彼女のライバル?5
ペネロペは決意した。
自ら行動をしようと。
使用人であるセーラを第三騎士団寮へ送り込んで早一ヶ月。
セーラからの報告は「カイル・アズーロと娘の絆は強く、娘を引き離すのは困難である」という、ペネロペが到底納得できないものであった。
さらに、「下手に娘に手を出すと、カイル・アズーロだけでなく第三騎士団を敵に回しかねない」ともあった。
「使えない使用人ですわね! 平民混じりの第三騎士団の不興を買うから何だと言うのです! そんなものは権力で黙らせれば良い話ですわ!」
意中の人物であるカイル・アズーロもまた平民であることは都合良く忘れ、元王子妃候補としての傲慢さを拗らせた発言を、しかし咎められる者はこの場にいない。
何とか娘を諦めさせようとしてきた父伯爵は、現在公務で王城へ上がっているためだ。
「こうなったら、私自ら乗り込みますわ! 娘に手を出せぬと言うなら、カイル様の方を篭絡してしまえば良いだけのこと。私に夢中になれば、お荷物の娘のことなどすぐ忘れますわよ!」
ペネロペはどこから来るかわからないその自信を以て、意気揚々と第三騎士団寮へと向かうための馬車を手配した。
その日、カイルは非番だった。
リルと買い物に行く予定だったのだが、朝起きるとリルに熱があり、ずっと部屋で過ごしている。
「ううう、おとうさぁん。おかいものにいきたいよぅ」
「よしよし、今日は我慢な。元気になったら一緒に行けるから」
「キティとあそびたいよぅ」
「キティもセインも風邪引いて、今日は来てないよ」
どうやら昨日、鼻をぐずぐず言わせていたセインからリルとキティに移ってしまったらしい。二人も今日は熱が出て、家でぐずぐず言っているそうだ。
最初こそ取り乱したカイルだが、メアリとセーラが何でもないことのようにてきぱきと看病の体制を整えてくれたおかげで、随分冷静になれた。
実際リルは熱があるとは言え、食欲もあるし動きたがる。
その様子に加えて、子どもはよく熱を出すし、割とこんなもんだよとメアリに言われれば落ち着きもするというものだ。
メアリとセーラが寮にいて、何かあればすぐ助けを求められる状況にあることも大きいだろう。
「リル、少し寝な。好きな絵本読んでやるから」
「うん…。しゅうかくさいのおはなしがいい」
「いいよ」
リルの大好きな絵本『もりのどうぶつ』シリーズは、今や全四巻揃っている。
『はるのもりのおはなみ』『なつのもりのてんたいかんそく』『あきのもりのしゅうかくさい』『ふゆのもりのだいぼうねんかい』の四作品が並んでいる本棚から、リクエストの収穫祭の巻を手に取り、リルの横に寝そべった。
収穫祭の話は、リルの好きなキツネのキャラクターの出番が多く、今では一番のお気に入りとなっている。
いつもより低い声でゆっくりと読み上げると、ほどなくしてリルは寝息を立て始めた。
カイルはほっと息をつき、娘の柔らかな金茶色の髪を優しくすいてやる。
体が辛いのかいつもよりぐずっているが、この調子ならすぐ元気になるだろう。今日がたまたま非番で本当に良かったと内心で安堵の息をついていると、カイルの部屋の扉が控えめにノックされた。
リルを起こさないようベッドから身を起こし、扉を開けると、そこには同じく非番の後輩騎士が申し訳なさそうな表情を浮かべて立っていた。
「カイルさん、すみません。実は…、ルード伯爵のご令嬢がいらしていて、カイルさんに会わせて欲しいと」
カイルは眉をひそめた。
ペネロペ・ルード伯爵令嬢は、以前お忍び中に迷子になっているところを、勤務中に助けたことがある。可愛らしい娘ではあったが、迎えに来た男性使用人への態度が何というか、大変に貴族らしいもので、内心で「関わりたくねえなあ」と思った記憶がある。
そして同時に、同じように伯爵令嬢だったリーナがいかに気立ての良い女性だったかを再認識したものである。
「リルちゃんが寝込んでるし、今は忙しいと言ってみたんですが…、身分を出されると平民出の僕ではちょっと…。今日に限って団長や貴族位の団員もいなくて」
申し訳ないです、と眉を八の字にする後輩の肩を軽く叩いた。
「いや、悪い嫌な思いさせて。俺が行くからちょっとの間リル頼めるか?」
「もちろんです。ご令嬢は応接室です」
「わかった」
カイルは一度リルの所へ戻り、眠る娘の額に軽く唇を落としてから、応接室へ向かった。
心底面倒くさいなあ、と思いながら。




