彼女とお祭り1
『私、いつかあなたに花を贈りたいわ。そうしたら、もらってくれる?』
この時期になると必ず思い出す、彼女の言葉。
あたたかな笑みを浮かべる彼女に、何も答えられない自分の事までも思い返し、何度も後悔する。
あの時、自分に正直に返事をしていたら、何かが変わっていたのだろうか。
リーナ。
今俺が赤い花を贈ったら、君は受け取ってくれるだろうか?
「おまつり?」
「そう。花の祭礼っていってね。この国ではとても有名なんだよ」
首を傾げて聞き返したリルに、メアリは笑顔で応じた。
花の祭礼は、この黒狼国で最も有名なお祭りだ。
昔々、この国に繁栄をもたらしたとされる「緑の魔女」と呼ばれる女性の婚礼の際、国中に花吹雪が舞い、枯れた木は息を吹き返し、季節外れの花々が芽吹いたという伝説から、毎年春に行われる祭礼である。
祭りの期間は一週間にも及び、国中に生花や造花が飾られ、人々はその身にも花を添える。
そしてこの祭りの最大の見所は、最終日の「恋祭り」である。
恋人や伴侶がいる男女は赤い花を身に付け、愛する人と過ごす。
そしてまだ相手のいない男女は白い花を身に付け、「花祭り」に意中の相手へ、自分の白い花と赤い花をリボンで結んだものを贈り、相手がそれを受け取って花とリボンを身に付ければカップル成立、というイベントである。
実際にこの時期には毎年多くのカップルが誕生しており、若い男女にとっては一大イベントだ。
リルは目をキラキラさせてその話を聞いている。
「すごいねー! あのね、リルのまえのおうちでもおはなをかざったり、おはなのおかしをつくるひがあったのよ!」
「ああ、きっとそれも祭礼だよ。地域によって規模は違うからね」
王都の祭礼は非常に規模が大きい。
城下町全体で花を飾り、一週間ずっと屋台が出たままで、花売りは大量の花を持って練り歩く。
国内のみならず、他国からも商人や旅行者が集まり、それはそれは盛り上がるのだ。
王城では最終日である「恋祭り」に、未婚で婚約者もいない貴族令息令嬢のみが参加する夜会が開かれ、他国の王族・貴族までもが参加する。
この一週間の黒狼国、得に王都周辺の経済効果は凄まじいのだ。
「とは言っても、人が増える分、乱闘や犯罪も増えるから、騎士団はあまり浮かれてばっかりはいられないんだけどなー」
そうぼやいたのはアルフォンスだ。
非番のアルフォンスは、ようやくリルと遊べるとあって機嫌が良く、談話室でリルを膝に乗せている。
同じく非番のカイルがその様子をじっとりと睨んでいるが、リルが嫌がっていないので静観している。
「えー? じゃあおとうさんもずっとおしごと?」
リルが眉を下げてカイルを上目使いに見つめる。
うん、可愛い。
「最終日はなるべく未婚の奴に休み回すから無理だろうけど、期間中も順番に休みは回すから、どっかで屋台巡りするか」
「うん!」
「リルちゃん、子どもたちはお祭りの間、花冠をつけるんだぞー。似合うだろうなぁ」
「はなかんむり?」
花の祭礼は、最終日があまりに有名で他国にはあまり浸透していないが、子どもたちは黄色と白の花冠をつける習慣がある。
一週間ずっとつけるので、造花で作られたものがたくさん販売される。
もちろん手作りする者いるし、裕福な家の者は毎日生花で作ることもあるので、ニーズに合わせて様々な造花や生花が売られている。
「リル、そろそろ花を売り始める時期だし、次の休みに花冠の材料買いに行くか」
「え、カイル作るの?」
意外そうにそう聞くアルフォンスに、カイルは苦笑する。
「うーん、正直、作り方うろ覚えなんだけど、初めて一緒に迎える祭礼だからなー」
「やだカイルいいパパ!」
「茶化すなよ」
「リルつくるぅ!」
リルは嬉しそうにアルフォンスの膝の上で万歳する。
そんなに嬉しそうにされたら、カイルとしても俄然やる気が出ると言うものだ。
「冠に合わせて、新しいワンピースも買うか。黄色の」
「えー!? ほんとう!?」
「うわあデレッデレじゃん」
「うるさいアル」
「いいじゃないか。年に一回だし、おめかしするといいよ」
メアリはうんうんと頷いている。
父娘の仲が良い様子に満足しているようだ。
花の祭礼まで、あと十日。




