ねる。


「その時、町で何か変わったことはなかったか?」

「変わったことですか? うーん特には…、あ」

「何かあったのか」


 ヘリオスが眼鏡を押し上げて眉を寄せると、アーヴィンは手を振って笑顔を浮かべた。


「いやいや、大変可愛らしいお嬢さんと知り合ったんですよ。旦那様が珍しく気にかけていらっしゃったので」

「お嬢さん? おいまさか、義母上という方がありながら」

「あー、違う違う勘違いですヘリオス様。お嬢さんって言っても五、六歳の女の子ですよ。花屋で旦那様が落としたカフスを届けてくれたんです。まあその後迷子になって、結局一緒に花屋まで引き返したんですけど」

「ああ、そういうことか…」


 浮気でなくてよかったと心底安心したが、それほど子ども好きでもない義父が気にかけていたというのも珍しい。

 そんなことを考えていると、アーヴィンがふと思い出したように「そういえば」と口を開いた。


「その子の名前聞いた後から、ちょっとおかしかったんですよね、旦那様」

「おかしかった?」

「ええ、父親のこと聞いたり、母親のことその子が口に出したときちょっと雰囲気怖かったり。それで、もしかしてその母親と旦那様が知り合いだったのかなと思いまして」


 父は年に一回から数回、仕事や王家の夜会のために王都へ来ることがあるので、王都に知り合いがいても何の不思議もない。

 しかし、その子どもが貴族なら納得できるが、そもそも貴族家の令嬢なら必ず護衛が付く。迷子になるなど考えにくい。


「その子は貴族か?」

「いえ、違うと思いますよ。名字はありましたが、聞いたことのない家名でした。騎士団寮に父と住んでいると言っていたので、父親が騎士になって名字をもらったのかと」


 この国の平民のほとんどは名字を持たない。

 王家と貴族家、そして王城で仕事を与えられた者や王家に仕える者には名字が与えられ、その家族も名乗ることが許される。

 騎士は王家に仕える者であり、見習いから正騎士となった時に名字を名乗ることが許される。

 つまり、父親は平民上がりの騎士ということだろう。


「まあ騎士なら義父と知り合っていてもおかしくはないが…、待て、お前さっき、母親と知り合いだと言ったか?」

「ええ、会話の流れからして。ですがその子の母親は、どうやら亡くなっておられるようです」


 ヘリオスは座席に深く座り直し、足を組み替えた。

 母を亡くした騎士の娘。

 義父の墓参り。

 何かが繋がりそうな気がした。


「アーヴィン。その子の名前は覚えているか?」

「ええ、覚えていますよ。仕事柄、記憶力はいいんです」

「それは知っている。名前を教えろ」

「えー、もしかして気になるんですか? 結婚相手にはちょっと年下過ぎません?」

「ほう、職を失いたいのか」

「あーちょっと、冗談ですよ冗談!」


 全くもう、と口を尖らせた後、アーヴィンは言う。


「リル・アズーロです。金茶の髪にくりくりの黒目の、可愛いお嬢さんでしたよ」





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