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彼女とメガネのおにいさん

今回はちょっとまじめです。


 最近、父の様子がおかしい。

 正確には義理の父だが、厳格で頑固者だが領民を大切にする、尊敬して止まない義父の様子が、どこかおかしい。



 『花の祭礼』最終日に実施される、未婚の貴族令嬢令息のための夜会に出席するために、義父と義母、そして伯爵家に養子に入ったヘリオス・ロベインの三人が黒狼国の王都へ赴いたのはつい先日だ。

 初めての王都にも関わらず、始終義母から令嬢へのアプローチ方法を指導され、結局夜会以外でタウンハウスを出ることすら叶わなかった。

 王都に浮かれるようなタイプでもないので、それ自体は構わないのだが。

 さらに言えば、結局夜会で目ぼしい出会いがなかったことも別に構わない。全くもって気にしていないのだが。

 気になるのは、義父だ。


 最終日の昼間、義父は必ず義母へ贈る花を買いに行くらしく、従僕を連れて出掛けていた。

 義父が帰ってきた頃にはヘリオスは夜会へ出発していたのだが、夜会が終了して父と会った時から、少しの違和感を感じた。


 どこか、心ここにあらずという様子なのだ。

 夜会はどうだったかと聞かれはしたが、ご令嬢と縁を結べなかったことに苦言を呈するでもなく、現宰相閣下と交流する機会に恵まれ、しばらく自分の元で働いてみないかという大変光栄な誘いを受けたことにも思っていたような反応は得られず、「そうか」という返事だけだった。

 ちなみに義母は、それぞれに打てば響くとはこういうことかと言わんばかりの反応を頂いた。そして宰相閣下に良いご令嬢を紹介してもらいましょうと意気込んでいた。


 一旦領地に戻ったが、それからも義父はどこかぼんやりとしていることが増えた気がする。

 義母は何か知っているのかと聞いてみると、どうやら義父から何かを聞いたらしく、しかしヘリオスには教えてくれなかった。

 ただ柔らかい笑顔で「いろいろあるのよ」とだけ言われ、釈然としない気分を味わう。



 

 そして宰相閣下の元で勉強させて頂くため、王都へ再び発つ前日、父が外出していくのを二階の自室の窓から見掛け、思わず後を追うと、その行き先は隣の領地にある共同墓地だった。


 共同墓地には、身内のいない者や身元の分からない遺体が埋葬されている。どこか不規則に並んだたくさんの墓石には、名前が刻まれているものと何も記されていないものが混在している。

 義父は、その内のひとつに近づき、しゃがみこんだ。

 途中で買った黄色い花弁の可愛らしい花のブーケを、そっと供える。

 墓石に向かって何かを話しかけているようだったが、義父に見つからないよう距離を取っているヘリオスには何も聞こえない。だが、あの黄色いブーケを見たときに分かってしまった。

 

 あの墓は、亡くなった義父の実の娘のものだ。

 もう六年ほど前になる。

 本来なら彼女が婿を取って伯爵家を継ぐはずだったのに、娘は勘当された。その後娘がどうなったのか、ヘリオスは聞かされていない。そしてその二年後に、娘の従弟に当たるヘリオスが、伯爵家の養子となったのである。

 ヘリオスは、四歳年上の従姉であるリーナを好ましく思っていた。幼い頃から真面目で融通の聞かないヘリオスのことを、嫌がることなく可愛がってくれた。

 だから、リーナが勘当されたことは衝撃だったし、まさか伯爵の妹の次男である自分が、その後釜に付くことになるなど、考えたこともなかったのだ。

 伯爵家に来てすぐ、ヘリオスは義父母にリーナのことを聞いた。

 実の両親からは、リーナのことには触れるなと言われていたが、気になると突き詰めずにはいられない性分であるヘリオスにそれは無理な話だった。

 義父は「あれのことは忘れろ」と言って席を立ってしまい、義母はどこか目を潤ませて、ただ困ったように微笑んだ。

 直接聞いたわけではないが、愚鈍ではないヘリオスはその様子で察してしまった。


 リーナはもう、この世にはいないのだと。



 義父はしばらく墓石の前にいた。

 やがて気が済んだのか、立ち上がって振り向いたときには、いつもの厳めしい、だがどこかすっきりしたような表情をし、墓地を去った。


 義父が去ったのを確認してから、ヘリオスは墓石に近づく。

 その墓石にはヘリオスの予想通り、「リーナ」と刻まれており、墓石の前には、彼女が生前一番好きだと言っていた、黄色くて可愛らしい花が柔らかい風に揺れていた。


ヘリオス・ロベイン君は十七歳。

銀縁メガネをかけたインテリ系令息です。

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