彼女のライバル?7
「な、な、そん、そんなはずは」
「第三騎士団の全員が平民ではない。世間的にも常識だが。随分と思い込みの激しい小娘だ」
「団長、」
「カイル、すまんな。ルード伯爵から相談は受けていたんだ。何とか抑えると伯爵が言っていたからお前の耳には入れずにいたんだが、まあこれは無理だな。まるで鉄砲玉だ」
「いえ、俺は助かりましたけど…。知ってたんですね?」
「うん、まあ」
バーナードの申し訳なさそうな表情に、カイルは大きくため息をついた。
リルとの生活に水を差したくなかったであろうバーナードの優しさが嫌というほど理解できるカイルに、彼を責める気など全くない。ないが、せめてこういうことになる可能性があるなら知らせておいて欲しかった。
「とりあえず小娘、帰れ」
「ひっ」
「従者君、小娘から八つ当たりされたら、俺か伯爵に言っちゃっていいぞ。奥歯がたがた言わせてやるよ」
「ひいぃ!」
小娘には些か刺激的な脅し文句に、もうご令嬢は倒れそうだ。
権力を振りかざす人間ほど、自分より上の権力を持つ者に目をつけられることに恐怖を感じるのは、至極自然なことに思える。
ペネロペは典型的な「小物」なのだろうと、失礼なことを考えてしまった。
その時。
「あの、終わりましたか」
開いた扉から顔を覗かせたのは、セーラだった。相変わらずの無表情である。
セーラが現れた途端、真っ青なペネロペは彼女にすがり付いた。
「ああ、セーラ! 助けてちょうだい、あなたここで働いていたんだから、団長様に許して頂けるようお願いして! ね!?」
カイルは、セーラがペネロペと既知だと知り瞠目する。
すると、カイルの隣にいた団長が教えてくれた。
「セーラは伯爵んとこの使用人でな、小娘にはカイルとリルを引き離せと命令され、伯爵にはある程度言うこと聞いてから無理でしたって報告すればいいからという懇願を受けたかわいそうな子だ」
「なるほど気の毒ですね」
というか伯爵、全然何とかなっていないではないか。
セーラのような若い娘に無茶振りするとか、ひどい話だ。
「報酬がよかったらしい」
しかしセーラは強かなようだと考えを改める。
そしてペネロペに更なる無茶振りをされたセーラといえば。
「お断りします」
「な、何故ですの!?」
「お嬢様をかばって、私に何の得が?」
「これまで目をかけてやったのに!」
「お嬢様には面倒事を押し付けられた覚えしかございませんし、そもそも私のお給料払っているの伯爵様ですし」
「ひどいわ!!」
「そんなことを仰るお嬢様には、お前が言うなという言葉をお贈りさせていただきますね」
うん、セーラは間違いなく強かだ。
泣きわめくペネロペをそのまま放置し、セーラはカイルと団長に向き直る。
そして深々と頭を下げた。
「この度はご面倒をお掛けしました。この件に関しましては、私から伯爵に報告させていただいた上で、お嬢様に対し然るべき対応をするよう進言させていただきます」
「いや、セーラも大変だな…」
カイルの思わずといった呟きに、バーナードも深く頷く。
「ほんとそれな。こっちは寮で働いてもらえて助かったし、セーラが頭下げることないんだぞー?」
バーナードが気安くセーラに笑顔を向けると、頭を上げたセーラはバーナードをじっと見つめる。
これまで目が合わなかったバーナードは少し驚いた。
「では団長様、私を雇っていただけませんか?」
「えっ」
「もちろんこの件の報告を行い、伯爵から然るべき報酬を受け取ったあとからになりますが、元々そろそろ転職を考えておりましたので」
「あ、そうなのか? でもうち、伯爵家ほど給料良くないぞ?」
「構いません。ここには、お金で買えない貴重なものがございます」
「え、それなに?」
そこでセーラは一度言葉を止め、自分の口許に人差し指を当てて僅かに微笑んだ。
「秘密です」
そう言い捨てて、泣きわめくペネロペの首根っこを掴み、おろおろするだけの従者を引き連れて、セーラは振り返ることなく寮を出ていった。
この一連の事態にぐったりし、応接室のソファに深く腰かけて大きなため息をついたカイルは、団長にこんなことを聞かれた。
「うちの金で買えない貴重なものってなんだ?」
「いや知りませんよ」
秘密です、と言ったセーラが思いの外可愛らしく、年甲斐もなくときめいてしまったバーナードだったが、その後回復したリルから思いがけない答えを聞いて、何とも言えない気持ちを味わうこととなる。
「セーラおねえちゃんね、きしのみんなのキンニクがだいすきなんだって!」
まさかの筋肉だった。




